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読書記録:アオハルデビル2 (電撃文庫) 著 池田明季哉

【その不安も伝えたい想いも、音にして解き放て】


【あらすじ】

衣緒花の悪魔をなんとか祓って、平穏な日常を取り戻したはずの有葉。
しかし、佐伊先生からエクソシストとして、引き続き衣緒花と活動を共にするように頼まれる。

それから、有葉は突然、学校を休み始めた宮村三雨から相談を持ちかけられる。
彼女の帽子に隠されていたのは、なんと長い兎の耳だった。

兎の悪魔に取り憑かれた三雨をなんとかしてあげようと、行動を共にする間に、有葉は彼女が胸に隠した熱い本心と向き合う事になる。
三雨と心を通わせる多忙の中で、体調不良に陥った衣緒花との間には、微妙な距離感が生まれてしまう。

到底、叶えられない願いを抱く時、取り憑いた悪魔は祓えるのか?
それぞれに想いが交錯する〈アオハル〉の結末とは?

あらすじ要約
宮村三雨のライブシーン


衣緒花の問題を解決した有葉に相談を持ちかけた三雨がライブで想いを解き放つ物語。


本当の気持ちと向き合うのには、かなり勇気を必要とする。
ましてや、それを他人に伝えるのは喜びだけでは無く痛みも伴う。
本当の想いを解き放ってしまえば、自分に言い訳が出来なくなる。
三雨に取り憑いた兎の悪魔により、期せずして自分の想いと向き合う事になる有葉。
その悩みを有葉に相談されても、その想いは彼女自身が叶えるべき物で。
本当にその人の事を想えば、救わないという選択肢もある種の優しさで。
衣緒花と有葉はあくまでもサポートに徹する。
だが、悪魔はそんな人の弱い心の隙間を虎視眈々と狙っている。

佐伊先生から告げられた、小さな衝撃を伴う事実。衣緒花に憑りついていた悪魔、アミーによってもたらされる不穏。
願いを叶え続けている間は問題はないが、より上手く付き合っていく為に。
ヘアピンというキーアイテムで、アミーを封じる。
そして、こうして、少女達の悪魔を祓っていく事は、失踪した姉の夜見子にも繋がる事が暗示される。

文化祭が近付く中で、兎の悪魔に蝕まれた三雨の真の願いを知っていく。
それは、有葉に向けた積日の想いから来るであろう願い。
しかし、それは決して叶わないもしれない願いで。衣緒花の願いとは矛盾した願い。
どちらかの願いを立てれば、どちらかは立たない。二つの願いの狭間で板挟みとなってしまう有葉。

確かに、有葉へ伝えたい想いを持っていた三雨の願い。
しかし、それは有葉だけに伝えたかった物ではない。
衣緒花にも、ちゃんと伝えたかった。

夢と目標に向かう中で、時として、ひたむきで真っ直ぐな想いは、報われない事が度重なると、その願いの形はネジ曲がり、立ち直れない程の痛みに変わる。
「何故、こんなに努力しているのに、結果が付いて来ないんだろう?」
真っ直ぐに追いかけるのが、馬鹿らしくなって途中で願いを投げ出してしまいそうになる。
自分の抱えている問題に答えを出す事は出来る。
しかし、その答えをちゃんと選ぶ事は、未熟な少女にはあまりにも難しい。

それは、自分の本当の願いと向き合う事だから。
「有葉を手に入れたい、その為には衣緒花が邪魔」
「今の自分を好きになれない、何でも持っている誰かになりたい」
自分の醜くて、卑しい感情をまざまざと思い知らされる。
衣緒花に対して、羨望と怒りを持ち合わせている事に気付く。

現実の厳しさに翻弄されながら、血を吐くような慟哭を繰り返して、三雨が気付けた事。
「諦めなければ、夢は叶う」なんて綺麗事はもはや言えないけれど、「叶わなかった夢も、形を変えて自分の人生に寄り添う」という事。
それを、兎の悪魔は教えてくれた。
本気で熱くなれた者にしか、青春の魔法は巻き起こらない。
今の自分をありのままに受け入れて、そこから一歩でも前に進もうとする事にこそ、価値は宿る。
巡ってきた本番。
文化祭のライブという輝かしい舞台で、身体で脈打つ震えが、音楽に変換していく。
ファズ・フェイスで操ったテレキャスターをかき鳴らす狂兎のように。
ありったけの想いの丈を、音にして有葉と衣緒花に解き放つ。

今の自分を受け入れて、伝えたかった想いを歌に乗せる。
恥ずかしくて、照れ臭い想いも、音に乗せれば、自然と吐き出せられる。
兎の悪魔との激突の果てに、本当に伝えたかった想いを伝える事が叶う。
伝えたい想いは、ちゃんと二人の心に届いた。
そこから、導かれる心の理解と融和。
相手を否定するのではなく、肯定する事で見えてきた可能性。
有葉はその気持ちを聞いて、自分達の関係性に相応しい選択をする事になる。
確かな一歩前進する中で、綺麗に終わらないのも、また青春で。

佐伊先生により看破された有葉の異常性。
彼女の元に舞い戻ってきた、有葉がずっと求めていた相手、姉の夜見子。
それは、彼ら次へのターニングポイントになる。
彼らの元に現れる次なる悪魔とは?

泥臭いやり方で悪魔と共存していく彼らは、その来訪によって、どのような選択をしていくのだろうか?












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