見出し画像

Maternity Eternity 14

安定期黄金期


臨月マタニティフォト/NFT

胎動は結局臨月まで続いた。心音が聞ける機械を返却した。トレーニングも順調で、私はヒールのあるショートブーツでがんがん歩き回るようになった。生まれたらなにもできなくなるってみんな言うから、今のうちになんでもやっておこう。とはいえ、私のやりたいこと「なんでも」は、仕事だった。レコーディング、撮影、ラジオ、打ち合わせ、ロケも行った。ビジネス交流会にも参加して、新しい人と出会い、新しいプロジェクトの話をする。おなかが目立たない服を着て、でもおなかの子と一緒に仕事している気がして、とても嬉しかった。
打ち合わせに遅れそうなある日、点滅している信号にむけて私は思わず走った。「ごめんね、がんばってね。」とおなかに言いながら。そして、すぐさま立ち止まった。「おいおい」と思った。「おいおい」と口にした。まだ生まれてもいない子に、なにをがんばらせようとしているんだ。なんて愚かなことを。私ががんばることと、言語による意思表示をできないこの子をがんばらせることを、同列にするな。生まれてもいない子を、自分の事情でふりまわすな。この子に寄り添うのが、私の、私にできる唯一の役目じゃないか。私はこの子の代わりに呼吸することも、羊水から養分をとることもできないのに。
このことは、それまでの撮影やなにやらの仕事とはまったく違った。おなかに負荷をかけない中で思いっきりやることと、私の自由気ままな思いっきりに子供を付き合わせることは、はたからみたら似ていても、まるで違う。そう明確に意識した一瞬だった。今でもその時の太陽の光の差し込み方、なんてことない道路を走る車の色、遠くを横切った自転車を思い出すことができる。「妊婦」から「母親」になるスイッチというものが、もしも存在しているのなら、この瞬間にそれが押されたのかもしれない。そう思った。


NFT Art / アート作品
" Maternity Eternity "
https://opensea.io/ja/collection/maternity-eternity-0
Artist : Ekotumi
Photo : Richard Lee
Hair & Make up : Arakaki Erina
Hair Cut : Hiromi Tanaka(Moga)

NFTアート作品「 Maternity Eternity 」
解説全回はこちら。
https://note.com/ekotumi/m/m698d1513ba0e

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?