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読書感想:腹を割ったら血が出るだけさ(双葉社) 著 住野 よる

【愛されたい欲に囚われた自分をいつか曝け出せるように】


【あらすじ】
高校生の茜寧は、友達や恋人に囲まれ充実した日々を送っている。

しかしそれは、「愛されたい」という感情に縛られ、偽りの自分を演じ続けるという苦しい毎日だった。

ある日、茜寧は愛読する小説の登場人物、〈あい〉にそっくりな人と街で出逢い――。



いくつもの人生が交差して響き合う、極上の青春群像劇。

Amazon引用
 

愛されたい茜寧、ありのままを誇る逢、己の物語を紡ぐ樹里亜、他者の失敗を探す竜彬。一つの小説を巡り、各々の感情が発露する物語。


愛される為に本心を偽って行動する茜寧の想いを代弁してくれるような小説を書いたなのか。
その物語になぞらえた行動を選択した末、物語の鍵となる逢に出会う。
そして、アイドルで活動する樹里亜、他人の粗を探す竜彬のそれぞれの人生が錯綜する。
誰しもが表裏を使い分け、息苦しさの中で生きてる。

愛されるとまでは言わなくとも、嫌われたくない。素のふりを演じ分けて、色々な自分の存在にふと嫌気が差す。
他人によってコロコロ態度を変える、虚飾に満ちた卑怯な自分の芯の無さは、一番自分が分かってしまう。
他人は騙せても、自分自身は騙せない。
誰もがきっとそう。
どの自分が本当の自分かなんて突き詰めないで、日々を生きていくしかない。

本当の姿や気持ちを覆いつくし、ただ愛されたいとだけ願って生きる醜悪な存在。
表に向けている姿と心の中にいる自分。
ひたすら、裏の自分を隠し通して、生きている。
誰もが少なからず演じている。
素の自分を出す事を恐れて、相手からの評価を極度に気にして、臨機応変に生きている。

自分の本当の姿を受け入れてほしいという気持ちと、それを表に出すのに臆病になる気持ち。
どちらも分かるようでいて、そもそも「自分の本当の姿」とは何なのか、立ち止まって鏡の前の自分を見つめながら問いかける。

愛されたいに毒され、愛されたいに押し潰されていく茜寧は、物語に鮮烈な血を流しながら、身を投じていく。
彼らにとって、嫌われるという事は死ぬ事よりも恐ろしい事で。

装う、覆う、騙す。
一挙一動全て自分の中から出てくる物ではなく、人から愛されるためだけの物なら。
完璧に出来てしまうのなら。
常に冷めた客観視で自分をみることになるのだろう。
それは、心から熱くなる事が出来ず、とても哀しい事だと感じられる。

それは、体裁は常人を装いながらも、自分は非常に特異な存在であるという、青臭くて痛い自意識とでも呼ぶような物で。
思春期特有の必ず感じるといっても過言ではない、他者と自分との絶対的に相容れぬ境界線。

小説に自分を重ね、主人公の行動をなぞろうとする女子高生の茜寧、アイドルである自分を完璧に演じようとする樹里亜、自分自身の感性や心情に寄り添い行動する、優しい逢。

腹を割って自分の本心を話したとしても傷つくだけで、本音で生きられたらどれだけ救われるかという一種の投げかけ。

情報化社会で他者が見えすぎる現代で「自分らしさ」を見失う事が容易になった人々へ「自分らしく素直に生きていいんだよ」というメッセージとして受け取れる。

愛される為にはその場に相応しい自分を偽る事が、必要で。
家庭での自分、学校での自分、仕事先での自分、ネットの中の自分、誰もがその場に合わせてキャラを演じている。
それ故に、本当の本来の自分という物を見失ってしまうが。

それでも、心を傷付けて血を流したとしても、人の痛みに敏感な彼らを、この先で必ず本当の自分の事を愛してくれる人が現れる。

いつか、本当の己を曝け出せる時がきっと彼らにも来る筈だ。










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