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「質の高い教師の確保のための教職の魅力向上に向けた環境の在り方等に関する論点整理(案)」とは? (前編)

令和 5 年 4 月 13 日、文部科学省の調査委員会より、『質の高い教師の確保のための教職の魅力向上に向けた環境の在り方等に関する論点整理(案)(以下、「論点整理(案)」)』が提出されました。これは子供たちを取り巻く社会の変化が進む中で、教員の待遇改善により教職志望者を増やし、質の高い教員を安定して確保するために、改善すべき点を洗い出すことを意図したものです。

前編では、論点整理の「基本的な考え方」と、5つある「論点整理」の項目のうち、2項目について確認していきましょう。

1、基本的な考え方

日本の学校教育は、特別支援教育対象の児童生徒や外国人児童生徒の増加など、子供たちの多様化、教育 DX、少子化などの社会変化に対応し、個別最適な学びと協働的な学びを一体的に充実させることが期待されています。
新たな学びを展開する目的は、子供たちに豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会を創るための資質・能力を育成する学校教育の実現です。そのためには、教員不足の中、質の高い人材を確保するための、教職の魅力向上が必要です。

教師の長時間勤務改善を意識し、令和4年度教員勤務実態調査の結果を踏まえて、人材確保法(※1)に照らし、教師の処遇改善、勤務制度、学校での働き方改革、学校の指導・運営体制の充実を総合的に検討する必要があります。また、国だけでなく、都道府県、市町村、各学校などが役割を果たすことが重要です。

 調査研究会では、基本的な考え方の下、

  1. 給与面、公務員法制・労働法制面の在り方(給特法※2等を含む)

  2. 学校での働き方改革の取組状況や学校・教師の役割

  3. 学校組織体制の在り方

等について、諸外国の状況を含む情報収集や論点整理が進められています。令和4年度教員勤務実態調査の速報値公表後、調査研究会が示した論点を踏まえ、更なる検討が進むことが望まれています。

※1 人材確保法 : 教員の採用や育成に関する規定を定め、優秀な教員の確保や教育現場の改善を目的とする法律。
※2 給特法 : 公立の小中高等学校等の教育職員の教員の基本給や特別給などを定める法律。

2、論点


(1)教員給与の在り方等について 

  •  教師の給与や勤務制度に関しては、国や地方自治体、学校など多くの関係者が関わるため、給与だけでなく、勤務制度や働き方改革、教職員数・支援スタッフなども総合的に検討する必要がある。現行の教職調整額は、教師の職務と勤務態様の特殊性を考慮して、勤務時間に関係なく支給されているが、その考え方や割合についても検討が必要である。

  •  教師の職務は特殊であり、教師の自発性や創造性に基づく働き方に期待される面が大きい。また、教師の仕事は複雑で専門的な性質を持っており、勤務時間内外に分けることが難しい。時間外勤務手当の支給については、学校管理職が実際に時間外勤務として承認できるかどうかなど、管理職の負担が大きくなることを考慮する必要がある。

  •  また、時間外勤務手当の支給が地域差を生む可能性や、教育の成果が必ずしも勤務時間の長さに基づかないことも考慮しなければならない。教師の仕事内容は変化しており、給与法制定当時と比較して、時間外在校等時間の実態が大きく変わっていることを検討する必要がある。

  •  教師の職務や勤務の実態を考慮し、新たな手当を創設するなど、教師の意欲や能力向上に資する給与制度を構築する必要がある。各教師の状況に応じて給与のメリハリを強化することも考慮すべきである。

  •  教師の職務には様々な役割があり、既存の主任の処遇や学校管理職の給与制度も見直すべきである。また、学校の規模に応じた処遇特別支援教育に従事する教師の給料の調整額も検討が必要である。

  •  公立学校と私立・国立学校の役割の違いを踏まえ、それぞれの教師の職務や給与の在り方を考えるべきである。また、諸外国では、時間外勤務手当の導入が一般的ではなく、教師の職務の特殊性を考慮した仕組みが構築されていることを参考にすべきである。

  •  教師の処遇改善は、教職の魅力向上を通じて教育の質を向上させる目的があり、これが我が国の子供たちにとって不可欠であることを国民に理解してもらうための説明も重要である。



(2)教師の勤務制度の在り方について 

  •  教師の勤務制度を見直す際には、健康及び福祉の確保、効率的な勤務、教師の職務の特殊性、地方公務員としての立場、労働基準法との関係などを考慮すべきである。また、休日のまとめ取りを活用するための運用の見直しや、育児・介護等を行う教職員のための柔軟な勤務時間の設定も検討が必要である。

  •  在宅勤務については、適切な勤務時間管理や業務内容の把握、管理負担を考慮しながら、柔軟に実施できるようにする方策を検討すべきである。また、長時間の時間外勤務を行う教師の健康確保の観点から、月60時間を超える時間に対する割増賃金や有給休暇の制度を導入することも検討すべきである。

  •  勤務間インターバル制度については、国家公務員の検討状況を踏まえつつ、公立学校の教師に対しても健康及び福祉の確保の観点から対応を考えるべきである。さらに、教員集団の流動性や多様性を高めるために、教師の兼職兼業の円滑な運用を含め、多様な人材を取り込みやすい仕組みの在り方を検討すべきである。


子どもたちの学びの質を高めるには、学校教育を支える教師の確保が欠かせません。そうした中で、令和 3 年度に実施された令和 4 年度採用選考の実施状況を取りまとめ(令和 4 年  9 月 9 日公表)には、公立学校の採用倍率が全国で 3.7 倍と過去最低、とりわけ小学校は 2.5 倍と 4 年連続で 3 倍を切ったという結果が示されています。本稿で確認した2つの論点が、どのような具体的施策として取り組めるようになるのか、また、その取り組み時期はいつになるのか、注目していきたいですね。

後編では、「論点整理」の3項目について確認していきます。
後編はこちら


株式会社エデュテクノロジーでは、DX によって先生方の働き方改革とウェルビーイングを向上する学校環境を整えるため、学習用端末を含めた ICT 機器の環境デザインや活用マニュアル等のハード設計から、ICT の強みを活かした授業デザイン等のソフトウエア設計までトータルに支援する「教育DXコンサルティング」を提供しています。長年培った経験とノウハウで、これからも児童生徒の学力向上に向けた「学びと ICT 」について、学校と教育委員会へのサポートを行っていきたいと考えています。


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