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勉強の時間 人類史まとめ13

『世界史の構造』柄谷行人7



経済と科学の時代


ここで考えさせられるのは、なぜ近代ヨーロッパはアジアを征服できたのかです。

経済や科学技術が発達して豊かになったので、世界中どこに行っても戦争に勝つことができたというのはあるでしょう。それがなぜかというと、柄谷の理論では、中世にヨーロッパの政治が弱体化していて、商人の経済活動が活発になったからだということになるでしょう。

しかし、科学技術はどこから来たんでしょう?

イタリアに始まる15〜16世紀のルネサンスは、ギリシャ・ローマ時代の芸術文化だけでなく、科学的研究も復活させた時代でしたが、その科学的な知識は中東のイスラム圏からもたらされたと言われます。

なぜ中東にギリシャ・ローマの知識があったのかというと、元々紀元前4世紀にアレキサンダー大王が中東を征服して建設した国々に、ギリシャの知識がもたらされたのが始まりのようです。

その後、ローマ帝国が中東を支配した時代にも、ギリシャ・ローマの知識はこの地域で研究・活用され、その後ローマの滅亡後に生まれたイスラムの国々に受け継がれました。イスラムの国々はただ知識を受け継いだだけでなく、科学、特に数学やそこから派生した宇宙科学とか工学を発展させたといいます。

代数を意味するアルジェブラや、計算の手順を意味するアルゴリズムなど、数学用語にアラブ語源の言葉が多いのはそのためだとか。

数学や科学技術は中国にもあったようですが、大航海時代から近代にかけてヨーロッパと中国が接触するようになったとき、その力関係を決定づけたのは、科学とその応用力、つまり科学的思考による経済・政治・文化活動の力量の差だったように思えます。

ヨーロッパでこうした科学的な思考と行動が発達したのも、柄谷行人の理論でいくと、交換様式Bが弱体だった分、交換様式Cの経済が活発だったからということになるでしょう。

だとしたら交換様式Bが弱体で交換様式Cが活発だったのは中世ヨーロッパだけでなく、古代のギリシャ・ローマ時代から、あるいはその文明の源流であるエジプトやメソポタミアの時代からそうだったから、この地域で科学や経済・政治に関わる技術が発展したと言えるわけです。

だとしたら、交換様式Bが弱体で未完成であることは、むしろいいことなんじゃないか。一方、中国が近代にヨーロッパに支配されるようになったのは、交換様式Bが発達したからなんじゃないか。

そう考えると、これからの世界がどうなっていくのかについても、見えてくるものがあるような気がします。


自由主義国家vs独裁国家

30年前、ソビエト連邦が崩壊して、その衛星国だった東欧の共産党支配も終了したとき、よく言われたのはアメリカや西ヨーロッパの自由主義が勝ち、東欧の社会主義が敗北したということでした。

その社会主義というのは、国家権力を社会主義の党が独占する独裁的な国家社会主義、全体主義という意味で、元々18〜19世紀に言われていた、市民や労働者が企業や地域社会を自主管理する社会主義とは別物なんですが、とにかく「国が管理する不自由な経済や社会はうまくいかない」、「資本や企業が自由であることが、結局豊かな社会を作る」といったことが証明されたと、多くの人が考えたようです。

しかし、その自由な資本や企業の活動は、1990年代のグローバリゼーションで、新たな大航海時代みたいな状態をもたらし、経済的に、政治的に、軍事的に強い先進国が、弱い国を相手に荒稼ぎしたり、金融システムを破綻させたりしました。

金融業界は80年代から開発・普及させてきたデリバティブとか債権や資産の流動化といった手法で、リスクが明確に見えづらい膨大な金融商品を売りまくり、2008年から09年にかけて、世界的な金融危機をもたらしました。

こうした自由な巨大資本や巨大企業の侵略や暴走から国を守り、金融危機からいち早く立ち直ったのは、共産党独裁の中国でした。中国はソ連崩壊の10年以上前から、共産党独裁を維持しながら自由主義経済陣営に加わり、経済成長を続けてきました。

