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私が好きな詩

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#和歌

実朝さん

実朝さん

世の中はつねにもがもななぎさこぐあまの小舟の綱手かなしも

師匠の藤原定家が百人一首に取った歌です。
この歌は小舟が流されて遠くいくの悲しむ漕ぎ手を描いているのですけど、世の中は平穏に動くことが少なくて、むなしいことを歌っていると思っています。世の中のありさまを歌う、こういう感覚が当時でもめずらしい。ものすごい虚無感も感じます。

ものいはぬ四方のけだものすらだにもあはれなるかなや親の子をおもふ

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夜明けの太陽と月

夜明けの太陽と月

 東の野にかぎろひの立つ見えてかへり見すれば月傾きぬ
万葉集
柿本人麻呂

 東の方から夜明けの赤みがさしている。そして後ろを見るとに月が沈む様子が見えるっていう歌だ。今は身近には見れない壮大な風景だ。見てみたいなとしんとした気持ちになる。

 この歌はながい七五調が続く長歌の後に続く。なんでも、故天武天皇の孫である文武天皇が祖母である持統天皇と狩りにいったときの始まりを寿ぐために歌われたらしい。

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みんなの歌からひとりのみんなの歌

みんなの歌からひとりのみんなの歌

春の苑 紅にほふ 桃の花 したでる道に 出で立つ乙女
万葉集
大伴家持
 万葉集では、大友家持が好きだというのはこっぱはずかしい感じがしていた。ちょこっと、かじっているだけだし。

 万葉集はまだ、社会が初々しいころの初めての歌集で古代からの民謡、防人、天皇、いろんな立場の人々の歌が集められている。生活の中に歌がある。そして、なにかしらの祈り、思いをあらわしてように思う。
 

 その中でいろんな

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すぎし日は幻 春の夢

すぎし日は幻 春の夢

津の国の 難波の春は 夢なれや 葦の枯葉に風渡るなり 

新古今和歌集

西行

 西行の歌で有名なもののひとつです。
 大阪出身の私としては、淀川河岸の葦は、元の湿地を開発したしめりけのある故郷の原風景です。
 そうか平安時代でも大阪は葦ある土地としてイメージされてたんだな。それと共に思い出したのは豊臣秀吉の辞世の和歌です。

露と落ち  露と消えにし  我が身かな  なにわのことも  夢のまた

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死と共に生き、そして生き抜く

死と共に生き、そして生き抜く

年たけて また越ゆべしと 思ひきやいのちなりけり 小夜の中山
新古今和歌集
西行

白洲正子の本「西行」を手にとった。そのとき、平清盛と同じ時代を生きた歌人、西行が唯一歌論を語ったのは明恵だったと知った。
中学生のころ新聞で同じ年ごろで「心朽ちたり」と墓場で自殺をはかったお坊様を知った。私も性に目覚めてからどんどん自分がコントロールできない混沌にとまどっていたけど、昔から悩んでいる人がいるんだと初

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私が好きな詩3

私が好きな詩3

大江山 いく野の道の 遠ければ
まだふみも見ず 天橋立
小式部内侍

年下のふたりの親王の恋愛を描いた「和泉式部日記」で有名な和泉式部の娘である小式部内侍の和歌。これも百人一首のひとつ。

心に残っているのは、昔、まんが日本昔話というアニメの中でこの歌を詠んだいきさつが描かれていたからだと思う。

恋多き女性である和泉式部が袴垂という盗賊をやっつけたされる武勇のひと藤原保昌と再婚し、丹波の国府の赴

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