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■大河ドラマ『光る君へ』第28話「一帝二后」感想―私の半分はあなたで、そして、あなたの半分は私でできていたのね

いや、もうね。
第27話ラストにあった予告編で、伊周兄ちゃんが号泣していたから何となくの予感はあったんです。

しかも、当日「早君」した方々のつぶやきが不穏過ぎて、もう既にヤバみしか感じることができず……超どきどきしながら本編をリアタイ視聴したら。

わりと早い段階で、「長保二(1000)年」の表示が出てきたので、「うわぁああ」となっていたところに、最後の最期で、定子さまがうつくしいまま儚くなられてしまい……映像ではほとんど泣かない私が、マジで泣きかけたのでした( ノД`)シクシク…

中関白家の最後の輝く日の宮が……(号泣)

でもでも! この記事を書く前に、敦康親王さま成体……成人したお姿が今後ご出演になることが発表されましたし。次回のタイトルが「母として」とあるからには、おそらく彰子さまの元へ敦康親王は預けられましょうし。

ワタクシ、負けませんことよ(何に)

というわけで、どんなわけだか分かりませんが、第27話の感想はコチラです。

ではでは、悲しみに暮れる、今日も全力中関白家推しな第28話の感想、行ってみましょう!


■今日の中関白家

■彼を想うからこそ

「お上はお上であられる」
だからこそ、一般庶民と同じ感覚でいることは許されないと、行成は一条天皇に迫ります。

「お上がお上であること」。普通の人であれば、つまり「お上」でさえなければ、公的な自分と私的な自分を分けることは容易に許されます。しかし、「お上=天皇」は違います。そんな切り分けは、はなから許されていない存在なのです。

「お上=天皇であること」は、「公的/私的」といった境界線のある話ではないのです。そうではなく、「天皇」は、24時間365日どの時間であろうと、どんな状況であろうと「天皇」でなくてはならないのです。そうでなくては、世を統べることなど到底できない。この時代はそのように考えられていました。

そして、かなしいことに、一条天皇は「賢帝」でした。後の世で、「聖代」と称されるほど丁寧な政を行なった帝でした。だからこそ、自分のわがままはこれ以上許されないと……誰よりも理解していたのです。

でも、そう理解する「理性」と、定子さま一人を愛する「感情」とは別モノであって。普通の夫であること、もっと言えば、ふつうの人間であることさえ許されない現実に引き裂かれそうになっていました。

だからこそ。

そんな一条天皇の痛み、苦しみを誰よりも理解していたからこそ、定子さまは一条天皇に語りかけるのです。

「お上の苦しみより、己の苦しみに囚われていた」と。
「家のために入内したのだ」と。
「すべては偽りだったのだ」と。

そうして、彰子さまとご一緒のときは、私のことを考えたりしないようにと、涙の笑顔で伝えるのです。

定子さま、ほんとうなら、こんなかなしいウソを伝えたいなどとは思っていなかったと思います。

私だけを愛していてほしい。
私にはあなたしかいない。
だから、ふたりで笑い合って、私だけを見ていてほしい。

でも、そんな本音を伝えたところで、帝の立場が悪くなるだけであり。これ以上「悪政」とみなされる状況が続けば、外戚が弱く、また、皇太子の方が年上である現状の一条天皇は、公卿たちによって排斥される可能性さえ出てきてしまう。

だからこそ、定子さまは一条天皇に静かに「偽りの本音」を語りかけるのです。

ですが、一条天皇は、定子さまの思いやりを受け止めた上で、「偽りでもかまわない」とすべてを丸ごと抱き締めてしまいます。

そう考えると。

このお二人こそ「比翼の鳥、連理の枝」ですよね。二人で寄り添いながら、なんとか現実という急流を生き延びてきた。それぞれに地獄を背負いながら、それでも離れることなどできず、手を取りあって生きてきた。

