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「市場経済の内と外を一気に学ぶための3冊」どの帯より詳しい、秋の環境経済学・ミクロ経済学のテキスト紹介フェア

一冊目は、宮本憲一(2007)『環境経済学』岩波書店。

日本における環境経済学のパイオニアの宮本憲一先生による、日本で最初の「環境経済学」のテキスト。

400頁近い大部の著作であるが、文章記述がほとんどで、比較的読みやすい。

日本を中心に、世界の公害・環境問題を幅広く、そして濃密に論じている。

四大公害病の内実も詳細な記述がなされている。

そして、読めばわかるが、「環境経済学」のテキストでありながら、「環境の政治経済学」なのである。

「どのような政治システムの元で、どのような公害・環境問題が起こるのか」を鋭く考察する。

本書の基本的方法論は、「中間システム論」である。

中間システム論とは、端的に言えば、素材と体制の中間にあるものを指す。

素材とは、技術進歩などの生産力の発展などであり、体制とは、資本の利潤極大原理、つまり、資本主義か社会主義かという生産関係のことである。

最後に、中間システムを説明する。
1.資本形成(蓄積)の構造
2.産業構造
3.地域構造
4.交通体系
5.生活様式
6.廃棄と物質循環
7.公共的介入のあり方
 a.基本的人権の態様
 b.民主主義と自由のあり方
8.市民社会のあり方
9.国際化のあり方

本書によると「以上の九つの中間領域が環境を決定する」のだ。

まだまだ抽象的な議論だが、関心のある方は、本書を読んで頂きたい。

そこにあるのは、深淵な環境の政治経済学の世界である。

2冊目は、栗山浩一・馬奈木俊介(2016)『環境経済学をつかむ』。

こちらは、環境経済学の入門書の定番である。

私が通読したものは、第3版であるが、2020年9月に、第4版が出版されている。

第3版は、2015年に採択された「パリ協定(Paris Agreement)」までカバーする。

こちらも、難しい数式は一切出てこないが、グラフや図表が豊富なため、文理を問わず読める。

ただし、はじめに、に書かれているほど楽しく読めるものではない。

こちらも、練習問題と解答・解説が有用だ。

環境経済学を学ぶ一歩としてオススメである。

3冊目は八田達夫(2011)『ミクロ経済学Ⅰ』東洋経済新報社。

八田達夫さんは、過去に国の政策にも関わった経済学者であり、ICU教養学部にルーツを持つ珍しい経歴を持つ。

通称「八田ミクロ」と呼ばれる本書は、2分冊の内の一冊目である。

それでも、400頁を越える大作。

「市場の強みと弱み」が、わかりやすい実例をもとに解説されており、本書最大の特徴は、
「数式が一切無い」という点である。

経済学のエッセンスを理解する上で、これほどまでに文章の記述ベースで有用なものが他にあるのだろうか。

とりわけ、「既得権益の弊害」に関する理論的説明は、わかりやすく、面白い。美容師と理容師の資格について、あるいは、司法試験を事例に解説している。

まだまだ「自由化の荒波が立つ現代」において、「市場に何ができて、何ができないか」を考える上で、市場万歳な雰囲気のある一冊であるにせよ、有用な一冊である。

忙しい人は、練習問題(解説もあり)を中心に読み進めるのも良いだろう。

繰り返すが「数式」は一切でない。

あなたも「市場を知り、市場を批判的に捉える」一歩を踏み出してはいかがだろうか。

さて、以上に3冊のレビューを一挙にまとめたが全て、以前に通読したものである。

しかし、教科書色の濃いものは必ずしもレビューしてこなかった。

それでも、やはり、一般的には堅い本でも
「専門家ではないが、通読した誰か」が「平易かつ詳しく」、専門書の類いを紹介することにはある程度の意味があると考えた。さらに、今回は、一見結び付かない3冊を、たまたまこの3冊が残っていたとはいえ、「市場経済の内と外を知る」というテーマに収まりそうだと考えている。

「市場経済の内と外」は「市場にできること、できないこと」と言い換えられる。

そして、最後になるが、
以上の3冊にさらなる共通点があるとすれば、
「現実と理論との往復」がしっかりと為されているという点である。

文理を問わず、これを機に、皆さんが「環境と経済学」を知り「現実を見る知的装置」をあらたに身につけることになれば、世の中がまた少し良くなると思う。

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