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デイ・ワン(1989年)とシャドー・メーカーズ(1989年)-オッペンハイマーとマンハッタン計画を描いたドラマ・映画-『いま我は死(神)即ち世界の破壊者となれり。』

いま我は(擬人化された)(大鎌や草刈鎌を手に持ち黒い傷んだローブを身にまとった人間の白骨の姿で描かれる西洋の死神)、即ち、世界の破壊者となれり。』等に関する引用で前置きが長くなりました。お急ぎの方は本文へ進んでください。

NBC White Paper (1965)
The Decision To Drop The Bomb (Reported by Chet Huntley)

世界が従来のままではなくなることが我々にはわかった。笑った者はほとんどおらず、泣いた者もほとんどおらず、大多数は黙っていた。

ヒンズー教の経典バガヴァッド・ギーターの一節を私は思い出した。王子に務めを果たすよう説得しているヴィシュヌ神が、王子に感銘を与えるために、多腕の姿で『いま我は死(神)即ち世界の破壊者となれり。』と話す。

我々は皆、何等かの形で、そのように考えたと私は思う。


In May 1946, he (Sir Winston Churchill) confided to a close associate that he expected to have to ‘account to God as he had to his own conscience for the decision made which involved killing women and children and in such numbers’. A little later, he admitted that ‘the decision to release the Atom Bomb was perhaps the only thing which history would have serious questions to ask about . . . I may even be asked by my Maker why I used it but I shall defend myself vigorously and shall say - Why did you release this knowledge to us when mankind was raging in furious battles? 

神は私になぜ原爆を使用したのかたずねられるかもしれない。
しかし、自己弁護させてほしい。
人類が熾烈な戦いの最中にあった時に、なぜ神はこの知識を私たちに与えたのだろうか。


ウィンストン・チャーチル卿(元英国首相)

Churchill, God and the Bomb
Did the idea of nuclear war make Britain’s wartime leader more God-fearing?


昨年、米国、他で公開されて以来ずっと話題になっていたオッペンハイマー

が明日から国内でも上映されます。オスカー像を7つ(作品賞・監督賞・主演男優賞・助演男優賞・撮影賞・編集賞・作曲賞)も獲ったので、かなりの観客動員数が期待されますが、これまでのハリウッド映画と同様に、被爆地と被爆者に尺が割かれていないことについて批判する意見は少なくないようです。この点については、二重被爆に関する書籍の映画化権を十数年前に取得しているジェームズ・キャメロン監督に期待したいと思います。


. . . he hopes to take time before “Avatar 4” to direct a pet project, “The Last Train From Hiroshima: The Survivors Look Back,” based on the book by author Charles R. Pellegrino. Research included an interview with the late Tsutomu Yamaguchi, the last known survivor of both the Hiroshima and Nagasaki bombings.

"We live in a more precarious world than we thought we did," says Cameron, reflecting on the war in Ukraine and resurgent nationalism. "I think the Hiroshima film would be as timely as ever, if not more so. It reminds people what these weapons really do when they’re used against human targets."


明日公開される映画で(教科書には載っていない)オッペンハイマーを知った若い皆さんも多いと思いますが、(元から右寄りのフジテレビ系列局と日本テレビ系列局を含め)放送業界全体が今世紀に入ってから(特に、逆らうと電波を止めると言われてから)右旋回するまでは、毎年夏になると原爆投下や水爆実験がもたらした惨禍や核兵器の禁止・拡散について取材した多数のドキュメンタリー番組が放送されていました。画面が4:3の古い番組はあまり見当たりませんが、動画サイトに野良アップロードされている番組も散見されますので、ご興味があれば、検索してみてください。


NBC White Paper (1965)
The Decision To Drop The Bomb (Reported by Chet Huntley)

We knew the world would not be the same. A few people laughed, a few people cried. Most people were silent.

I remembered the line from the Hindu scripture, the Bhagavad Gita: Vishnu is trying to persuade the Prince that he should do his duty and, to impress him, takes on his multi-armed form and says, ‘Now I am become Death, the destroyer of worlds.

I suppose we all thought that, one way or another.

世界が従来のままではなくなることが我々にはわかった。笑った者はほとんどおらず、泣いた者もほとんどおらず、大多数は黙っていた。

ヒンズー教の経典バガヴァッド・ギーターの一節を私は思い出した。王子に務めを果たすよう説得しているヴィシュヌ神が、王子に感銘を与えるために、多腕の姿で『いま我は死(神)即ち世界の破壊者となれり。』と話す。

我々は皆、何等かの形で、そのように考えたと私は思う。

"I am become Deathis a present-perfect construction equivalent to
I have become Death."

This quotation illustrates an archaic English verb construction that is now found chiefly in literary, poetic, or religious writings. It is the use of forms of "be" in place of "have" as an auxiliary verb in compound tenses:

"The prince is arrived."
          instead of
"The prince has arrived."

and

"The prince was arrived."
          instead of
"The prince had arrived."

