ENMami:エンマミ

1993年生まれ。縄文土器とドキュメンタリーが好き。

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1993年生まれ。縄文土器とドキュメンタリーが好き。

マガジン

最近の記事

言葉を奪うことについて

「今でも覚えている児童書はある?」という話を、近所に住む友人と話していた。友人は三田村信行の『おとうさんがいっぱい』『ウルフ探偵社シリーズ』、私はミヒャエルエンデの『モモ』、松本祐子の『リューンノールの庭』。方向性の違う2人だが、ひとつだけ共通していた本があった。 それはある日不思議な力を受け渡された主人公が妖怪を退治する、という内容の小学校高学年に向けたシリーズものの児童書で、「真っ当な言動をする子供」が「理不尽に染まった大人」に立ち向かう構図が人気を博していた。 子供

    • 「なにものにもなりたくない!だって僕は今の僕で幸せだもん」の元祖みたいな人

      神奈川近代文学館で6月2日まで開催されていた「帰ってきた!橋本治展」に行った。興味を持った理由は暇だったからで、元々橋本治についてはほとんど知らないし調べてもいかなかった。事前に知っていたことといえば「すごく精緻なセーターを編む人」ということくらいかなあ。 本人の頭身パネル以外撮影禁止だったので写真はないけれど、かなりボリュームのある展示内容だった。杉並区の商家(お菓子屋さん)に生まれ、当時東大を中心に巻き起こっていた学生運動を黙殺しイラストレーターとしてデビュー。その後『

      • ずっと誰かに助けて欲しかった

        けれど、ついに向き合わされる。自分の力でしか自らを救うことはできなかった。一朝一夕では無理で、日々の生活を積み重ねること。覚醒した状態で物事を見つめること。その繰り返しによってはじめて自分の中身に近づくことができる。救いがあるとしたらその先なのかもしれない。 カート・ヴォネガット・ジュニアの『スローターハウス5』の中に「ひとりひとりが暇さえあれば死んだ方がマシだと考えている不機嫌な子供」という一節がある。物語に登場する、第二次世界大戦でのアメリカ下士官兵捕虜についての記録に

        • リスボンのトラウマ/引き継がれる記憶

          リスボンを歩いていたらトゲトゲした建物に出会った。 その名もCasa dos Bicos。日本語にすると「くちばしの家」もしくは「トゲトゲの家」といったところらしい。この特徴的なファサードは、元々の持ち主であったインド提督が当時のイタリア・フランスの建築様式を組み合わせて取り入れたものだという。 この建物は16世紀ほどに建てられ、現在はリスボンの歴史を伝える博物館となっている。館内にはCasa dos Bicosが建てられる前にあった、古代ローマ時代の魚醤醸造所や城壁、市

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        • 海外ひきこもり旅
          6本
        • インタビュー記事まとめ
          8本
        • お仕事まとめ
          4本

        記事

          罪悪感を植え付ける装置

          リスボンとバカリャウは切っても切れない関係にあるらしい。 バカリャウとはタラを塩漬けにした干物のこと。ポルトガルで最も食べられている海産物の一つで、街を歩くとその独特な臭気が漂ってくる。 なんとなしに頼んだスープやリゾットにもバカリャウが入っているし、街の商店やスーパーの店内の一角にもバカリャウコーナーがある。何世紀にも渡り貿易面でポルトガルを支えてきた歴史を持つだけあって、リスボンで暮らす人々の生活の中に深く根付いている。 リスボンを歩くと、他にもポルトガルと切り離せ

          罪悪感を植え付ける装置

          【備忘録】3ヶ月の海外旅行のパッキングまとめ

          3ヶ月10カ国を旅するために持っていったもの、持っていかなかったけれど必要だったものをまとめた。海外旅行に役に立つかもしれない、貴重品の防犯対策なども書き留めておく。 基本装備:大きなリュックと小さなリュック 3ヶ月間の旅をするにあたり、最も恐れていたものはロストバゲッジだった。およそ3日、長くても2週間で別の都市や国に移動するため、一度荷物をロストすると二度と帰ってこない可能性がある。そのため可能な限り飛行機内に荷物を持ち込もうと、背中に大きなリュック(50リットルほど

