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読書記録:お兄様は、怪物を愛せる探偵ですか? (ガガガ文庫) 著 ツカサ

【謎は人を侵す毒だから、解明しよう、その真相を】


【あらすじ】

“人外の仕業”と噂される事件の謎を解く事で、怪異を封じる力を持つ混河葉介。
葉介の助手を務めるのは、とある秘密を抱える妹の夕緋。

葉介は、幼馴染に起きた不可解な出来事の真相を求めて、怪異を管理する生業を持つ混河家の一員として、様々な謎を解き明かしてきた。

捜査六課の刑事である白羽奏から依頼を受け、葉介と夕緋は、放火と焼死事件が起こった伊地瑠村を訪れる。
その村には、「焔狐」にまつわる奇妙な伝承が存在し、今回の事件も焔狐によるものではと噂されていた。

葉介達は、村長の姪である春宮由芽らの協力を得て捜査を進めていくが、さらなる民俗学的伝承の謎が立ち塞がる。

あらすじ要約


混河兄妹の秘密の盟約のシーン。

超常の仕業と目される事件の謎を解く混河家の一員の兄妹が、伊地瑠村で起こる謎の事件の真相を暴く物語。


古くから古今東西の推理ものの中で、語り継がれる古典ミステリー達。
その多くは、謎に対して探偵が合理的な理由と動機を見つけて、読者を納得させてきた。
どんな謎にも必ず、原因がある。
それは必ず人の手で突き止める事が出来ると信じてきた。

しかし、現代のミステリーはそんな今まで人類が積み上げてきた知見や理解を裏切るような、理解の及ばない世界の力が作用する。
それは、超常的な力であり、まさしく怪異としか言えない現象。
それは人間の考えが陳腐とさえ思える、あまりにも理不尽でどうしよもない物。

謎は人を侵す毒。
人はその謎を合理的に科学で解決してきた。
だが、そんな努力を嘲笑うかのように、不可解な謎は生まれる。
何故そうなったのか?
それを思考する事を諦めてはならない。
結果には必ず原因が付き纏うのだから。
未知のベールに隠され、人から怪物となった人々。それを封じる葉介とある秘密を抱えながらサポートする夕緋。

二〇××年、六月六日。
人口約十五万人の地方都市の住人がわずか二人を除いて全滅した「災厄」と呼ばれる事件。
その生き残りの一人である葉介は、巨大な怪物となった幼馴染、朔の行方を探る為に。
突然、現れた男の提案に敢えて乗って、男の家族となる事で、朔を怪物へと変えた謎を解く手がかりを探し出す。

それから月日が経ち、青年となった葉介は「怪異」の起こす謎を否定する事で。
怪異を封じる「お役目」を務めながら、真実を追い求めていた。
しかし、得られる情報は空振りばかり。
その中で、既知の相手である「捜査六課」の刑事である奏より新たな依頼を任せられる。
助手である妹の夕緋と共に乗り込んだ山間の集落、伊地瑠村。
かの場所で発生した、放火と焼死事件の解決へと乗り出す。

焔狐の伝承が蔓延る村で、謎を解く事こそが、怪物を解体する、唯一の方法。
人に害をなして、いつしか人と共に生きる事を強制すりのを当たり前にした、守り神となった怪異。
過去に起きた、村の診療所の院長が焼死した一つの事件。
その事件の謎を追いかける中で、村長の姪である由芽の協力を仰ぐ先で。
三年前の祭りで起きた祟りが絡みついて、院長と密かに癒着のあった神主の焼死事件が発生する。

人が起こした事件でも、人々をそれが悪い噂として語り継ぐ事で。
それは、超常現象を巻き起こすオカルトとなる。
思い込みや噂は、人が想像しているよりも、強いエネルギーを持っている。
それ故に、怪物は先祖返りを起こす。

「怪異がやったのでは?」と思われるほどに不可解な事件。
人々の噂の中で、その土地に伝わる伝承などが紐付けられる事により。
人々の思念が積み重なって、人の心の中に眠る怪異が顕現する。
どんな人間であっても、その心の裡に怪異を宿していて、それが人々の噂などが広まる事によって、表に出てくる。
怪異に立ち向かうには、それを否定する言霊が必要である。
閉鎖された村での奇妙な風習の一つひとつの成り立ちを調べていく。

姥焼きの因習と奇妙に続く春宮家の当主選挙。
綿密な村人への聞き込みや、現地調査をひっくるめた上で、放火と焼死事件を起こした犯人像を積み上げていく。
状況証拠や容疑者の自供を引き出した中で知っていく、人の畏れが集合する事で、怪異へと人が羽化していく現実。
そんな忌まわしい現象の謎を読み解く事こそが、人を人として足らしめる行為だという事。
そもそもが、怪異を誕生させない為に謎を解かれるべきであり。
謎が整理されて、つじつまのあった真実を白日の下に晒す事が自分達に託された仕事。

最大の懸念材料であった、三年前の祭りで、そこで消えた由芽の祖母。
事件現場で目撃されたのは、消えたはずの彼女と思しき姿。
しかし、死者は蘇らないし、怪異となった訳でもない。
ならば、その真相は何処にあるのか?
解き明かした真実が教えてくれた、これは怪異の仕業ではない。
この謎を仕組んだのは、世俗的な人間の醜い欲望による物であった。

怪奇現象を本物の怪物にしない事こそが、自分達の本懐。
シュレディンガーの猫という哲学があるように、事象は人々に観測されて、初めて事実となる。
不可思議に対して、誰もが納得が出来る証明が出来るのならば、不可思議は怖い物でなくなる。
まさしく、幽霊の正体見たり枯れ尾花である。

げに恐ろしきは人が犯す業であり、解き明かしたいのは、怪異ではなく、あくまでも人が重ねた想い。
その謎を解いていく中で、副産物的に幼馴染に起きた不可解な真相の尻尾がチラチラと掴めてくる。
ただ、兄妹同士で秘密の盟約を交わす葉助と夕緋の 関係性や混河家の隠された秘密も、いまだに暗がりの中に、身を潜めたまま。

真実は一つではない。
いくつもの謎が伏線のように仕掛けられている。
その散りばめられた謎を全て、解いた果てに怪異を鎮める事が出来ると信じて、兄妹は次の謎に挑んでいく。

探偵の兄弟は安易に思考を放棄せず、人間らしい推理を見せた先で、怪物を愛せるのだろうか?






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