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社内セミナー「DEIから考えるクリエーティブ表現」を開催しました#クロスのDEI

広告をはじめ、あらゆるクリエーティブコンテンツ制作の現場において、DEI(Diversity, Equity & Inclusion)の視点がますます不可欠となっています。

DEI委員会では、クリエーティブコンテンツを制作する上で必要とされる多様な視点を理解し、社員の意識を高めることを目的に、「DEIから考えるクリエーティブ表現」セミナーを2023年12月13日(木)に開催しました。

前回に引き続き、DEI総研の伊藤義博さんを講師に迎え、過去に公開されたクリエーティブ(おもに広告・CM)を題材に、ディスカッション形式で社員に参加してもらいながら理解を深めました。

このnoteでは、クリエーティブコンテンツ制作に携わる人々が押さえておくべきDEIの視点を中心にレポートします。

講師:伊藤 義博(DEI総研 代表)
2010年 電通ダイバーシティ・ラボ(DDL)設立準備から事務局長、代表を務める。DDLはダイバーシティ&インクルージョンを起点とし、社会課題と企業課題の同時解決を目指すソリューション開発ラボ。ダイバーシティ全領域で20以上のプロジェクトを統括・推進。2023年4月に電通退職後、DEI総研を設立。

前回セミナーのレポートはこちら

モヤモヤ事例を見ながらディスカッション

DEI委員会メンバーがモヤッとした広告・CMや社内アンケートで回答のあった事例を取り上げ、「どんな部分がモヤッとするのか/しないのか」をディスカッションしました。以下は、社員のコメントや伊藤さんからの補足です。

CASE1|女性営業が取引先から「すごいですね」と言われるCM

上から目線の言い方で、なんでそんな言い方をするんだろうと思った。一方、発言内容は日常会話でポロッと、良かれと思って言ってしまいそうになる。

私がその女性の立場だったら、すごくプレッシャーに感じてしまう。

男性が女性に高圧的で、年齢差も相まって、煽るような態度に見えた。

何に対して「すごい」と言ったのか曖昧で、CMの設定も相まって、不快な気持ちになる人もいるだろうなと思った。

伊藤さんから、悪意なきレッテル貼りでモヤッとさせられる上から目線の言動である、「マイクロ・アグレッション(小さな攻撃)」について説明がありました。良かれと思って、または褒めているつもりのことが多く、アンコンシャスバイアス(無意識の思い込みや偏見)が以下のような発言を引き起こしてしまうそうです。

こういった思い込みや偏見は、男性だけでなく、女性も持っていることが内閣府による調査で明らかになっており、こういった決めつけが当事者をイヤな気持ちにさせる可能性があることを念頭に置いて取り組むことが大切です。

また、広告業界における取り組みや国際的な動向にも触れられ、例として「カンヌライオンズ」や「カンヌ-脱ステレオタイプ同盟」、「イギリス広告基準協議会」が紹介されました。

世界最大の広告祭「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」(通称:カンヌライオンズ)
性差別や偏見を打ち破るクリエーティブを讃える賞「グラスライオン」が2015年に新設

カンヌ-脱ステレオタイプ同盟」(Unstereotype Alliance)
ジェンダー平等と女性の権利のための国連機関・UN Women(国連女性機関)が立ち上げ。世の中に影響力を持つ広告にはびこる有害なステレオタイプを一掃することを目指しています。

イギリス広告基準協議会(ASA)
2018 年、有害な性別ステレオタイプ(世間的固定概念)を描く広告を禁止することを決定。イギリス広告基準協議会が、広告における性別ステレオタイプについての審査を行ったところ、一部の有害なステレオタイプの描写は、「子どもから大人まで、あらゆる人の選択肢や野心、機会を狭めるもので、一部の広告が性別に基づく不平等を助長している」ことが示唆された。

また、ジェンダーバイアスをテーマにした良い事例として、ハイネケンが2020年に「すべての人に乾杯(Cheers to all)」と銘打ったキャンペーンCMが紹介されました。

舞台はレストラン。ウェイターがハイネケンとカクテルを席に持ってくると、当然のようにハイネケンを男性に、カクテルを女性に渡し去っていきます。しかし、男女は苦笑いしながらグラスを交換します。ハイネケンを頼んでいたのは女性で、カクテルは男性の注文でした。

