ふうこよ眠れ
きのう、ずっと学校でお世話をしていた、うさぎのふうこがしんだ。もうだいぶ年だった。長生きして、静かな最後だったけど、悲しいことには変わりはない。その日、わたしは泣きながら帰った。
次の日、わたしが落ち込みながら小学校へ行くと、大変なことが起きていた。ガヤガヤする教室のあちこちで、色とりどりの花が舞っているのだ。まるで、花畑の花たちが風に乗ってやってきたみたいだった。
「お、おはよう」
おっかなびっくり、近くにいたさよちゃんに声をかけると、さよちゃんは、ぶあっと口からきらきらひかる小花をはきだして、「おはよう、まきちゃん」と言った。わたしは仰天して目をぱちくりさせてしまったから、さよちゃんはふしぎそうな顔をした。
「どうしたの?」
「う、ううん。なんでもない」
まわりを見ると、やっぱりみんないつもの様子と変わらない。朝の会の前のにぎやかな風景だ。どうやら教室に散るこの花々は、みんなの口から出ているようで、それだけがきのうまでと違っていることだった。なぜだか、わたしの口からは何も出ていない。
(きっと、わたしにしか見えていないんだ)
そう思ったとき、チャイムが鳴りひびいて先生がやってきた。
「おはよう、みんな」
なんと、先生までもが、きれいな花をぽんぽん口から咲かせている!
なんだかうっとりとしてきてしまう。あんなに大好きだったふうこがいなくなってふさぎこんでいたのが、うそのようだった。
と、そのとき。机の上に乗せたランドセルからおかしな声がした。
『おうい、おうい』
びくっとかたがふるえたけど、誰もこちらを気にしているようには見えない。次はわたしにだけ聞こえる声かもしれない。そう思ってランドセルをひらくと、中から、たくさんの花びらを体にくっつけたふうこが飛び出してきた。
「あっ!」
正面から、ななめから、どこから見てもそれはやっぱりふうこだ。
「あなたのしわざだったのね! 最後までいたずらっこなんだから……」
小さくその姿に話しかけると、ふうこはにやりと笑ったみたい。そして、耳をぴょんと立てて、「今までありがと、まきちゃん」と言ってふっとどこかへ行ってしまった。
それと同時に、教室の花はゆっくりと霧が晴れるように消えていった。
「ふうこ、ありがと。ずっとだいすき」
お昼休みになったら、ふうこが眠る校庭の木の根元へ、大好きだったたんぽぽをお返しに行こう。わたしはそう決めて、ちょっとだけ目の端をぬぐった。
ーThe ENDー
image by:DreamyArt
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