          【備忘録】3ヶ月の海外旅行のパッキングまとめ

          アバンチュールと脱走

          I like your eyes. は世界で一番手軽な口説き文句だ。モロッコで3回言われた。 一度目はマラケシュの市場で、二度目はバスツアーで、三度目はツアー中に宿泊したホテルで。三度目ともなると言われた瞬間に、ああカモとしてロックオンされたのね、と納得できてしまった。 旅行先に出会った現地人と一晩のアバンチュールを過ごし、その後恋人同士になる。いかにも映画にありそうなシチュエーションだが、実際の観光地でもよくあることらしい。 三度目は「とっておきの場所で星空を見ません

          アバンチュールと脱走

          少年と鬱屈とキャメルライド

          モロッコの街はサーモンピンクの壁で覆われている。 朝7時にリヤドの扉がノックされ、促されるまま朝日も昇らない街を歩く。マラケシュの旧市街は迷路のように入り組んでいて、車は基本的にメイン通り以外には入場できない。「砂漠ツアー」用のバスが駐車されている道端まで運転手と私、2人分の足音が響く。2泊3日のツアーが始まる。 旅行地にモロッコを選んだのはサハラ砂漠を見たかったからで、そのためにはパックツアーに参加する必要があった。今回行ったメルズーガ砂丘は整った観光地で、宿泊地へ向か

          少年と鬱屈とキャメルライド

          ビジネスのにおいと長電話

          モロッコのマラケシュ空港には、羽田空港からイスタンブール経由で24時間かけて行くこととなった。イスタンブール空港での待ち時間は5時間。文庫本を1冊消化した。 そういえば、タイトルについて語る前に今回初めて乗ったターキッシュエアラインについて記しておきたい。(本題を読みたい場合はスクロールダウンしてほしい)。エコノミークラスでの搭乗だったが、とてもよいサービスだった。 まず機内食。とにかく種類が豊富かつボリュームもあっておいしい。羽田を出発してから13時間で2食、乗り換え後

          ビジネスのにおいと長電話

          海外ひきこもり旅

          はじめに 一人旅に出るからには、徹底して出会いを避けながら過ごしたい。 海外旅行が好き、というと「アクティブですね」「各地のおいしいもの、楽しみですね」「素敵な出会いがあったりとか」といった声をかけられることが多い。実際、国内海外を問わず旅行の一般的な醍醐味は、風光明媚な景色を目に地元の食材をふんだんに使った料理に舌鼓を打つといった、その土地ならではの体験を味わうことだ。その場所の歴史やしきたりに興味を持つのであれば、現地に暮らす人の生活を垣間見るのも一興だろう。通常の旅

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          『Nightout Chat』というポッドキャストを始めます

          「名は体を表す」と言うけれど、複数の名がある場合はどれがそれそのものを表すんだろうね。 「えんさん」「エンマミ」「まどかちゃん」「キリさん」「28番」。どれもがここ5年で私を言い表してきた呼称だった。数々の名前を使い分けながら私がやっていたことは、同じくいくつもの呼称を使い分ける女性たちの取材。いわゆる「裏アカ」「ハプバー」「SM」界隈といった(基本的に)金銭のやりとりなしで、性的な欲望を満たす活動をしている人たちの話を聞いていた。 なぜ行っ(ている)たのか。そんなことこ

          『Nightout Chat』というポッドキャストを始めます

          執着の生まれた先に

          知り合いの配偶者が失踪した。 「もう無理です。心が砕けました」と言葉を残して、現金15万円を持っていなくなった。知り合いは半狂乱になり、不眠不休で24時間秒刻みにスマホの位置検索をしたり警察に失踪届を出したりと手がかりを探し、徒労の一方で何も得られずに憔悴していった。 知り合いの配偶者は、彼女から徹底して逃走していた。スマホの電源を入れるのは2日に1回数分間。誰かと通話するときはスカイプを使用し通話履歴が残らないようにする。彼女との共通の友人や仲の良い親族がいないことも、彼

