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アジャイルが失敗するときと改善策。

こんにちは。デザインと写真の事務所「サンポノ」の江口です。今回は、私も何度か経験したアジャイル開発の環境下について、失敗談と改善策を書いていきたいと思います。とは言っても、すべての業務環境に共通する話にもなっているので、多くの人に読んでいただけたら嬉しいです。

アジャイル開発とは。

アジャイルという言葉が、ビジネスの現場で使用されるようになって久しいです。念のため、知らない人のために簡潔に説明すると、一定期間を一区切りにして、その間に決められた業務を行う方法です。区切りのことをスプリントと言い、スプリントの始めに、前期間の振り返りと今期間に行う業務を決めるミーティングを行います。企業によって異なりますが、1スプリントあたり、一週間から二週間で設定しているところが多いかと思います。この方法の利点は、大きな仕事でも、1スプリントで行える業務量にタスクが分割され、目の前のタスクに集中できることです。主にWebサービス(SaaS)やアプリを提供している事業会社で採用され、日本でも普及しました。同時期に広まったPDCAとも、相性がよかったのかもしれません。

これだけ聞くと、「何だ、定例ミーティングをしながら業務を進めてるだけじゃないか」と思うかもしれません。実は、何度かアジャイルの経験がある私でさえ、そう思っています。そのため、今回の話は、すべての現場に共通する話でもあります。

ただ、敢えてアジャイルという言葉を使ったのは、今回話す問題点が、この言葉を使用している現場で、よく感じるものだったからです。

アジャイルが失敗するとき。

信任関係が壊れている現場。

アジャイル環境下では、参加者同士が活発に意見を言い合うことが推奨されやすいです。そのため、「〇〇について議論したい」という言い方を頻繁に耳にします。

しかし、議論とは、議論する内容について、専門的な知識と経験がなければ議論になりません。例えば、デザインについて議論をするのであれば、デザイナー同士でなければ議論になり得ないということです。これは、プログラミングでも、マーケティングでも同じです。専門的知識を有しない者と専門家が話をする場合、相談か教育になります(医者と患者、弁護士と依頼人、先生と生徒の関係のような)。ミーティングの参加者で、この前提を理解していない人が多いと、単なる意見の言い合いになってしまいます(この辺りは「職業倫理」の話とも密接な関係があり、もっと詳しく知りたい方は、岩井克人さんの『会社はこれからどうなるのか』を読むことをお勧めします)。

実際に、私がデザインの進め方を失敗したと感じた現場では、意見の収拾をつけるのに時間を費やすことが多くなり、業務のスピードアップを図る方法なのに、むしろ普段よりも時間がかかってしまっていました。それもそのはず、人間は誰しもが自分の意見を述べたら、それが無下に扱われたくないし、できることなら採用されたいものです。ここで、素人と専門家の関係性が崩れやすくなります

私たちの仕事は、異なる領域の専門家が集まって行われるもので、そこで必要となるのは、お互いを信頼して任せる「信任」です。しかし、その分野では素人である人の意見を吟味することで、本来信任されているはずの人たちは、そうではなくなってしまいました。もちろん、時間も足りなくなってくるので、少しずつ傷つけられる心情と合わせて、気持ちの悪さが漂っている現場でした。

利己的な人が含まれている現場。

それとは別の現場では、意見を言い合うという性質上、声の大きいマーケティングやセールスの意見が通りやすくなってしまっていたというものです。側から見ていても分かりやすい野心家の人が入ってきてからは、あれよあれよと全員が疲弊し、チームのほとんどが辞める事態となった現場もありました。私もその人が入社してから疎遠になっていったので、人伝にしかその後を聞けませんでしたが、その人は自分が望む人を採用し始めていたようなので、はじめからこれを狙っていたのかもしれません。しかし、現実はそう甘くはありませんでした。結局、その人の施策は上手くいかず、その後、会社を辞めたようです。この時、私は以前読んだ『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』という本の「テイカー」と呼ばれる利己的な人種のことを思い出しました。読んでいるときは、「そんな露骨な人がいるのだろうか」と思っていたものですが、実際にそういう人を目の当たりして、本に書いてある通りのことが起きて驚いたものです。

タスクに追われる現場。

もうひとつ、これは全ての現場で感じることだったのですが、事業の将来性などの大局を忘れがちになりやすいです。細かく分割されたタスクをスピード感を持ってこなしていくことによって、目の前の小事に捕われている現場が多い気がします。これをコントロールするのが、プロジェクトマネージャーやオーナーの役目かもしれませんが、この方法を採択している企業の方々は若い人が多いため、なかなか難しいように見えました。マネージャーやオーナーの方が、私を頼ってくれていた場合は、ブランディングの観点からアドバイスをすることができたのですが、デザインタスクの穴埋め程度にしか思われていない現場では、どうすることもできなかったのが悔やまれます。