ですが、運命……なんて言葉では軽すぎるほど残酷に、完膚なきまでに、二人は永遠に引き裂かれてしまうのです。

■そして、彼女は

定子さまは、第二皇女である媄子内親王を産み終えたものの、後産がおりず、そのままはかなくなられました。長保二年師走のことでした。

夜もすがら契りしことを忘れずは恋ひむ涙の色ぞゆかしき

この歌を一条天皇に遺して、彼女はひとりで逝ってしまったのです。ききょうさまが仰るとおり、定子さまはおそらく自身の命運の尽きることを感じ取っていらっしゃったのでしょう。

一晩中、ご一緒にすごしたことをお忘れでないなら、死んだ私を恋しく思って流す涙の色を知りたいものです

ほんとうに激しい恋の歌だなと思います。私を忘れないで。ずっと恋しく思っていて。生前、あれほど彰子さまを慮っていた定子さまが、最後の最期で見せた恋心は、おそらくこれ以後の一条天皇の心を縛り続けるのでしょう。

・ ・ ・

この最期の場面の前、ききょうさまと定子さまがふたりで笑い合っていらっしゃいました。それは、ほんとうにうつくしくて、温かで、すてきな場面でした。

あなただけが私を分かってくれた。そうして、丸ごと全部支えてくれた。

『光る君へ』では、まひろっちと道長どんが「ソウルメイト」という絆で描かれますが、ききょうさまと定子さまも「ソウルメイト」だよねと思うのです。あるいは、お互いにとってお互いが「光る君」であった、と。

華やかなときだけでなく、後ろ指を指されるような状況に陥っても、ききょうさまが変わらぬ愛を定子さまに注ぎ続けたこと。それがあったからこそ、定子さまはご出家なさっても「この世」に留まられたのだろうと思うのです。

定子さまの傍に、ききょうさまが居て、ほんとうによかった。

これは想像でしかありませんが、おそらく定子さまご逝去の瞬間を、ききょうさまは目に焼き付けられているでしょう。

以前、書いたことがありますが、出産は「血の穢れ」を伴います。だからこそ、すべて白い装束で迎えるわけですが。後産がおりずに亡くなった定子さまの最期は、きっとすさまじいものであったと想像します。

ききょうさまはそのすべてを受け止め、亡くなられた後も「定子さま」をうつくしい皇后として遇し、整えたのだろうと……定子さまの最期のお姿は、ききょうさまのすさまじい胆力と、果てしない愛の結晶だったのだろうと……そんなことを思ってしまうのです。

そうして、彼女はうつくしい定子さまを忘れないため、供養するため、『枕草子』を綴り続けるのでしょう。

生き残ることは本当に残酷で。ここから、一条天皇もききょうさまもすさまじいまでの喪失感を抱えながら、這這の体であろうと、生き延びることを強いられます。

一方で。

■そういうとこやぞ

定子さまが媄子内親王を産み、亡くなったと知ったときの伊周さまがもう……何というか、「ちょっ、おま、それいう?」な感じで……

定子さまがこうなったのも、もとはと言えば、あんたが原因やん! とテレビの前で突っ込んだ方も大勢いらっしゃるのではないでしょうか。えぇ、私もメモに「伊周さま、たぶん、それ違う」と書いていました(滝汗)

伊周さま、来週の予告編でも道長さまにものっそい呪詛をかましてますが……いやはや、この斜めに爆走する復讐心を違うところで燃やせば、きっとよい政治家になれるのに……伊周さま、全国から「そういうとこやぞ」と突っ込まれるダメンズ道を邁進されています。

そう考えると、廂で物思いにふける隆家どんのオトコマエ度がさらに爆上がりするわけで……少しずつ欠けてく家族にいちばん丁寧に繊細に傷ついているのは、もしかすると末弟隆家どんなのかもしれません。

