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(22)〝デジ力〟の前に〝読書の筋力〟―「よく読む子」に育つ5歳頃からの本好き大作戦 ~HSC・HSP編~ 

 つづきです。  

〈「家に本」「近所に古本屋」「多作な作家」で本好きに〉


 さて、HSPの話を続ける前にちょとだけ、自分語りをします。
 
 私が読書に目覚めたのは小学4年生の時でした。
  「5歳頃から…」と提案しているわりには遅いデビューですが…(笑)。
 でも今の子ども達と違い(ファミコンはありましたがハマるほどの環境ではなく)のんびり生活していましたから、こんなものだったかな…と思います。
 
 家にあった父の棚に数冊の推理小説が並んでいるのを見て、
「こんな・・・字だけの本、おもしろいのかな?」
 と興味本位で手に取ってみた
のがはじまりでした。たぶん留守番でもしていて暇だったのでしょう
 ちなみに本棚ですらなく、灰皿やらお土産の人形やらが並んでいるような雑品棚でしたが、「家に本がある」ことだけは本好きが生まれる環境の条件に合っていました
 
 作者は赤川次郎。
 赤川作品お得意のユーモアミステリーで、謎の連続殺人事件を「ひょんなことから」コンビを組むことになった男女が衝突しながら解決する・・・といった内容。
 殺人事件ではありますが会話中心の軽いタッチで、難しい社会背景などもなく、引き込まれてあっという間に読んでしまったのを覚えています。
 
 文字だけなのに、場面って頭に浮かぶんだ・・・。
 小説って、意外とおもしろい!

 ―この実感がすべてのはじまり。
 
 そう思い、隣に並んでいたアガサ・クリスティーの「オリエント急行殺人事件」も読んでみました。これは初心者にはちょっと難しかったのですが、逆に「赤川次郎なら読める」と実感し、それから近所の古本屋に通うように。
 
○近所に古本屋があり、1冊100円程度でおこずかいでも買えたこと。
○赤川次郎が多作でどれもおもしろく、選書に困らなかったこと。
○少しして「三毛猫ホームズ」シリーズにハマったこと。
 
 ・・・振り返ってみるとこれが、私の読書の筋力が鍛えられた要因です。
 書店の壁一面の本を前に、自分のおこずかいでトライ&エラーを繰り返したことが「本選び」の血肉になりました。
 
 また、赤川次郎が多作で、「次はこれにしようかな…」と選び放題、「読んでも読んでも読むものに困らなかった」ことが、今考えると「本好き」が生まれるうえでこの上ない環境だったと思います。
 いやぁ、すごいですね!赤川次郎氏!
 
 子どもが本好きになるうえで私がお勧めしている「シリーズものにハマること」の条件も、赤川作品は十分に満たしていました(三毛猫ホームズシリーズ、三姉妹探偵団シリーズ、幽霊シリーズ、杉原爽香シリーズなど)。
 
 赤川次郎は中学生でいったん卒業し、高校生になってからはさまざまな作家の作品を読むようになったのですが、今思い返しても「自分で書店に通い、おこずかいで本を買っていた」小学5年から中学3年生までの数年間は、本当の意味で自由で豊かだったと思います。
 
 親からは、本を読めとも、読むなとも言われませんでした。
 読書は私にとって自分で見つけた「自分の大いなる楽しみ」だったのです。
 
 

〈ものを感じる、ものを考えるプロが書いた物語に共感〉

 
 何度も書いてきましたが、読書は知らず知らずのうちに心を鍛えてくれます
 それが、子どもに本を読んでほしい大きな理由のひとつです。
 
 生き方や考え方のパターンを提案し、どう行動するか選択の幅を広げ、あなたは生きるに値する人・・・と励ましてくれる。
 だから「繊細さん」にはいっそう、本の世界に触れることをお勧めしたいのです。
 
 また、文章を書く人達―いわゆる作家、物書きと呼ばれる人―は、人並みはずれて「ものを考える人」だと思います。
 これ、否定する人はいませんよね?
  
