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EMOARUHITO

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stiffslackのマンスリーで連載している創作ミニ小説 納品用としても使っています。
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記事一覧

クライムザマインドの完璧な演奏

クライムザマインドの完璧な演奏

僕は、完璧なクライムザマインドのライブを見たことがない。山内さんの声のコンディションをベースに構成されたセットリストはウルトラマンのカラータイマーのようなもので、限界が近づくとピコンピコンと音を立てる。

タイマーの時間を少しだけ延長するためのアイテムが一つだけある。「サクラ印のハチミツ飲み」だ。いつかのMCでも話していたが、嘗めているのではない、飲んでいるんだ。これは2013年1月13日、ライブ

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EMOARUHITO 閑話

EMOARUHITO 閑話

じこしょうかいのきかいをもうけていなかったので、しようとおもう。これは、こんげつのげんこうをおとしそうなので、くるしまぎれのぶんしょうであることをはじめにつたえておく。

はじめまして。ぼくのなまえは、にいみりょうたろうという。1986ねん5がつ3にちうまれの34さいだ。たんじょうびはまいとししゅくじつで、こどものころこそかぞくにおたんじょうびかいをかいさいしてもらっていたが、ちゅうがくせいくらい

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EMOARUHITO 閑話 ep.2 僕のエヴァ

EMOARUHITO 閑話 ep.2 僕のエヴァ

また閑話だ。すまん。でももう書かざるを得ないものを見てしまったのだ。
2021年3月8日(月)19:30、名古屋駅近くのシンフォニー豊田ビルにタクシーで乗り付けた僕は、AirPodsのノイズキャンセリングをすぐさまオンにした。大声でこの作品のことを語るやつらに出くわしても大丈夫なように、だ。
名古屋市最強のシネコンであるミッドランドスクエアでは、合計9スクリーンで一日通して「シン・エヴァンゲリオン

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EMOARUHITO vol.6 アカサカ①

EMOARUHITO vol.6 アカサカ①

仕事を終え、しっかりとマスクをして、久屋大通にある会社を後にした。
去年の冬に、恋人に少し支援してもらって買った上等なカシミヤのコートを羽織っても、耳や指先に冷たさを感じる。
食品メーカーで働くアカサカは、営業も兼ねて金曜日の夜は得意先の店に飲みに行くことにしているのだった。
やはり顔を見て直接やり取りをしたり、ある程度の席間隔を取ったとしても、ガヤガヤとした空気を感じられる時間は格別だ。
去年の

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EMOARUHITO vol.5 タケル

EMOARUHITO vol.5 タケル

「誰か電話に…あ、そうか」

本格的なテレワークが始まって、5ヶ月が過ぎた。
みんなが出社する曜日は、月水と決まっていて、逆にタケルはその日はオフィスにいない。
今のグラフィックデザイン会社に就職する時、息を巻いて会社から3分のところに引っ越してしまったタケルは、紆余曲折を経て、会社の見守り番のような役回りを社長から仰せつかっている。当の社長は、実家に疎開中で、テレワークを実施中とのことだ。そのス

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EMOARUHITO ep.4 里美

EMOARUHITO ep.4 里美

平日水曜の13時頃、中肉中背の眼鏡をかけ、伸びっぱなしの髪を後ろで結んだ男子大学生が若干マイナーな洋画を、すこしおずおずとした態度で持ってくる。先週はアキ・カリウスマキを数本と、ホン・サンスを借りていった。なかなかいいセンスじゃないか。でも平日に来るのはおかしくないか?一度ポイントカードと間違えて学生証を提示されたので、学生であることは間違いないのだが。しっかり卒業しなよ、眼鏡くん。

同じく平日

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EMOARUHITO ep.1 哲夫

EMOARUHITO ep.1 哲夫

哲夫は朝から緊張を感じながらも、毎朝のルーティンをこなしていた。

今日は大事なプレゼンの日。契約金額は 2 億円。ともすれば一時的に街並みを変えるほどの大きなプロジェクトだ。これがうまく行けば、社内、ひいては社会でも評価され、より生きやすくなるだろう。誰も口にしないが、失敗は許されない、そんな雰囲気の中で数週間を過ごしてきた。

それにも関わらず、午前 2 時までかかった資料の整理、ロープレは途

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