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近代の小説 / 田山花袋(著)

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2020年10月の記事一覧

第48節

 上田敏氏なども、向う側の潮流の中にいるひとりであった。かれは鷗外氏と合い、荷風氏と合っ…

第49節

 享楽派が次第に芽を出すようになって行った。  私はここにしばらく近松秋江氏や、中村星湖…

第50節

 近松秋江氏は私かなりに古くから知っている。尠くとも明治三十三四年頃から知っている。正宗…

第51節

 私は自分で翻って考えて見た。自分は曽て斎藤緑雨の恋愛観を読んで何う思ったひとりであった…

第52節

「それでは島崎君に対して、君は何う思うね?」  こういつも私の相手になるK君が尋ねた。 「…

第53節

 今、私の机の上には二三冊の新しい小説が載っている。  それは私に取っては、全く知らない…

第54節

 それは昨年の後半期のことであった。私は私の手元にある雑誌や新聞に出ている新しい時代の人達の作を注意して読んだことがあった。私は国民新聞に出ている中戸川吉二(※小説家。里見弴に師事)氏の『北村十吉』を読んだ。福岡日々新聞にでている中村白葉(※ロシア文学者。英訳経由ではなく『罪と罰』をロシア語から訳したものは本邦初。中村融は白葉の娘婿で後に中村姓を継いだ)の『蜜蜂のごとく』(※自伝的小説)を読んだ。それから主婦之友に出ている久米正雄氏の『破船』を読んだ。改造(※)に出ている志賀

第55節

 芥川氏や菊池氏や久米氏が夏目門下であるということは、興味の多いことであったけれども、し…

第56節

 ほっと呼吸を吐いた。そして静かにあたりを見回した。 「そうだね。それは大正三四年頃だと…

第57節

 あたりを見回したときに、文壇に何があったか? 「時」が一番先きに眼についたそうだが、そ…

第58節

 倉田百三(※劇作家。『出家とその弟子』)氏のものは、私は二三読んだだけであるけれども、…

第59節

 この他、今日まで来る間に、いろいろな傾向も起れば、いろいろな作家も出て、すった揉んだが…

第60節

 早稲田から出た人達の中にも、いろいろな作家がいた。相馬泰三氏だの、広津和郎氏だの、吉田…

第61節

 この頃の福岡日々新聞に、前田晃(※翻訳家、小説家)氏が『暁霧』という作を載せているが、まだ半分くらいしか出ていないが、この作者についても、私は一言二言言って見たいと思う。  氏が大正の文壇において、すぐれた翻訳家であることは誰も知っている。かれは難かしい、誰も容易に手をつけることを敢てしないゴンクウルの『ジエルミニイ』を訳した。モウパツサンの『ピエル・エ・ジヤン』を訳した。チエホフの『短篇集』を訳した。イタリイのアミイチイスの『心』を訳した。 『暁霧』は氏の試みに長篇の二番