日本の「美意識」や「美学」を体系化してまとめてみる。
近年とうとう、日本の文化・カルチャー・コンテンツが世界に通じるようになってきました。
これらはアニメ・マンガ・映画業界や音楽業界が、なんども挑戦を繰り返してきた結果であることは間違いありません。
ここに追従して、日本の製品やサービスが海外に対してプレゼンスを上げていけるかどうかは、改めて企業やメイキングや発信に携わる人たちが「日本の独自性とはいったいどこにあるのか?」を見直し、これらを武器にしていく必要があるように感じています。
このあたりは私自身、まだまだ深堀りしている最中なのですが、1つの重要パーツとして考えている「日本の美意識や美学」についてここでは備忘録として書き留めておこうと思います。
この概念は、例えばスティーブ・ジョブズがiPhoneのデザインに日本の美意識を取り入れたように製品やサービスとしてのデザインとしてもすぐに応用できるものですし、もっと理解を深めるとマーケティングやブランディングを行う上でのコンテクストとしての武器にも成り得ます。
欧米のような売り方でもない、中国のような売り方でもない、はたまた韓国のような売り方でもない、「日本独自の売り方」のヒントというものは、きっとこういったところにあるはずです。
日本の美意識や美学は、さまざまな時代と分野で異なる視点から探求され、洗練されてきました。ここでは、これまでに紹介された人物たちが提唱した美意識や美学の概念を網羅的に体系化し、それぞれがどのような視点から日本の美の本質を捉えたかをまとめています。
より具体的な興味を持った方は、もっと深堀りしていただき、もっとこういった概念があるよという方は、ぜひご教授ください。
1. 侘び寂び(わびさび)
概念: 「侘び寂び」は、不完全で儚いものに美を見出す感覚であり、日本の美意識の中核を成す概念です。
侘び(わび): 質素で控えめな美、自然の粗さや不完全さに価値を見出す。例として、古い茶碗や枯山水が挙げられる。
寂び(さび): 時間の経過や老朽化の中に見出される美。朽ちた建物や錆びた金属に感じられる風情がこれにあたる。
代表者: 松尾芭蕉、茶道、禅仏教
主な例: 松尾芭蕉の俳句、茶道における静謐な美、古いものや自然の無常を受け入れる姿勢。
2. もののあはれ
概念: 「もののあはれ」は、自然や人生の儚さ、移ろいに対するしみじみとした感動や哀愁を表す美意識です。全てが移ろいゆく無常の中で、瞬間的な感情の揺らぎを大切にします。
代表者: 古典文学(特に『源氏物語』)
主な例: 季節の移ろい、自然の儚さに対する感情の共鳴。秋の紅葉や桜の花が散る瞬間に感じる哀愁。
3. 幽玄(ゆうげん)
概念: 「幽玄」は、目に見えない深遠で神秘的な美を指します。表面的なものではなく、暗示的で奥深い美しさに焦点を当て、観客の想像力を引き出す美意識です。
代表者: 世阿弥
主な例: 能楽における静かな演技、暗示的な美の表現。直接的に見せないことで、想像をかき立てることが「幽玄」の美。
4. 陰翳礼讃(いんえいらいさん)
概念: 「陰翳」は、光と影の対比によって生まれる微妙な美しさを称賛する美意識です。特に薄暗い照明や陰影が生み出す空間の美に価値を置きます。
代表者: 谷崎潤一郎
主な例: 日本の伝統的な建築や茶室で見られる、光を抑えた空間。暗がりの中に美を感じ取る感覚が「陰翳礼讃」に通じます。
5. いき(粋)
概念: 「いき」は、洗練され、控えめながらも自己主張を持つ美意識です。江戸時代の町人文化に根差し、見た目だけでなく、内面の気高さや余裕が重視されます。
垢抜け: 洗練され、無駄がなく美しいこと。
張り: 精神的な強さや気高さ。
諦め: 物事に執着しない軽やかさ。
代表者: 九鬼周造
主な例: 江戸の町人や芸者の控えめな振る舞いと洒落た態度。派手すぎず、品のある美しさが「いき」の特徴。
6. さび(寂び)
概念: 「さび」は、古びたものや劣化したものに感じる美です。時間の経過によって得られる静かな風格や、孤独と静けさが含まれています。
代表者: 松尾芭蕉
主な例: 古い石や枯れた木の美しさ。過度な装飾を避け、自然の中に感じる静けさが「さび」の本質です。