外部パートナーをアジャイル環境に迎えるために必要なこと。

専門家の話を聞く姿勢。

以上のような現場ですと、私たちのような外部の協力者は、力を発揮しづらくなります。医者は、医者の言うことを守れない患者を救えないように、私たちもクライアントである相談者が、私たちの話したことを聞かなければ、彼らを助けることはできません。ここで必要なのは、専門家とクライアントの議論ではなく、専門家が話したことを聞く姿勢です。クライアントが相談してくれたことに対して、私たちが専門家として忌憚のない意見を伝え、それが助言になったり、クライアントが気づかなかったアプローチになったり、勇気づける言葉になったりするものです。

これは私がクライアントになったときでも同じで、例えば、私がエンジニアの方に何かを相談し、これについて回答をしてくれたら、よっぽど間違っていない限りは、私はその考えを尊重し、受け入れるでしょう。そうでなければ、その方は二度と、私に対して適切な回答はしてくれないと思います。つまり、必要なのは、疑問と意見の違いを各人が理解して話すことです。

タスクの理由や事業の将来性の確認。

二つ目は、タスクを振り分ける際のミーティングでも、なぜこのタスクをするのかといった理由や、このタスクの先にどんな事業の将来が待っているのかといった大局を確認することです。スプリント内で行えるまでにタスクを分解することで、業務効率を図ったがために、事業そのもののミッションやビジョンを忘れてしまっては元も子もありません。

スプリントに余裕を持たせる。

三つ目は、二つ目とも近いのですが、スプリントをタスクで埋め尽くさないことです。業務効率やスピードアップを図って、スプリント内でタスクが完了するようにタスク分解をするのは、とてもいいことですが、このスプリント内をタスクで埋めてしまうと、急なトラブル対応が発生した際に、本来のタスクが完了しない焦りや疲労が生まれたり、事業の将来を見据えて必要になることを想像するクリエイティビティが損なわれてしまいます。どれだけ石橋を叩いても、事業にトラブルはつきものです。そして、トラブルへの対応も心身に余裕がある状態と疲弊している状態では、対応力も変わってくるものです。また、創造的な仕事は、私たちデザイナーだけのものではなく、エンジニアやビジネスサイドの方々にも必要なことでもあり、車座で話し合うことで思いがけない相乗効果が生まれるものです。この時の話し合いは、スプリントとは別にするべきです。

プログラミング、ビジネス、デザインの三権分立。

四つ目は、プログラミング、ビジネス、デザインの三権分立をすることです。これは一つ目の改善案と近いのですが、スピード感を求めているミーディングでそれぞれが意見を言い合うと、日本では、声の大きな人の意見や、立場が上の人の意見に従わざるを得なくなる傾向があります。業務の話であれば、それぞれの専門家同士に任せた方が、効率が良く、スピードアップが図れます。これは意思決定でも同じで、プログラミングならエンジニア、デザインならデザイナーが意思決定をしないと、間違った意思決定をすることになりやすいです。特に、デザインが壊れる瞬間は、ビジネスサイドの方々の欲望が指示となったときです(この辺りは、アジャイル開発とは関係なさそうに見える「いいちこ」の名誉会長の話が、とても勉強になります)。

最後に。

いかがでしたでしょうか? 何度かアジャイルという開発環境に参加して、私が感じたことやその時々の改善方法などを書いていたのですが、実際の内容は、アジャイルだけでなく、すべてのミーティングや業務の進め方に共通することだったと思います。それもそのはず、どんな方法で進めても、進めているのは人間同士ですから、上手くいく方法や失敗する方法は似通ってくるものです。

事実、私が協力させていただいた仕事で、社会的評価を得て、事業としても上手くいっているクライアントとは、議論ではなく、相談の上、話し合いを続ける良好な関係が築けています。一方で、外部の協力者を、空いた穴を埋める都合のいい存在として扱っていると感じるクライアントとは、長く続かない上に、その事業の衰退は早いものでした。話を聞いてくれる態度がクライアントの方々にないと、私たちの力は発揮しにくくなります。どんな環境下に置かれても、最大限の力を発揮したいとは思いますが、どうせなら、本当の意味で私たちを頼ってくれる方に、協力したいものです。

最後までお読みいただきありがとうございます。これを読んで、サンポノの仕事に興味が湧いたら、ホームページをご覧いただけると嬉しいです。ブランディングからUI、コーチング等、幅広く協力させていただいております。協力できることがあれば、是非、ご依頼ください。一緒に事業の未来を話し合いましょう。

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