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読書熊録

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2023年9月の記事一覧

今後5年ずっと楽しめる英国ミステリーーミニ読書感想『ナイフをひねれば』(アンソニー・ホロヴィッツさん)

今後5年ずっと楽しめる英国ミステリーーミニ読書感想『ナイフをひねれば』(アンソニー・ホロヴィッツさん)

アンソニー・ホロヴィッツさんの「ホロヴィッツ&ホーソーン」シリーズ第4作『ナイフをひねれば』(山田蘭さん訳、創元推理文庫2023年9月8日初版)が、またもやページターナーでした。読む手が止まらない傑作。英国の著名作家、ホロヴィッツさんが「本人役」で主人公となり、架空の探偵ホーソーンと殺人事件に巻き込まれていく本シリーズ。解説によると、全部で10作品程度が予定されていて、今後5年はずっと味わい続けら

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首が長くなったから高い木を食べることにしたーミニ読書感想『死なないやつら』(長沼毅さん)

首が長くなったから高い木を食べることにしたーミニ読書感想『死なないやつら』(長沼毅さん)

生命の本質を追求する生物学者、長沼毅さんの『死なないやつら』(講談社ブルーバックス、2013年12月20日初版)が面白かったです。超高温や放射線など、過酷な極限環境でも生きられる生物を通じて「生命とは何か」を考える本書。とりわけ響いたのは「進化とは何か」を考える第3章でした。

進化論を語る時、ミームとしてキリンの例が使われます。突然変異で生まれた首の長い個体が、高い樹木の葉を食べるのに適していた

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障害と共に生きる中で生まれる「年輪」ーミニ読書感想『記憶する体』(伊藤亜紗さん)

障害と共に生きる中で生まれる「年輪」ーミニ読書感想『記憶する体』(伊藤亜紗さん)

中途失明者や、若年性認知症患者、事故で身体の一部を失った幻肢痛経験者などにインタビューした伊藤亜紗さんの『記憶する体』(2019年9月30日初版発行、春秋社)が学びになりました。それぞれの方に、それぞれの「ローカル・ルール」がある。身体に特有なありようはなぜ生まれるのか、考えさせられる本でした。

二分脊椎症という生まれつきの障害で、右脚の感覚がない方の言葉が印象に残りました。その方は、その感覚を

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等身大の言葉こそ救いーミニ読書感想『大学教授、発達障害の子を育てる』(岡嶋裕史さん)

等身大の言葉こそ救いーミニ読書感想『大学教授、発達障害の子を育てる』(岡嶋裕史さん)

ネットワークやプログラミングの専門家(研究者)岡嶋裕史さんが、ASDの息子の子育て記をまとめた『大学教授、発達障害の子を育てる』(2021年2月28日初版、光文社新書)が面白かったです。大学教授と銘打っていますが、だからといって特別ではない。悩み戸惑う等身大の言葉。暗夜航路を行く言葉。でも、研究者だけに物事を調べながら、コツコツと進む日々。胸に染み入ります。

たとえばこんな文章。

めちゃくちゃ

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ASDの内的世界を学べる本ーミニ読書感想『自閉症だったわたしへ』(ドナ・ウィリアムズさん)

ASDの内的世界を学べる本ーミニ読書感想『自閉症だったわたしへ』(ドナ・ウィリアムズさん)

ASD(自閉スペクトラム症)当事者のドナ・ウィリアムズさんの自伝的著書『自閉症だったわたしへ』(河野万里子さん訳、2000年7月1日初版発行、新潮文庫)が勉強になりました。定型発達者の多い私たちは、ASDをその外的特徴から「通常とは異なる」と判断する。しかし、それは当然ながら、ASD当事者が「どう感じるか」とは別の話。そうしたASD当事者の内的世界、内的感覚を、言葉を通じて学べる本でした。

著者

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シマウマの中のワシーミニ読書感想『脳はみんな病んでいる』(池谷裕二さん、中村うさぎさん)

シマウマの中のワシーミニ読書感想『脳はみんな病んでいる』(池谷裕二さん、中村うさぎさん)

脳科学者・池谷裕二さんと作家中村うさぎさんの対談本『脳はみんな病んでいる』(新潮文庫、2023年8月1日初版発行)が面白かったです。魅力的なタイトル。認知症や統合失調症、ギャンブル依存症、そしてASDなどの発達障害といった脳、認知をめぐるテーマを縦横無尽に語り合い、「正常と異常」の境界を問いかけます。

小説ではないので、多少のネタバレは許されるかなという気持ちで書くと、本書ではある症状に関して2

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