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童話の森

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こども〜ヤングアダルト向けの読み物を置いています。 ファンタジーや幻想小説など。
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2020年7月の記事一覧

ふうこよ眠れ

ふうこよ眠れ

 きのう、ずっと学校でお世話をしていた、うさぎのふうこがしんだ。もうだいぶ年だった。長生きして、静かな最後だったけど、悲しいことには変わりはない。その日、わたしは泣きながら帰った。

 次の日、わたしが落ち込みながら小学校へ行くと、大変なことが起きていた。ガヤガヤする教室のあちこちで、色とりどりの花が舞っているのだ。まるで、花畑の花たちが風に乗ってやってきたみたいだった。

「お、おはよう」
 お

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真夜なかの天使

真夜なかの天使

「あたしの羽根が欲しいの?」

 雪沢のまっすぐな瞳がぼくを射抜いた。夜の教室は月明かりだけがぼくらを照らし出していて、まるで舞台の終焉のようだった。雪沢は上半身はだかで、大きくない胸をさらしているのにはずかしがるようすはない。下はプリーツのスカートで細い膝をのぞかせている。肌は白いがところどころ日に焼けたように赤くなっていて少し痛そうだった。それが、透明な青い光に透けて幻想的にも見えていた。もっ

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クリスマスの奇跡

 クリスマスの前の晩。森の中の小屋にひとりで暮らすおじいさんは、となり町に住む孫たちのために何をプレゼントしようか、ずっと考えていました。
 小屋の外はしんしんとまっさらな雪がふりつもっていきます。夜は色を濃くし、月はずっと高くにのぼっていました。

 おじいさんが最後に孫たちに会ったのは一年も前です。明日、この小屋へみんなが遊びに来ることを考えると、何も用意していないことが不安で眠れそうにありま

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ひとりで歌うおんなのこ

ひとりで歌うおんなのこ

朝の静けさに包まれた町の、そこかしこが穴ぼこの石の円形劇場で、女の子は歌っていました。雲が流れてきて、たずねます。
「どうして誰もいないのに歌っているんだい」
「歌いたいからよ」
女の子は笑って言いました。

「ひとりでさみしくないのかい」
「こうして、あなたみたいに声をかけてくれる人がいるもの、さみしくないわ。あなたもひとりなのね?」
女の子がそう聞くと、雲はばかにしたように笑って言いました。

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いたずら猫共

いたずら猫共

 実樹の悩みは、顔にたったひとつある、大きなにきびでした。

十四歳になるころに右の頬にできたにきびは、十五歳を迎えた今日まで、ゆっくりと確実に育っていて、だんだん目立つようになってしまいました。気になって気になってついつい触ってしまうのでばい菌が入っているのかもしれません。

お母さんはよく実樹を見て、「あんた、触るからひどくなるのよ」と言っていました。そしてこうも言いました。「じきに治るわ。若

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ひとくいおに

 とてつもなく高い、とうのようながけのような山がありました。その山はひとつではなく、十以上が集まって立っていました。山の頂上は平らにならされ、いくつかには家がたち、またいくつかには学校がたち、またまたいくつかには果物屋や薬屋や服屋といった生活に必要な物を売る店がたっていました。そこに百人以上の人が住んでいました。
 山と山をつないでいるのは、山のツルやツタで作られたがんじょうなつり橋でした。何本も

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ジャーニー

わたしのおじいちゃんは、もう長くはない。
おじいちゃんがこうなるまで、病院が今までこんなに白くて、清潔で、さびしくて、痛々しいものだとは思ってもいなかった。それはこの少人数の部屋に限ったことなのか、それとも一般の大人数の病室もそうなのか、わたしにはわからない。
家族の、必死におじいちゃんを呼ぶ声がひどく響いていて、こんな狭い場所なのにひどく大きく聞こえた。
「おじいちゃん、ななこっ」
姉の都も叫ん

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