90年代までは安い労働力を活かした、先進国製造業の下請けビジネスで外貨を稼いでいましたが、国の保護下でITなどのハイテク企業が育成され、人口14億人とも言われる巨大市場が成長し、欧米が脅威を感じる経済大国になりました。

アメリカは「中国は自国のハイテク企業を不当に保護している」とか、「外国為替を操作して人民元を不当に安く維持している」、「アメリカ人は中国に仕事を奪われ、損害をこうむっている」といった非難をするようになりました。

欧米の先進国もそれなりに自国の産業を保護してきましたから、中国をそんなに非難できる立場じゃないという気もしますが、中国が南シナ海に軍事的な基地を建設したり、香港や新疆ウイグル自治区で自由を抑圧したり、といった行動をとっているのを見ると、中国のやり方は19世紀のドイツのプロシャ帝国や、ナチスの第三帝国に通じるものを感じさせたりもします。

しかし、一方で欧米先進国では、グローバルな資本主義で国家間や産業分野間、社会階層間の格差が拡大してしまい、ごく一部の国、金融資本、ハイテク企業が極端に富を獲得して、それ以外は貧しくなり、いろんな対立が激化して、経済や社会の活力が失われつつあります。

金融危機からの脱出も、自由経済がもたらす活力によって、全体主義の国よりすばやく実現できるはずなのに、実際には中国の強権的な統制の方が効果的でした。

こうなると、はたして自由主義経済はそんなにいいものなのかという気もしてきます。

逃げ場がない国家間抗争の時代へ


僕個人の気分としては、政権批判もできない中国に住むのはいやですが、かといって「強いやつがえらい」みたいな価値観が露骨で、人種差別がしつこく生き延びているアメリカに住むのもいやです。

こういう個人レベルの感想はともかく、世界が国家間の政治的、経済的、武力的な闘争の場であるという観点から見ると、20世紀後半に世界を支配していたヨーロッパ型のセオリーが、かつてのように圧倒的な優位を維持できなくなりつつあるように見えます。

自由主義経済はかつてのように世界全体を豊かにする活力を失い、国家が上に位置して経済と国民を統制する時代がやってくるのかもしれません。

ヨーロッパの歴史で見ると、17〜18世紀は絶対王政の国家=交換様式Bが支配する時代でしたが、その間に国家による経済振興が進んで経済=交換様式Cが発展し、市民が王政を倒して、地域の民衆だった交換様式Aが国家レベルの国民になり、国家=交換様式Bと経済=交換様式Cとの3点セットが完成した。

しかし、今のグローバル化した経済・政治の時代には、この欧米型のABCバランスがうまく機能しなくなっていて、それよりも中国型の国家による統制が有効だということになると、また世界は国家=交換様式BがACを上から支配する時代が来るかもしれない。

となると、国家は利害による対立をエスカレートさせていき、戦争へと発展するかもしれません。

実は20世紀初頭にもこうした状況が生まれて、第一次世界大戦・第二次世界大戦が起きたわけです。

多くの人は「なんで戦争なんかするんだ?」と考えるでしょうし、「戦争をしてはいけない」と言うでしょうが、戦争の背景には産業革命による爆発的な経済発展があって、それが国家間や産業間、社会階層間の格差を拡大して、いろんなレベルでの利害対立が激化していき、国家間では戦争、社会階層間では社会主義革命やファシズムの台頭みたいなことが起きたわけで、その根底には国家や経済の自由競争がありました。

自由競争はフェアなものだと考える人も多いようですが、突き詰めれば強いやつが勝つ弱肉強食のバトルロワイヤルですから、自由を容認するかぎり、勝者と敗者、支配者と被支配者が生まれ、憎しみやフラストレーションが蓄積され、武力的な抗争、戦争に発展するのはある意味避けられないことだとも言えます。

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