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          誰かとつながりたい。でもお前じゃない

          4年前から、SM実践者たちの取材をしている。 「女教師からの”お仕置き”」だと、スーツを着た女性に鞭打たれないと安心できない男性。クラブ嬢たちに自作のシナリオを音読させる男性。柔道着にポニーテールの嬢が正拳突きをしている姿を見て絶頂に達する男性。有刺鉄線の上に座り、踏みつけられ、粗雑に乱暴に扱われることで快楽を得る女性。見ず知らずの人にメスを渡し、自分のペニスに縦に切り込みを入れさせる男性。 一般的に「性的倒錯」と言われる人々の話を山ほど聞いてきた。彼ら彼女らは口を揃えて

          誰かとつながりたい。でもお前じゃない

          執筆記事まとめ

          ポップカルチャーメディアKAI-YOU Premiumで携わらせていただいた記事です “ぼくのりりっくのぼうよみ“と”たなか“の2人が伝えたかったことニーチェを理解するためにも、“ぼくのりりっくのぼうよみ“は辞職した ぼくりりから受け継いだ「いろんなもの手放しても幸せになれる」という思想と証明 てんちむ×ゆづき 対談 「映え」時代のサヴァイヴ術自己肯定感とコンプレックス それから変身願望 人の意見に流されるのは仕方がない 「いい女」って何? 「正しいインターネット

