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『存在と時間』を読む 全88本

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#存在と時間

『存在と時間』を読む Part.1

 ご存じ、ハイデガーの『存在と時間』は20世紀最大の哲学書と言われるだけあって、これまで日本でも多くの訳本が出版されており、比較的簡単に手に取ることができる書物です。一般的に難解だというイメージがありますが、訳本も解説書もわかりやすいものがでていますし、読むことのハードルも下がっているように思います。

 しかし、原文を読んでみる機会はなかなかないのではないでしょうか。ドイツ語だし、文章量も多く、

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『存在と時間』を読む Part.2

 今回の投稿では、序論の第1章の第3節と第4節をみていきます。

  第3節 存在問題の存在論的な優位

 第2節では、存在への問いの形式的な構造に基づいて、存在の問いが特別な性格のものであることが示されました。しかしこの特別さが完全に明らかにされるためには、この問いの機能と意図、動機について、明確に定める必要があるでしょう。第3節の目的はそこにあります。

 まずは問いの動機について説明されます

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『存在と時間』を読む Part.3

 今回の投稿では、序論の第2章の第5節をみていきます。

  第5節 現存在の存在論的な分析論 ー 存在一般の意味を解釈するための地平を開拓する作業

 前の節では、現存在こそが存在問題において「問い掛けられるもの」であるべきだということが示されました。第5節では、この現存在に接近するための方法について考察されることになります。

 現存在に接近するといっても、そもそも現存在は私たち自身であるから

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『存在と時間』を読む Part.4

 今回の投稿では、序論の第2章第6節をみていきます。

  第6節 存在論の歴史の解体という課題

 この節の冒頭で、すべての学問は現存在の存在者的な可能性の1つとして営まれることが確認されます。すでに指摘されたように、学問は、存在者をこれこれの存在者として徹底的に探究することを目的とするからです。これに対して哲学は、存在論として、他のあらゆる学問に先行する、存在に問いを投げかける研究であったので

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『存在と時間』を読む Part.5

  
  第7節 探究の現象学的な方法

 存在への問いは、存在について問い、存在の意味を問い質すものでした。ハイデガーは、本書で使用されている存在論という語は、「領域的な存在論」のことではないことを指摘しています。というのも、以前のnote(Part.2)で説明されたように、この論考は「存在一般の意味を説明する存在論」を重要視するものであるからです。本書の試みは、存在の意味への問いを主導的な問い

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『存在と時間』を読む Part.6

 今回で第7節は終わります。

  第7節 探究の現象学的な方法

  C 現象学の予備概念

 AとBで確認されたことから、現象学とは「みずからを示すものを、それがおのずから現れてくるとおりに、そのもののほうから見えるようにすること」でした。これが現象学の概念の形式的な意味であり、「事象そのものへ!」というモットーはまさにこのことを意味していたのでした。このような現象学には、次に言われる特徴があ

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『存在と時間』を読む Part.7

 今回お届けする第8節をもって、序論は完了します。

第8節 考察の概要

 前回予告しておいたとおり、第8節は短いものとなっています。さっそくですが、冒頭の引用から入っていきます。

Die Frage nach dem Sinn des Seins ist die universalste und leerste; in ihr liegt aber zugleich die Möglichk

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『存在と時間』を読む Part.8

 前回までの投稿で、『存在と時間』の序論のご紹介をさせていただきました。今回から第1部に入っていくことになり、本格的な現存在分析が始まります。

第1部 時間性に基づいた現存在の解釈と、存在への問いの超越論的な地平としての時間の解明 第1篇 現存在の予備的な基礎分析

 第1篇は全部で6つの章によって構成されています。第1章では、本書の考察が「現存在の実存論的な分析」という意味を持つことが明確に提

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『存在と時間』を読む Part.9

  第10節 人間学、心理学、生物学と異なる現存在の分析論の領域の確定

 現存在、すなわち人間に対する学問は哲学だけではありません。人間学、心理学、生物学といった学問もやはり、異なる問題設定や方法によって人間について探究する学問です。しかし、存在論としての哲学はこうした学問よりも"先に"あるものだと言われてきました(Part.2、Part.8参照)。存在論によって、哲学ではない学問の領域が確定さ

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『存在と時間』を読む Part.10

  第11節 実存論的な分析論と未開な段階にある現存在の解釈、「自然的な世界概念」を獲得することの難しさ

Die Interpretation des Daseins in seiner Alltäglichkeit ist aber nicht identisch mit der Beschreibung einer primitiven Daseinsstufe, deren Kenntni

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『存在と時間』を読む Part.11

 第2章 現存在の根本機構としての世界内存在一般

  第12節 内存在そのものに基づいた世界内存在の素描

Dasein ist Seiendes, das sich in seinem Sein verstehend zu diesem Sein verhält. Damit ist der formale Begriff von Existenz angezeigt. Dasein exis

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『存在と時間』を読む Part.12

 前の節では、世界内存在の素描が行われ、重要な概念がいくつか登場しました。そこで、ここまでに登場した概念をドキュメントで確認してみましょう。

 まずは >In-der-Welt-sein< で、これは「世界内存在」です。その下に >Das Wie des Daseins: phänomenologische Untersuchung.< と書かれていますが、これは「現存在が"どのように"あるかー

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『存在と時間』を読む Part.13

 第3章 世界の世界性
  第14節 世界一般の世界性という理念

 世界内存在の「世界」という構造契機に注目するのが、この節の課題です。しかし、「世界」という語は多義的であって、本書で考察すべき世界とは何のことなのかをまず確認しておく必要があります。

 基礎存在論は現象学的に遂行されますが、「世界」を現象として記述するとはどのようなことかと、ハイデガーは問い掛けます。世界内部的に存在する存在者

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『存在と時間』を読む Part.14

 A 環境世界性と世界性一般の分析

  第15節 環境世界において出会う存在者の存在

 前節までで確認されたことは、現存在が日常の生活のうちで生きている世界は、近代哲学で考察されてきた被造物の世界という意味での自然としての世界ではなく、環境世界です。環境世界と訳すドイツ語は >Umwelt< ですが、注目すべきは前綴りの >um< です。ウムというこの前置詞は大きく分けて4つの重要な意味をそな

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