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小説

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#小説

剛腕少女

 僕の幼馴染はその人並み外れた剛腕で子供の頃から損ばかりしている。
 初対面の時、挨拶のつもりで握手をしたはずみに手首を折られた。まだ保育園の時分のことだ。なぜそんな無茶をできたと聞く者があるかもしれない。なんてことはない。彼女──剛腕寺火憐が人並み外れた膂力と頑強さを持っていたからに過ぎない。
 遊戯の時間に暇だから「高い高い」をして欲しいと頼み込んだ。しかし天井に頭を突っ込んで突き破って「他界

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(没)writing

(没)writing

 読書感想文なんて本を読まない児童に本への嫌悪感を促すだけの効果の宿題、というのは小学四年生の時のぼくの言である。
 当時はあの活字の羅列された紙束を見るたびに肌が粟立った。よくもあんな醜悪な代物がこの世にのさばっているものだと、見るたび胸がムカついた。
 変化が訪れたのは中学生に上がった時のこと。授業で800字で小説を書けという国語教師のお達しに殺意を覚えながら鉛筆の先を尖らせていたぼくに、他の

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壊校

壊校

2020年 
2年B組 百舌鳥 実

 いきなりですが、世界は滅びました。
 今残っているのはここ、架空ヶ崎高校(以下、架高)の校舎のみとなります。
 ここに至るまでに色々なことがありました。三國劉の暴行事件。生徒の集団失踪。校内で頻発する怪奇現象からの怪異生物の出現に伴う虐殺事件。謎の瘴気による淫売術式の完成からの校内大乱交。異形の権能が發顕した生徒間による戦闘行為。
 わたし、百舌鳥実は友人の

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金剛

 男は死にかけていたが、その目には強い光があった。
 襤褸を身に纏い、骨に皮が乗っているだけのような四肢が隙間から覗いている。強い紫外線に曝されて肌は焼かれ、目の下には深い隈があった。
 生きているのが不思議なほどだった。死者が墓から蘇ったのか、そう思わせるほど色濃い死の影が男を縁取っている。
 周囲には目を刺す銀色が陽光を受けて煌めいていた。鉄錆、砂、そして銀色といった、赤茶の地面に突き立った無

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ゐ変

ゐ変

 眠気も飛ぶような妙な夜であった。
 私はふと目を覚ますと窓の外で猫が鳴く声がしたので床から抜け出し、肌寒さに毛をそそけ立てながら寝床の緞帳をめくり、窓を開いて宙に白い息を吐いた。
 満月の夜である。
 はるか先に超高層の楼閣を拝みながら窓枠に肘を置き、腕でその身体を抱え込んだ。
 ここに居を構えてからもう数年になる。始めは違和感を生じさせた天井と地を繋ぐ卒塔婆の群れや、赫色に明滅する遊乱燈も見慣

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Pages

Pages

「だからさ、このままここにいてもいいんじゃない?って思って」
 ぼくはそうは思えない。
 彼女を前にしてぼくは熟考する。そして口を開いた。
「……君も、夢を見るよね」
「見るけど?」
「ぼくはね、夢が何層も重なることがあるんだ。どうしても起きなきゃいけない朝、夢を抜けてベッドから出る。けれども体が妙に重いし現実感がない。そこで再びこれが夢だって気づくんだ。そしてまた起きようとする。けれどもそれもま

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アイアンフィスト

アイアンフィスト

 やはり人体というのは破壊するに限る。
 それが闘争の結果なら尚更だ。
 そこは一見、コンクリートで塗り固められた、地上に剥き出しのモノリスを思わせる建築物であった。窓一つとしてなく、出入り口は分厚い鋼鉄の扉のみ。目出し窓が設けられたそれを叩き、門番を呼び出して人の目による認証の後、門扉が開かれる。中に踏み入れば誰でも、そこはおおよそ健全な活動が行われている場所ではないことを肌で察する。同時に膚を

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太陽神

太陽神

 超高高度。
 地球軌道上から落下した巨人──“巖武羅”〈太陽神〉は陽光のさざめく蒼天の中、積層する雲海に突入しようとしていた。
 巨人の腹の裡、コクピット内に風の音は響かない。硬い外甲に守られ、さんざめく日照炉の音以外は奇妙な静けさを保っていた。
 外気と相違ない景色が三百六十度広がる球体に一人の少年がいた。
 茶色の頭髪がその反抗心を表すように棘をもって上に突き出し、額は賢げに広く、口元には意

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