ビジネスのにおいと長電話
モロッコのマラケシュ空港には、羽田空港からイスタンブール経由で24時間かけて行くこととなった。イスタンブール空港での待ち時間は5時間。文庫本を1冊消化した。
そういえば、タイトルについて語る前に今回初めて乗ったターキッシュエアラインについて記しておきたい。(本題を読みたい場合はスクロールダウンしてほしい)。エコノミークラスでの搭乗だったが、とてもよいサービスだった。
まず機内食。とにかく種類が豊富かつボリュームもあっておいしい。羽田を出発してから13時間で2食、乗り換え後5時間で1食に加え、おやつに鮭と梅のおにぎりまでもらってしまった。
一般的に(エコノミークラスで)機内食を選ぶときは、遠くから漂う配膳の気配を感じつつ一体何が運ばれてくるのかよくわからないまま、客室乗務員に「ビーフorフィッシュ?」と尋ねられなんとなく気になる方を指定することが多い…気がする。少なくとも今まで私はそんな経験をしてきた。
だが、ターキッシュエアラインでは事前に食事メニューが配られる。
機内食におけるメニューは心強い。配膳の直前まで寝ていても言語に自信がなくても、とりあえずこれが手元にあれば選択肢がわかる。
機内で食べたもの
ポーチの中には快適グッズ
私がターキッシュエアラインにいたく感動したポイントは食事の他にもある。
乗客全員に、ポーチも含めて全部役立ち色合いもかわいらしいグッズが配られる。私がもらったものは青色を基調としたグッズだったが、赤色を基調にしたものもあった。
セーフティビデオがかわいい
個人的な長期フライトの楽しみのひとつに、離陸時に流れるライフジャケットや非常時の案内を紹介する動画がある。どれも個人の事情を優先しがちな乗客に何としても関心を持たせるため試行錯誤して制作されていて、各航空会社のカラーやお国柄が表れていて面白い。このターキッシュエアラインの動画クオリティも高かった。
2ヶ国語で流れるアニメーションは、若干ピクサーを意識しているようなタッチ。人物デザインも凝ってかわいいので、フルムービーをスマホで撮影している(内容が頭に入ってくるかは置いておいて)人もいた。映像表現と言葉のバランスもよく、トルコ語や英語を母国語としない人たちにとっても理解しやすいように感じた。
正直エコノミークラスでここまでの満足感を得られると思っていなかったので、ターキッシュエアラインの対応にひどく感動してしまった。できるなら帰りも乗りたい。
本題はここから
イスタンブール空港に入ると「ようこそ世界の玄関口へ!」という垂れ幕がかかっている。この空港は羽田や成田空港とは比べ物にならないくらい巨大でクリーンな空間で、メインフロアには所狭しと高級ブランドショップと免税店が立ち並ぶ。ショップの入り口には高さ2メートル、幅3メートルほどのサイネージが等間隔ほどに設置されていて、高級感とブランドイメージを多様な言語や動画に載せて人々の購買意欲を掻き立てていた。
世界の玄関口を名乗るだけあって、イスタンブール空港には年間6500万人の乗客が訪れる。その割に休めるベンチは少なく、リラックスして座るには各航空会社のラウンジ利用をするか、早めに乗り換え口近くのベンチを使うか、ショッピングエリアにある数少ない椅子をタイミングよく陣取るか…のいずれかだ。人が多くても殺伐とした空気でないのは、それなりに余裕のある人たちばかりだからだと思う。
運良くショッピングエリアのベンチを確保できたので持参した文庫本を読んでいると、隣に白いキャップを被り、半袖のアロハにジーンズ姿の人がやってきた。手持ちの荷物を床へ置き、備え付けの充電プラグにケーブルとスマートフォンをつなぐと、手際良くどこかへ電話をかける。スペイン語だ。
親しげな様子から家族だろうかと考えを巡らせる。その人は相手と10分ほどで通話を終えると、また別の人と通話を始めた。同じような親しさで、今度は英語だ。先ほどと同じく10〜20分ほどで通話を終え、また他の人と他の言語でおしゃべりを始める。
こうして隣の人は約4時間以上、ありとあらゆる人に電話をかけまくっていた。一体誰と何を話していたのか検討もつかない。けれど言葉の運びや軽さ、通話時間から考えるとどれも「世間話」のように聞こえた。
思い出されるのは、以前読んだ『チョンキンマンションのボスは知っている』だ。香港の商人/ブローカーであるカラマのビジネスのやり方は、直接的な利益のない世間話やちょっとした手助けの延長線上にある。実際のところはわからないが、特定多数の人と会話を重ねていく姿に同じようなビジネスマンのにおいを感じた。