■今日の彰子さま

■一条天皇のお渡り

第28話では、彰子さまのもとに一条天皇のお渡りがありました。そうして、一条天皇は笛を吹かれます。

そのとき、彰子さまは笛は見るものではなく、聞くものであるとご自分の意見をはっきりきっぱり述べられ、傍に控える女房たちを奈落の底へ落します。

だって。普段はあれほど喋らない主さまが、不意に言葉を発せられたと思ったら、帝に超意見するとか……いやもう、女房たちからすれば、一生分の冷や汗脂汗をかきそうな案件でしかありません。

駄菓子菓子。

そんな正論に論破されたのは一条天皇ではなく、テレビの前の私たちではなかったかと……何となく思ったりなんかもして……(滝汗)

だって。

一条天皇の指が。指が。指が。(大事なことだから3回言いました)

超ほねほねしてて、美しかったのですもの! これが見惚れずにおられましょうか(いいえ、ガン見一択です)。横笛の音色そっちのけで、指をまじまじと見つめていた手フェチがここにいたのでした(*・ω・)/ハーイ

とまぁ、そんな煩悩真っ盛りなワタクシはともかくとして。

一条天皇は、母の操り人形でしかなかった自分と、己の意志というものを持たない彰子さまを重ねます。

愛や恋といった、心のひだひだとしたやわらかな部分はすべて定子さまに捧げてしまっている帝です。

でも、それとは異なるところで、思いやりとかやさしさとか、もしかすると、それも違うのかも知れませんが、兎にも角にも、彰子さまへの眼差しが変化した、つまり、帝の心の表っ面のところに彰子さまという存在が置かれたことは、これからの歴史を考える上で、大きな転機なのではないでしょうか。

ただ、ここから彰子さまが実子(一条天皇第二皇子である敦成親王)を産むまでに8年の年月がかかります。しかも、最初にも書きましたが、それまで彰子さまは定子さまの忘れ形見である敦康親王を育てるのです。そのあたりが、立太子の争いに関わってくるのですが、それはまた後の話。

ですが、そういった少しずつの出来事が彰子さまを「上東門院」へと変化させていくのだと思うのです。そうして、その階梯の一つとして、第28話では立后の儀が描かれました。

■立后の儀

長保二年如月に彰子さまは中宮に立てられます。

大河ドラマ『光る君へ』のすてきなところの一つに、文字でしか知ることのなかった朝廷の儀式を映像として見られることが挙げられます。たとえば、即位の儀や、陣定など。ですが、この立后の儀の絢爛な壮麗さはほんとうにすばらしくて! 思わず「立后だぁ…」とひとりごちてしまったほどでした。

なのですが。もう一つ。

このときの、彰子さまのだるそうな虚無った表情がかなりツボで(笑)

というか、演じられている見上愛さんって23歳の役者さんなんですよね。でも、彰子さまってどう見ても12歳とか13歳で……役者さんってすごい! と感嘆するばかり。

しかも、この絵巻物のような豪華な場面で、あの虚無な表情。いやぁ、もう笑いました(笑)

でも、ここまで虚無な表情をする彰子さまが、笑顔になられる瞬間はどんな状況で、誰と一緒なのだろうと逆に期待しちゃいます。

うん……彼女の辿る人生も過酷です。生き永らえるからこそのかなしみを彼女は全部背負います。そんな彼女の行く末もしっかり胸に焼き付けたいと思うのでした。

■まとめ

じつは、ここからさらに「うるわし男子列伝」を書こうとしたのですが……

今の段階で文字数が4300字を超えているため、今回は割愛いたします(泣)一条天皇については上で語り散らかしてますし、公任さまはマジで一瞬過ぎましたし(号泣) 来週こそは我に癒しを……‼

・ ・ ・

明子さまが倫子さまと対決したとき、兼家パパりんを呪ったときの表情をしていたり、まひろっちは賢子ちゃんに子守唄として『蒙求』を語って聞かせていたり。大河ドラマ『光る君へ』では、相変わらずカオスがそこここに渦巻いていますが。

和泉式部さまや敦康親王さま、田鶴君改め頼通どんのお姿もお披露目されたことですし。次回もみなさんとご一緒に楽しめたら、とても嬉しいです。


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