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どこかの町の高田
2024年4月16日 23:28
言葉にならないくるしみが、笹原を覆いました。なぜ、俺は俺でしかないのか、なぜ、俺は俺の人生しか歩めないのか。笹原は不思議で仕方がなかったし、つよい憤りすら感じていたのです。笹原は午前2時の人通りも車通りも少なくなった道路で踊る。ゆるやかに身体をひらき、まわし、ときに低く高く唄いました。(俺が、俺がひとつの舞となれば、俺がもはや個人というものから抜け出してしまえば、俺が、他人の心をこのからだにそ
2024年4月11日 20:28
「愛がすべて、すべては愛」そういいながら、歌いながら踊りながらわらいながら、青年はきれいに狂っていった。ほっそりした胸元には柘榴の刺青をして。青年は自らの感性が、もはや時代には適合しないのだと知っていた。出会う女はみなうつくしかった、それがゆえにかなしかった。「滅びることのない倫理をさがしに行こう」彼はゆうれいのように河川敷を歩くことがあった、風がささやいていた。「遠くに行こう、とおくにいこう
2024年4月7日 23:08
寧音は春の川辺を歩いていました。うつくしいものは損なわれないものであると信じ、きずなが朽ち果てても、それはあらたなきずなの土壌となるのだと信じて。寧音のまんまえから春のあらしが吹いてきて、彼女はなにかを思い出しそうなくらい喜びます。小さい頃いっしょにいた大型犬が抱きついてきたときみたいな、安心感を感じながら。「あーあ、まるで馬鹿らしいことばっかじゃん! 私はもう二十四歳、これからゆるやかに