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♯348 【5/17のショート】雨の日とお姫様の話。

雨の日。綺麗な色の傘。
青と緑とピンク。じっとりジメジメした気分が明るくなるような気がする。

傘をさせば私のところだけ明るくなる。どんよりとした世界が明るくなる気がして、私は雨の日が好きなのだ。
彼は私が傘をささなくてもいいように、無機質で大きな傘をさしてくれる。送り迎えをしてくれる。まるで私はお姫様だ。
ペットボトルの蓋を開けてくれる。荷物を持ってくれる。何でも買ってくれる。

私のわがままがブクブク太って、手が付けられないようになってしまう。食い止めなければいけないと、必死に抗うけれど、肥大化したわがままは私の意思を離れていく。
イライラするのは当たり前。世界は私を中心に回っている。そんなお姫様になってしまった私を誰が止めてくれるのだろうか。

よく物語とかでお姫様が魔法で変身されるのはあるけど、魔法でお姫様に変身させられたら、どうしたらいいの。魔法が解けた後はどんな姿になるの。

彼の傘は黒い。私はあの綺麗な傘をさすことはない。お姫様だから。彼は言う。「君は何もしなくていい」と。なら私は何のためにいるのか。イライラするわがままな存在というだけでしかないのか。

私は足が早い。彼の傘から逃げる。
びしょびしょに濡れた髪。スカートの裾は泥まみれだ。お気に入りの傘を広げると、私の世界は明るくなる。世界は私じゃないどこかを中心にして回っているけれど、明るくあればそれでいい気がした。

魔法が解けたあとは、びしょ濡れで泥まみれの、綺麗な傘には不釣り合いの私になった。

頑張ります!一生懸命頑張ります!!