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一万編計画

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一万編の掌編小説(ショートショート)を残していきます。毎日一編ずつ。
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2022年5月の記事一覧

my room。

実家の部屋。何万回、いや何億回。数えるのには余りにも途方もない回数を往復し、思考を反芻し…

怪獣。

深夜の帰り道10キロ。誰しもが眠りに就いていて、行き交う人は一人もいない。僕だけが千鳥足で…

ヘテロセクシュアル。

僕は、ある女性を愛している。しかしそれが、世間一般で語られるところの愛であるかどうかに、…

死神。

僕は君の死に方を知っている。君は旅先で刺殺される。君は、旅先で殺人現場に出くわし悲鳴をあ…

夢縛の風船。

まるで自分のことではないと感じるほどに昔の出来事である。あの頃僕は4歳か5歳で、住宅街の一…

まどろみてふてふ。

「それは、まどろみてふてふの仕業だわ」 「まどろみてふてふ? 」 「眠りを吸いとってしま…

ネグローニ。

ジン、カンパリ、使い残したドライ・ベルモット。スイートベルモットが定石ではあるが、カクテルは時にレシピを越えた色褪せない情景を映す。 「〝初恋〟」 ワインレッドの唇から落とされたその言葉は、僕に絵画的な何かを感じさせた。 「初恋? 」 「ネグローニのカクテル言葉」 グラスに映える透明な赤褐色は、僕の視線をほしいままに奪った。 「そんなものがあるんですね」 「女の子を拐かしたいなら、それくらい知っていないと駄目よ」 ぼうや、と彼女が囁いたような気がした。その吐息

うらめしや。

墓場で缶チューハイを空けていると、決まって幽霊が声を掛けてくる。 「うらめしや」 「何が…

とある手記。

私は時々考えることがあります。私が世界に取り残されて、どこへ叫んでも反響のしないような孤…

遺書の束縛。

彼女の遺書は、大衆の眼前に曝された。僕は彼女の名前を書店で見る度に、背筋に氷柱が走り、動…

生霊の仕業。

二日酔いでもないのに、その日は気怠さに包まれていた。夕方を過ぎても、その厭な感じは拭うこ…

気まぐれな法則。

昨夜はいささか長い夜だった。いつもより一杯多く呷った。今朝の太陽はいささかのんびりと陽を…

古時計。

僕は律儀な定間隔で針を刻み続けている。止め方は分からない。僕に分かるのは時間の間隔と、針…

悟死。

幸甚とはまさにこのことか。私は不図、悟りました。今ここで生を諦めることが何よりの幸甚であると、私は悟ったのです。私は生に固陋で、執着していました。生きることのみが正義で、死することは悪徳であるとさえ思っていました。死することを堪らなく嫌煙し、厭々生きていたのです。これは、善く生きていると言えるのでしょうか。私は悟りました。私は知りすぎたのです。考えすぎたのです。そこに意味なんてないのに、意味を求めすぎたのです。私は人としての道を踏み外しました。私が望む先に、道はもうありません