Grammarphobia (March 2, 2020)

death (noun) - the destroyer of life represented usually as a skeleton with a scythe


「私に告げてください。恐ろしい姿をしたあなたは誰なのか。あなたに敬礼します。最高の神よ。お願いです。本初たるあなたを知りたいと思います。私はあなたの活動の目的を理解していないので。」(11.31)

「私は世界を滅亡させる強大なカーラ(時間)である。諸世界を回収する(帰滅させる)ためにここに活動を開始した。たとえあなたがいなくても、敵軍にいるすべての戦士たちは生存しないであろう。」(11.32)

「それ故、立ち上がれ。名声を得よ。敵を征服して、繁栄する王国を享受せよ。彼らはまさに私によって前もって殺されているのだ。あなたは単なる機械(道具)となれ。アルジュナ。」(11.33)

「ドローナ、ビーシュマ、ジャヤッドラタ、カルナ、その他の勇士たちは私により殺されているが、あなたは彼らを殺せ。慄いてはいけない。戦え。戦いにおいてあなたは対抗者たちに勝利するであろう。」(11.34)

バガヴァッド・ギーターをわかりやすく解説


また、戦後、オッペンハイマーはアメリカ全土で吹き荒れた赤狩りの犠牲となり、晩年は決して幸福ではなかったようです。



尚、史上初めて広島に投下された広島型原子爆弾(リトルボーイ)は140ポンド(63.5kg)もの高濃縮ウラン(ウラン235)を装填する必要があったことも理由の一つとして、実際に爆発させる実験を一度も行うことなく、B-29(エノラ・ゲイ号)に搭載されました。

(視界が不十分であった小倉を迂回して)長崎に投下された長崎型原子爆弾(ファットマン)は、明日公開される映画の中でも描かれている通り、1945年7月16日にホワイトサンズ射爆場(ニューメキシコ州アラモゴード砂漠)で行われたトリニティ試験トリニティ実験(史上初めての核爆発実験)でそのプロトタイプが実際に爆発させられました。



The final target order was drafted by Groves, shown to Truman, approved by Stimson and Gen. George Marshall, chief of staff of the U.S. Army, and issued on July 25. A directive was sent from Lt. Gen. Thomas Handy, deputy chief of staff, to Gen. Carl Spaatz, commander of the Strategic Air Forces in the Pacific. It said that “after about 3 August 1945,” the 20th Air Force would deliver its first “special bomb” on Hiroshima, Kokura, Niigata, or Nagasaki (an earlier draft made it clear this was the order of priority). The bombing would be done visually (not by radar), and the bomber would be accompanied only by a few observation aircraft. Furthermore, “additional bombs will be delivered on the above targets as soon as made ready by the project staff. ”New targets would be chosen once the first four were eliminated. It was not an order to drop one atomic bomb; it was an order to permit the dropping of as many atomic bombs that were or would become available.


さて、アメリカをはじめ諸外国においても(アメリカ、イギリス、カナダが原子爆弾の開発・製造のために科学者や技術者を総動員した)マンハッタン計画を描いた映画やテレビドラマは昔から折にふれて制作されてきました。それらの中から、二つ、紹介したいと思います。

一つは1989年3月5日にCBS系列局で放送された(テレビドラマ)デイワン 最終兵器の覚醒(めざめ)です。サブウェイ・パニック(1974年)で知られるジョセフ・サージェントが監督し、エミー賞を受賞しています。

日本で劇場公開・テレビ放映されたことはなく、原作小説の翻訳版も出版されていませんが、劇中にアインシュタイン、他、大勢の科学者・技術者・軍人・政治家が登場し、マンハッタン計画の経緯が時系列に沿ってわかり易くまとめられています。開発に携わった大勢の科学者や技術者が広島と長崎の惨禍をスライド映写で観る場面も終盤に盛り込まれています。

国内ではDVD化されておらず、海外からDVDを輸入しても日本語字幕は付いていないので、例えば、Google Chrome で英語字幕を自動生成しながらご覧ください。


【 本編 】

【 予告編 】


もう一つは1989年の秋に公開されたシャドー・メーカーズ(原題は『長崎型原爆と広島型原爆』)です。キリング・フィールドやミッションで知られるローランド・ジョフィが監督し、ヴィルモス・スィグモンドが撮影し、エンニオ・モリコーネが音楽を担当しましたが、キリング・フィールドの脚本も手がけたブルース・ロビンソンが本作では史実を曲げ過ぎた(ノベライゼーションの日本語訳が文庫で発売されていました)ためか、公開時に大こけして今では忘れられた作品です。

マンハッタン計画全体を指揮した陸軍のレズリー・グローヴス少将に扮したポール・ニューマンの演技も評価は低かったようですが、(実際には原子爆弾が投下された後に発生した臨界事故をモデルにした事故を含む)開発中の事故も描かれており、嫌いな作品ではありません。


【 本編 】

【 予告編 】

【 サウンドトラック 】


オッペンハイマーを鑑賞された後にデイワンとシャドー・メーカーズをご覧になれば、アメリカ国内でこの30年余りの間に核兵器に対する考え方が変わった・変わらなかったことを確認する一助となるかもしれません。お時間があれば...





















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