          執筆記事まとめ

          魔女に、なるなよ

          この前ね、友人にあったの 大学時代の先輩に。2年ぶりくらいに ほんと久しぶりだったから、近況は〜?とか最近何してる〜?みたいなことを話してたわけ。私は3年で3カ所くらい転職したよとか、今はテレビ局に勤めてるよとか、そんなことを話してたんだけど そしたらいきなり、その友人が「今度僕結婚するんだ」っていって。もうすぐ5年くらいのつき合いになる彼女と一緒になるんだーって、いつもは何考えてるかわかんないような顔してるくせにはっきりと嬉しそうな表情浮かべてさ。少し恥ずかしそうにしてるの それを見てすっかり私も嬉しくなっちゃってさ「めでたい!結婚式するなら招待してよ」って言ったの。ずっと前に買ったベアトップのきれいなドレスがあって、誰かの結婚式のためと思ったんだけどまだ着れてないから式で着させてよって言って 「そんなの自分の式で着ればいいじゃん、付き合ってる人とかいないの?」って話になるじゃん?なっちゃうじゃん? 正直に答えたよ。いるけど結婚する気はない、って。なんで?って聞いてくるから若干うるさいな失敗したなと思いながら、うーん宗教上の問題?とか答えてたわけ そしたら急に据わった目に、脱力したような目になってさ「またたくさんいるの?」って聞いてくるの。今度は何股なの?って。 確かに昔はそんなことしてたねー、なんていいながら早くこの話題変えたいなと思って急に今乗っている車の話をしてみたの。車変えたよね?走行距離どれくらい?まあ予想通り華麗にスルーされて失敗したけれど。神妙な顔してないでよ。少しくらいノってくれたっていいじゃん 「別に誰と何しててもいいけどさ」「いつか落とし前をつけることになるよ」「僕は幸せになりたいんだよね」「君は何がしたいの?」 あーあ始まったと思いながら思い出していたよね。そういえばこの先輩は、大学時代から私に何度も何度も何度も何度もそういう話をして揺さぶってきたなって、その度に私は戸惑ってどうすればいいのか分からなくなって、少し不安になって先輩!って泣きついたなと。幼かったなあ私 詰めて、詰めて、問い詰めて。もちろん私のことだし答えなんてないから結局怖くなるだけだった。そして最後にいうのね「君の好きにしなさい」「自由でいなさい」。ナンセンスだとはわかってたけどとっさに思ったよね「責任放棄かよ!」 だからね先輩、私は自由になることにしたのよ。あなたからも 最近周りに言われるの「楽しそうだね」「自由だね」。皮肉が入っているのもわかってる。だって私は歳はとってもまだ何者でもない子娘。そんなやつが(実力も伴わないまま)自由気ままに(多分周りから見たら自分勝手に)やってたら皮肉のひとつや二つ言いたくなるよね。ああそろそろイタい年頃なんだろうなあ いつか落とし前をつけることになる?わかってるわ。だから一人でいる道を選んだんだ。耐えて強くなる道を選んだんだ。自由は強さを伴わなきゃ効力を発揮しないんだか…あっごめんまた勝手に悦に入ってた。先輩の話に戻すね プロポーズの時の話とか、彼女への惚気話とか聞くのは好きだから何時間でも付き合うんだけど、矛先がこちらに向くとちょっと面倒臭くてさ 先輩の前で何かを話すたびに自分の考えの浅さとか、学のなさとか、ナイーブさみたいなのがにじみ出てくる。先輩はそこをすかさずついてくる。確かめて、ジャッジする。どう判定されているのかなんて聞いたことない。どうせあまちゃんだと思ってるんでしょとやさぐれるし、怖くなって私は口をつぐむ。貝になりたい! 初めて会ったときは1時間と喋れなかったと思うし、3〜4時間一緒にいただけで体調悪くなったりしてたな。今はきっと6時間一緒にいても平気。成長したなー私 「で、最近面白いことないの?」先輩が詮索をやめずに話題を変えてくる。そういうとこだよ本当にやめてと思いながら、答える。 「最近は仕事で目立つことも書きたい企画や人もなくなってきたよ」「で?」「気持ちいいのは首締めセックスくらい」「頭悪くなったのそのせい?」「かもね。でもすっごくいいんだよ、だって…」「もっと自分を大切にしてくれ、頼むから」 えっこの文脈でそれ言う?って思っちゃったよね。普通突っ込むところだろ、深掘りしようよ。どうした?父性にでも目覚めたか??これが幸せを求める力か? 頭がフリーズしてぽけーっとしてた私を見ながら先輩は続ける。あ、ヤバイこれマジのお説教だ 「今、君は自分の体をモノ扱いすることで安心していないか?」「ずっと思っていたけど、記憶に抜けがあるだろう?それが何か知っているか?」「君が恐怖を感じたり焦ると頭が震えるのはなぜかわかる?」「人からの愛情や善意を信じられたことはあるか?」「精神と体が分離していないか?昔に戻ったみたいに」 いやいや。確かに記憶力に難はあるけれど、ここまでじゃないよ。心配してくれてありがとうって思いながら私は先輩の話を聞いてた でも感謝する一方で、いつの時代の話だよとも思ってた。確かに昔私は自分の体をモノ扱いすることは得意だったけど(生活全般ね)首締めセックスの話をしただけで何でこんな過剰に反応されなきゃならんねんって だって… 「何をしてもいいから」「戻ってきてくれ、現実に」 ああなんだそういうことか。私は自分を縛るものから自由になろうとして、現実を捨てちゃってたんだ。非日常が日常になっちゃってたんだ 私の非日常さ、おかしさに惹かれて、人々は集まる。でも非日常はお菓子みたいなものだから、活力にはなっても栄養にはならないよね。食べすぎると毒だし。日常でちゃんとご飯食べて根を張っている人だからこそ、お菓子を食べても中毒を起こさないんだ あーあ。数年ぶりに会った人に一発で見抜かれるくらい、私はどうしようもなく… 「魔女に、なるなよ」 先輩にはチート教育してくれて本当に感謝してる 多分もう会えないかもね。バイバイ

          魔女に、なるなよ

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          ONE MEDIAでのお仕事③

          インスタグラムのFEEDでのライティングを担当しました。 1 2020年の春、公立高校の入試の願書から性別欄が消える 2 リンクアンドモチベーションとのタイアップ企画 3 フェイクニュースの生まれ方 アメリカで起こった高校生と先住民とのトラブルの様子がツイッターで拡散。事実が明らかになっていない状態にも関わらず、噂やもっともらしい「フェイク」が拡散している状況について書きました。わかりやすいものばかりに目を向け、とにかく早く判断し、白黒つけたがる風潮は果たして正しいの

          ONE MEDIAでのお仕事③