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過去の恋愛 〜Sくん編〜

気が向いたら書こうと後回しにしていたが、やっとその時が来たので、新シリーズを始めたいと思う。

幼稚園や小学生の頃にも男の子を好きになることはあったものの、まだ恋愛感情としての「好き」という気持ちが分からなかったので、私が初恋だと思える中学生の頃からゆるりゆるりと書き進めていく。

中2の頃、クラスのある男子を好きになった。イニシャルからSくんと呼んでおくことにしよう。私はその当時からアカデミックな部分に惹かれる性質があったようで、幼少期に海外滞在経験があり、英語ができる彼のことを好きになった。

英語の授業で自分の好きな本についてスピーチするという単元があったのだが、私は『ハリーポッター』シリーズについて話した。「日本語で読み進めているが、今後は英語で読んでみたい」というようなことを言った覚えがある。

授業が終わった後、Sくんから「俺、英語版持ってるから貸そうか?」と声を掛けられた。彼に話し掛けられたことにも、彼がハリーポッターを英語で読めるという事実にも、ときめいた。そして何より、貸してくれるとなれば継続的に接点を持つ口実ができる。嬉しかった。

朝読書の時間も、休み時間も、家でも、辞書を片手に一所懸命読み進めた。やがて1学期の修了式の日になった。やっと読み終わった本をSくんに返すにあたり、手紙を書いて本と一緒に袋に入れて渡した。Sくんのことが好きだということ、どんなところが好きかというようなことを書いたように思う。あれは紛れもなく、ラブレターだった。「付き合ってほしい」という言葉を入れる勇気はなく、ただ私の気持ちだけを書いた一方的かつ返事を求めない内容だった。渡した時点で中を確認して手紙が入っていることは認識したようだが、恥ずかしかった私は家で読んでほしいとだけ伝えた。

夏休みが明け、2学期の始業式の日、担任からSくんが転校したということを聞かされた。理由は何も言われなかった。そんなこと1学期の時には匂わせてすらいなかったじゃないかという失望、あの手紙を渡したのを最後に彼との関係が切れてしまうんじゃないかという困惑、Sくんとの関係が気まずくなるような心配がなくなったという少しの安堵感。様々な感情が駆け巡った。

帰ってから私は居ても立ってもいられず、家の固定電話の子機と連絡網をこっそり自室に持ち込んでSくんの自宅に電話を掛けた。担任は「転校するが、引っ越しはしない」と言っていた。固定電話の番号は変わらないはずだ。何も考えず番号を押して、呼び出し音が鳴っている間、初めて「お母さんが出たらなんて言おう」「電話が繋がったとして何を伝えよう」そんなことを考えた。電話に出たのはSくん本人だった。

「転校するって聞いたけど、本当?」「手紙に書いたことは本当だから!」「新しいところでも頑張って!」そんなことを言ったような気がする。何を言ってもSくんからの返事は「うん」だけだった。緊張して電話だと上手く話せないし、無言に耐えることもできなかったので、手短に済ませて切った。

電話を切った後、電話でSくんと話すことに対する緊張からの解放感、本当にもう話すことはないんだという悲しみ、Sくんの気持ちを考えていなかったが迷惑だったんじゃないかという不安。そんな感情が一気に押し寄せ、私は号泣していた。これが私が人生で初めて味わった失恋だった。

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