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読書熊録

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2023年3月の記事一覧

この「ヒデミス!」がすごいーミニ読書感想『黒き荒野の果て』(S.A.コスビーさん)

この「ヒデミス!」がすごいーミニ読書感想『黒き荒野の果て』(S.A.コスビーさん)

2019年デビューのクライムノベルの新星、S.A.コスビーさんの『黒き荒野の果て』(加賀山卓朗さん訳、ハーパーブックス、2022年2月20日初版)が傑作でした。米国の貧困地帯を舞台に、カーアクションをふんだんに盛り込んだ犯罪小説。ハラハラしすぎて、読んでいる最中に「ここはハイウェイの上か?」と何度も錯覚した。

本書は、ゲームクリエイター小島秀夫さんが選ぶその年のミステリー小説ベストバイ「ヒデミス

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土と生き物のことを考えたら救われたーミニ読書感想『大地の五億年』(藤井一至さん)

土と生き物のことを考えたら救われたーミニ読書感想『大地の五億年』(藤井一至さん)

土をテーマにする研究者、藤井一至さんの『大地の五億年 せめぎあう土と生き物たち』(ヤマケイ文庫、2022年7月5日初版)に救われました。本書を読んでいたのはさまざまな個人的事情でどん底の時期だったのだけれど、広大ではるかな歴史を含む土のことを考えると、深呼吸がつけたのでした。

タイトルの通り、地球にどうやって土が誕生したのか、そしてその上で、あるいは地下で、生き物たちはどのように土との関係を結ん

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「取り残された人」のための物語ーミニ読書感想『望楼館追想』(エドワード・ケアリーさん)

「取り残された人」のための物語ーミニ読書感想『望楼館追想』(エドワード・ケアリーさん)

鬼才エドワード・ケアリーさんのデビュー作『望楼館追想』(古屋美登里さん訳、創元文芸文庫、2023年1月27日初版)が胸に深く残りました。これは時代に、社会に、「取り残された」と感じる人のための物語です。

取り残された人。それは、社会の側から見れば「共感できない人」とも言えます。

本書の主人公フランシス・オームは、望楼館という今や古びた集合住宅「望楼館」に住んでいる。身近な人の大切なものを盗むと

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「理解できない」をほどくーミニ読書感想『跳びはねる思考』(東田直樹さん)

「理解できない」をほどくーミニ読書感想『跳びはねる思考』(東田直樹さん)

重度の自閉症者であることを公表している作家、東田直樹さんが著した『跳びはねる思考 会話のできない自閉症の僕が考えていること』(イースト・プレス、2014年9月9日初版発行)が面白く、学びになりました。東田さんは、文字盤を指差しながら言葉を発する「文字盤ポインティング」やパソコンを使い、会話にはできない自らの思考を言語化することが可能だといいます。

定型発達者には、自閉症者の感覚は理解が難しいし

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惑うための技術ーミニ読書感想『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる』(谷川嘉浩さんら)

惑うための技術ーミニ読書感想『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる』(谷川嘉浩さんら)

哲学者・谷川嘉浩さん、同じく哲学者・朱喜哲さん、公共政策学者・杉谷和哉さんの3人の座談を収録した『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる 答えを急がず立ち止まる力』(さくら舎、2023年2月10日初版発行)が面白かったです。ネガティヴ・ケイパビリティとは、日本語にすると「不安を受け止める力」。不確実で、曖昧で、答えの出ない状況に「それでも」立ち止まる力です。本書は、そのネガティヴ・ケイパビリティを発揮

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自分だけの「読書地図」を描きたくなるーミニ読書感想『SF超入門』(冬木糸一さん)

自分だけの「読書地図」を描きたくなるーミニ読書感想『SF超入門』(冬木糸一さん)

SF小説、ノンフィクションの注目最新作を発信している名ブログ『基本読書』のオーナーである冬木糸一さん初の単著『SF超入門 「これから何が起きるのか」を知るための教養』(ダイヤモンド社、2023年2月28日初版発行)が面白かったです。読書ブログの積み重ねの中で培った、冬木さんのSF知識が総動員された一冊。どのSF作品が、どのように面白いのか、「SF沼」を俯瞰する「地図」を提示する。

その地図を辿る

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中国的想像力ーミニ読書感想『老神介護』(劉慈欣さん)

中国的想像力ーミニ読書感想『老神介護』(劉慈欣さん)

劉慈欣さんの短編集『老髪介護』(大森望さん、古市雅子さん訳、KADOKAWA、2022年9月7日初版発行)が安定の面白さでした。訳者あとがきで、劉作品はいまや中国文学の代表で、「中国的想像力」の旗手であるという指摘が言い得て妙だと感じました。人間の本質を問う寓話性と、ぶっ飛んだSF的世界観。「古事」と「超最先端」の融合が、まさに中国的想像力だと思うのです。

たとえば、神が地球と同じように想像した

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