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1 人 1 台環境がもたらす学びの効果は? 令和 4 年度全国学力・学習状況調査の結果公表

文部科学省は、令和 4 年 8 月 22 日に開催された「令和4年度全国学力・学習状況調査の調査結果を踏まえた学習指導の改善・充実に向けた説明会(ウェブ形式)」の説明資料を公表した。
全国学力・学習状況調査(以下、全国学調)は、義務教育の機会均等とその水準の維持・向上の観点から、全国的な児童生徒の学力や学習状況を分析し、教育施策の成果と課題を検証、その改善を図ることが目的だ。小学校第 6 学年、中学校第 3 学年を対象に、平成 19 年度から調査方法を変更しながら継続的に実施している。

 GIGA スクール構想によって、児童生徒 1 人 1 台端末が実現されてから初となる全国学調の結果には環境の変化がもたらす学びの変容は現れているのか。本稿では、学習状況の質問紙調査の内容を中心に、学校教育における ICT 活用の現状について確認していく。
なお、教科調査の結果、指導改善のポイント等については、令和4年9月30日付けで国立教育政策研究所HPに、各教科の説明動画が公開されているので、そちらを確認されたい。

  ICT を活用した学習頻度と研修・サポート体制

 
文部科学省が令和4年8月31日に「令和3年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査(以下、情報化実態調査)」を速報値として公表。初めて教育用コンピュータ台数が児童生徒数を上回ったことを別稿にてご紹介したことは記憶に新しい。ほぼ全ての自治体で 1 人 1 台端末が整備された今、学びにおけるICT活用は進展していることが想定されるが、その実態はどのようなものだろうか。

まずは、 ICT 機器の活用頻度を確認してみたい。教員が大型提示装置等の ICT 機器を活用した授業を1クラスあたりどの程度取り入れているかの設問では、活用状況は大幅に増加していることが分かる。情報化実態調査にて公表されている普通教室の大型提示装置整備率の平均が71.6%である状況から考えても、プロジェクタ等大型提示装置の活用が特別なものから、当たり前のものに変化しているといえる。本設問の選択肢である週1日以上の回答が100%となるためには、1人1台端末環境であるからこそ、大型提示装置整備率を高めていくことが必要であろう。

一方、ノートや鉛筆と同様の必須アイテムに位置づけられるPC・タブレットの活用状況にも変化が現れている。週1回以上の活用と回答しているものを基準として、過去の調査結果と比較すると大幅に授業における活用頻度が増えていることがわかる。
しかし、1人1台端末が整う教育環境において、週1回以上の活用と回答している割合が80%を上回り、活用促進が図られていると結論づけて良いものか。PC・タブレットが文房具と位置づけられる中では疑問が残る。ICTを活用することが目的化されてしまうことはあってはならない。だが、学びの進展に寄与する適切なICTの活用場面を増やしていくことが、これからの社会を生き抜くために必要な情報活用能力の醸成につながっていくのではないか。

GIGAスクール構想により日々の教育活動にPC・タブレットを用いることを児童生徒はどのように捉えているのだろうか。

PC・タブレット等のICT機器が、自分自身の勉強に役立つかという設問である。どのような活用場面があるかについては把握することはできないものの、多くの児童生徒がPC・タブレット等を教育活動に用いることについて「役に立つ」「どちらかと言えば役に立つ」と肯定的に捉えているということが分かった。今後、学習活動のどのような場面で効果実感が得られているかについても調査されれば、ICT機器を用いた効果的な教育活動を創造する際の参考になるだろう。

引用元: 令和4年度全国学力・学習状況調査の結果(概要)P22


次に ICT 機器の活用研修や活用に向けた支援体制の設問について見ていこう。
PCやタブレットを活用した授業の日常化が進む中で、先生方はICTを効果的に使用した新たな学びを検討していかなければならない。そのためには、日々進化するEdtech等の学習支援ツールに関する情報や、活用方法について学ぶ必要がある。

続いて確認した設問は、PC・タブレット等の整備時に多くの学校で実施された端末操作研修以降、継続的な研修が行われているかに関する内容である。
ICT機器をテーマとした研修機会は、令和3年度から約10ポイント増加している。学習用端末活用元年ともいわれる中で、これまで以上にICT機器を文房具として、また、より教育効果を高める活用に向け研修機会が増えているものと考えられる。
こうした研修機会が教育に与える影響について、興味深い結果が次のクロス分析である。「ICT 機器をテーマとした研修機会」と、「教職員と児童生徒がやりとりする場面でのICT機器の使用頻度」との関係を表している。

引用元: 令和4年度全国学力・学習状況調査の結果(概要)P24

グラフから明らかなように、ICT機器をテーマとした研修機会が「ある」と回答した先生方の授業におけるICT機器の活用頻度が高いことが分かる。当然のことながら、教員の学ぶ機会が増えれば、授業での使用をイメージしやすくなり活用が促進される。今後の課題は、研修機会が「ない」と回答した先生方である。研修機会が「ない」と回答した先生方の約65%が、ICT機器をほぼ学習活動で活用していない状況にある。活用促進に向けてのカギのひとつは、教員がICT機器を学ぶ機会であるといえる。

しかし現場では、研修機会を得ようとしても日々の業務で時間を設けることも難しい状況にある。そこで活用促進に向けてのもうひとつのカギは、ICT機器に関する十分な知識を持った専門スタッフの支援があげられる。