 いわゆる「繊細さん」…HSPなのかはわかりません。人それぞれでしょう。
  
 けれど、繰り返しますが人並はずれて「ものを考える人」なのは確か。
 同じ経験、見聞きをしても人一倍、何かを感じるからこそ言葉が浮かび、書かずにはいられない…そういうことがあるはずです。
 
 起こった出来事に関して、深く考えを巡らせたり、多数派とは違う角度で考えてみたり、ひとつの出来事をあらゆる角度から観察、検証してみたり…。
 それをひとつの物語、ある程度の長さの文章にまとめるうえで、これまた「どんな言葉・表現方法」で、「どんな順番」で、「どんな構成」で書き起こすのか、書き出しは、ラストの締めは、主軸にするテーマは…と、
  考えて、考えて、考えているのが、物書き、作家だと思います。
 そうやって世に生まれた数え切れないほどの物語・小説が、私は好きです。
 
 書く才能や技術や知識、努力などは到底及びませんが、その人達も自分と同じ人間なわけですし、同じ人間から「ああ…こんな素晴らしい物語が生まれたんだな…」と読んで感動することもありますし、それが紙に印刷され(古くてすみません)、物理的な形でたくさんの人のもとへ届く「本」というシステムが、その集合体である「書店」が、私は好きです。
 
 自分がHSPだと認識した時、いっそう強く感じました。
 私はずっと、「ものを考える文章の技術者」である作家が書いた小説に、常に共感・共鳴していたのだと思います。
 
 共感・共鳴は、心の癒しです。

〈好きな作家・作風・シリーズが心の安定につながる〉

  
 子どもが読書の筋力を鍛えるうえで、好きな作家やシリーズものを見つけることが大切…と何度かお話してきたのですが、それは「選書に困らない」以外にも、「たくさん共感できる」という利点があります。
 
 「この作家の作品なら楽しく読める」とか、「このキャラクターの活躍をずっと読み続けていたい」…というのは、つまり子どもがストーリーや登場人物に「共感・共鳴」しているということ。

 好きな作家、好きなシリーズを見つけるというのは突き詰めると、自分にとって「共感が多い本」を見つけるということになり、心の安定や癒しにつながるのではないでしょうか。

 本好きの人は共感してくれるかもしれないのですが、心底好きな作家に出会うということは、親友をひとり獲得するくらいの、人生における価値があると私は思います
 
 また、子どもに限らずそれぞれの作家の「作風」を知り、「この人の作風が好き」という自分の好みを知ることも、読書を長く続けるうえでは大切かもしれません。

 例えば(私の好きな)ミステリーひとつとっても、謎解きメインの「本格もの」、社会問題や時代背景を主軸にした「社会派」、人間の負の感情を描いてあえて後味の悪さを残す「イヤミス」、事件を通して人間愛を描く「ラブ・ミステリー」(っていうジャンルはあるのかな?)…などなど、本当に多彩です。
 
 自分の好みをあまり知らず、誰かに「お勧めのミステリーある?」と漠然と聞いて、まったく趣味の合わない一冊を読むことになったら困りますよね。
 (事件を通して深い親子愛が浮かび上がるミステリーを読んで感動したから、この次も…と思っている人が、ゴリゴリのアリバイや密室トリックを暴く本格ものを読んでも、「?」と思ってしまうはずです)
 
 作家の特徴や作風を知る…ということは、「自分が本を読んで何を感じたいかを知る」ということなので、子どものうちにでもそれを知っていると、本選びが上手になりますし、上手に本選びができるようになると、読書で「共感・共鳴・感動・癒し」が得られる確率が飛躍的に上がります
 
 だからHSCさんー子どもにたくさん本を読んでもらえたらな…と思うのです。
 
 本はゲームや映像作品と違って自分のペースで読めますから、そういう面からも繊細さん、心の安定を求める子どもにぴったりな趣味、娯楽だと思います。
 
 さらに読書を重ねて豊富な語彙を獲得することで「自分のモヤモヤした感情」に名前をつけたり、整理することもできますし、言葉で表現できるようになると人づきあいの具体的なスキルにもなります。
 
 本を読むのは「繊細さん」にとって素敵なことばかりではないでしょうか。
 
 つづきます。
 
 
 
 
 
 
 

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