7. しをり(俤)
概念: 「しをり」は、感情の繊細な表現やしみじみとした哀愁を表す美意識です。小さな出来事に対する感情の揺らぎや共感を大切にします。
代表者: 松尾芭蕉
主な例: 自然や日常の中で感じるさりげない感情の動き。葉が落ちる瞬間や、雨が降り注ぐ静かな風景に感じる感慨。
8. 不易流行(ふえきりゅうこう)
概念: 「不易流行」は、変わらないものと変わりゆくものの調和を重視する美意識です。普遍的な美しさと、時代とともに変わるものの両方に価値を見出します。
代表者: 松尾芭蕉
主な例: 自然や人生の永続的なテーマ(不易)と、四季や社会の変化(流行)の対比を重視した俳句の美学。
9. 軽み(かるみ)
概念: 「軽み」は、日常の軽やかさや簡潔さの中に美を見出す感覚です。重々しくなく、日常の些細な出来事を軽妙に表現することが特徴です。
代表者: 松尾芭蕉
主な例: 「古池や 蛙飛び込む 水の音」のように、軽やかでありながら深い意味を持つ俳句。
10. 茶の美学(茶道)
概念: 茶道は、日本の自然観や簡素な美を体現した芸術です。精神的な修練や、自然との調和、そして侘び寂びを大切にする美意識が特徴です。
代表者: 岡倉天心
主な例: 茶道における簡素でありながらも深い意味を持つ一連の作法や、自然の中に静かに佇む茶室。
11. 用の美(民藝)
概念: 「用の美」は、実用的な物の中に美しさを見出す感覚です。名もなき職人が作る日用品や工芸品に宿る素朴で機能的な美を尊重します。
代表者: 柳宗悦
主な例: 日常で使われる器や家具、織物など。派手な装飾を避け、実用性と調和した美しさを持つもの。
12. 絶対無と美(禅の美学)
概念: 禅の思想に基づく美意識では、形や形式を超えた「無」の境地が重要です。無常観や、あらゆるものが空であるという感覚から、自然体での美を重視します。
代表者: 鈴木大拙、西田幾多郎
主な例: 禅庭や茶道における無駄のない簡素さ、無意識に現れる自然な美。
13. 風姿花伝の美学
概念: 世阿弥が能楽を通じて提唱した美学で、特に「花」と「幽玄」が中心です。役者の成長や演技の深みを重視し、内面的な成熟による美を追求します。
花: 若さや新鮮さ、
演技者が観客に与える魅力。
幽玄: 暗示的で奥深い美。
代表者: 世阿弥
主な例: 能の演技における控えめな動きや、沈黙の中に漂う静けさの美。
日本の美意識を体系化する3つの軸
日本の美意識は、以下の3つの軸に基づいて体系化できます:
時間と無常への感受性:
侘び寂び、もののあはれ、不易流行、さび、しをり
時間の経過や人生の儚さ、自然の移ろいを受け入れ、その中に美を見出す。
内面的で静かな美:
幽玄、陰翳礼讃、軽み、茶道、禅の美学
外面的な派手さを避け、控えめで内面的な深みや精神的な成熟を重視する。
実用性や日常の美:
いき、用の美、風姿花伝の美学
派手さではなく、日常の中に潜む簡素な美や機能美、控えめな洗練を重視する。
こういった日本独自の美意識や概念というのは、海外(特に欧米)とは真逆になることが多いため、時には武器にもなり、また時には、その概念を理解してもらうために翻訳や説明の努力が必要になることがありますが、これらがうまく刺さった時には、他の国が真似できないような独自の魅力を発揮します。
これは他国と地続きではない日本ならではの不思議な魅力だと言えます。
これらが海外に対してのプレゼンスを上げていく要素になることは、おそらく観光産業やコンテンツ業界の方であれば度々感じられているのではないかと思います。
しかしながら製品やサービスに関する業界となると、我々はとたんに「海外への憧れ」という呪いに縛られてしまいがちです。
そういえば、大谷翔平選手も言ってましたね(笑)
「いまは、憧れるのを止めましょう。」
もしこれから海外に向けた販売戦略を考えられている方は、
いちど「日本の美意識や美学」というものを意識してみると面白い発想が生まれるかもしれません。
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