現在多くの学校では、ICT機器に関する知見を有する先生が中心となってICT活用を推進していることであろう。ICT推進リーダーとなった先生は、ご自身の業務に加え、児童生徒、先生方全ての端末やアカウント等を管理している状況にあり、その負担は計り知れない。教員の本務である児童生徒への学びの教授以外に多くの業務を抱えている先生方にとってICT環境の支援体制は必要である。設問では、学校に十分な知識を持った専門スタッフの配属等の支援体制の状況を確認している。令和3年度に比べ、支援体制が約 15 %増加している状況にあるが、70%を満たしていない。ICT機器の更なる活用促進に向けては、専門スタッフの配属等の支援体制を強化することが望まれる。

引用元: 令和4年度全国学力・学習状況調査の結果(概要)P24


 ICT を活用した学習場面と用途


PC・タブレット等の具体的な活用状況の設問は、令和 4 年度調査より新しく加わった調査項目である。本設問では、「自分で調べる」「教職員と児童生徒でやりとりをする」「自分の考えをまとめ、発表・表現する」「児童生徒相互でやりとりする」の各学習におけるICT機器の活用頻度について調査している。

PC・タブレット等 ICT機器の活用頻度の最も高い教育活動は、「自分で調べる」であった。一般的な調べ学習、一斉講義型の授業で分からないことをインターネット検索するなど、文房具のように手軽に活用できるICTの強みが活かされているものと考えられる。

その一方で、「教職員と児童生徒でやりとりをする」や「自分の考えをまとめ、発表・表現する」という活用場面は、共に週1回以上の活用頻度と回答する割合が約70%にとどまった。日々の教育活動において常に取り組まれていることが、電子化されていないように感じる。例えば、これまで紙媒体で行われていた学習プリントの配布・提出を、学習支援ツールを用いて電子的にやりとりすることで、印刷・配布・回収に要する時間、更には、回収した学習プリントの採点の時間を削減することが可能となる。教育活動の全てを電子化することが目的ではないが、ICT機器を活用することで教育効果を高めたり、業務負担を軽減することができるのであれば、積極的な活用を検討されたい。

本設問でもうひとつ気になる内容が、残る「児童生徒相互でやりとりする」という活用場面である。「主体的・対話的で深い学び」や「協働的な学び」は、2020年代を通じて実現すべき「令和の日本型学校教育」の姿である。しかし現段階において、本設問から考察できることは「児童生徒相互のやりとり」、すなわち「児童生徒相互の学び合い」がICT機器を活用した学びとして発展途上にあるということである。
「児童生徒相互の学び合い」においても、個々が思考を整理していくためにICT機器の活用は極めて有効である。繰り返しとなるが、「児童生徒相互の学び合い」はICT機器を用いなくとも、十分な教育効果は得られる。しかし、ICT機器の強みを活かすことで学びが進展することも考えられる。本設問の結果から、「主体的・対話的で深い学び」や「協働的な学び」が体現されていないという結論にはならないが、少なくともICT機器の強みを活かした「児童生徒相互の学び合い」の実現について検討していく必要があると感じる。

引用元: 令和4年度全国学力・学習状況調査の結果(概要)P23


次に「児童生徒の特性・学習進度等に応じた指導」「不登校児童生徒に対する学習活動等の支援」「特別な支援を要する児童生徒に対する学習活動等の支援」の活用用途の状況について確認したい。 グラフからも明らかなように3つの設問すべてにおいて、小中学校ともに 週1回以上と回答した割合が50 % を下回る結果となった。

引用元: 令和4年度全国学力・学習状況調査の結果(概要)P25


本設問から明らかにしたいことは、「令和の日本型教育」で実現したい「個別最適な学び」の進展状況にある。児童生徒1人1台環境が整い、学習者個々の学びが可視化され、学習進度に応じた適切な指導・支援が可能となった。しかし環境が整ったからといって「個別最適な学び」の実現は容易ではない。
個々に適した指導・支援はICT機器を用いて自動化できるものではなく、先生方のこれまでの経験や知見に頼らなければならない状況にある。
今後、先生方の経験や知見のノウハウを撮りため、試行錯誤を繰り返しながらAI等での自動化を進めつつも、教員の関わりを大切にしながら「個別最適な学び」を実現していくことが必要であると考える。

まとめ


GIGAスクール構想によって「令和の日本型学校教育」が目指す学びを実現する教育環境が整った。令和4年度が「端末活用元年」と位置づけられているように、PC・タブレットを活用した学びの日常化はその片鱗が見えてきているが、もうしばらく時間が必要であるようにも感じる。
ICT機器の活用がクローズアップされる中で、活用そのものが目的化してしまう「活動あって学びなし」という状況が起きていることも耳にする。

ICT機器の強みを見極め、学びに有効な場面において適切に活用していくことが「令和の日本型学校教育」が目指す学びを実現することにつながると考える。1人1台環境におけるICT機器の活用状況については、次年度も予定されている同調査結果を確認していきたい。

エデュテクノロジーが考える未来の教室

株式会社エデュテクノロジーでは、学校教育における学習用端末を含めた ICT 機器の環境デザインや ICT機器の有効な活用マニュアル等のハード設計から、ICT の強みを活かした授業デザイン等のソフトウエア設計までトータルに支援する ICT コンサルティング事業を提供している。
本稿に関連する「 ICT × 学びアンケート」は、3ステップで ICTを使った授業の教育効果が分かり、教育活動におけるより効果的な ICT 活用方法を含めた授業改善にお役立ていただけるサービスとなっている。
株式会社エデュテクノロジーは、長年培った経験とノウハウで、これからも「 ICT や情報・教育データの利活用」に向けた学校、教育委員会へのサポートを行い「子供の学びの DX を実現」に貢献していきたいと考えている。

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ICT × 学びアンケート

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