ウェイターがビールを男性に、カクテルを女性に渡す場面が続き、最後は「男性だってカクテルを飲む(Men drink cocktails too.)」というメッセージで締め括られます。

CASE2|男の子が登場する、おもちゃ人形のCM

制作過程で話し合いがあって、男の子を意図的に出演させたんだろうなと、良い意味で違和感を感じた。

よく見るCM。かなり違和感はあるけれど、広告主側の事情を理解しつつ見ていた。

ジェンダーを意識したCMやテレビ番組を見る子どもたちが大人になっていくので、違和感を感じるけれど、意識していかなければいけない。

伊藤さんから、ジェンダーや人種にまつわる社会の動きや言葉の選び方について解説がありました。

現在、ランドセルは赤と黒だけでなくカラーバリエーションが多様化しており、アニメ映画においては黒人のプリンセスも登場するなど、生活のあらゆる場面で多様化への配慮が進んでいることが紹介されました。

● 女性社長/女医/女優
● 男らしさ、女らしさ
● お人形遊び、自動車ごっこ
● おばさん、おじさんという呼称
●「母子手帳」の名称変更

日本ではパートナーを指す言葉が「旦那さん/奥さん」「ご主人/奥さま」といった主従関係のある言葉しかなく、ふさわしい言葉を見つけることが今後の課題になるだろうと述べられました。

また、「LGBTQ+」(レズビアン Lesbian、ゲイ Gay、バイセクシュアル Bisexual、クエスチョニングまたはクィア Questioning, Queerの5つの頭文字に + プラスアルファを付けた通称)に関する表現についても紹介がありました。

おかま/ホモ:
蔑称的な歴史があるためNG「ゲイ」

 レズ:
ポルノ映画で用いられてきた言葉で、男性用に消費されてきた歴史があり当事者からイヤがられているため、「レズビアン」または「ビアン」と

 トランスジェンダー:
2017年にWHOの精神疾患から削除され、「性別不和」と呼ばれるようになった。FtM(Female ​to Male)やMtF(Male ​to Female)という言葉も敬遠されつつあり、現在は「トランス女性」「トランス男性」と表現されることが多い。

加えて、LGBTQ+フレンドリーである企業姿勢を対外的に見せながら、自社社員や商品・サービスにその具体策を実施していない「レインボー・ウオッシュ」、LGBTQ+フレンドリーであるとアピールして自社の都合の悪い問題を隠す「ピンク・ウォッシュ」と呼ばれ、事例と合わせて紹介いただきました。

CASE3|人種のステレオタイプな描き方

DEI委員会メンバーから、海外撮影で遭遇したエピソードの紹介がありました。

主人公である黒人の女の子のお母さんから、「この場所で撮影するんだったら出演させない」と言われました。その理由は、「黒人=ビルの裏みたいな汚いところにいるという意識があなたたちにあるのではないか」ということだったそうです。最終的に、日の当たる場所に移動し、クリーンな場所に見えるよう小道具を配置することで了承してもらえました。現地スタッフや広告主担当者も意識を高く持っており、出演者である男の子のお母さんからは特にクレームはなかったので、個々の感覚によるところが大きく、正解のない難しい問題だと思った経験でした。

このエピソードに対し、アメリカで生まれ育った社員からは以下の意見がありました。

子どもの未来を考えたとき、女の子のお母さんの発言は正しいと思います。カンヌライオンズでも若い世代はバイアス(偏見)のフィルターが薄いので日頃からなるべく正しいもの、エクイティを意識したものに触れてもらいながら学んでもらい、これまでのバイアスを蓄積してきた人は価値観をアップデートすることが重要だと思います。撮影場所を変更したのは正しい対応だったと思います。

伊藤さんから、多文化に関する状況ついて補足をいただきました。

2021年に日本で生まれた子どものうち、父または母が外国人の割合は2%(50人に一人)。片方の親が外国にルーツを持つ子どもの表現として「ハーフ」「ミックス」「ダブル」があるが、どれも嫌悪感を抱く人がいることが紹介されました。

分かりやすさを求めてしまい、特定の国や宗教に対するステレオタイプの描き方になりがちになるが、ステレオタイプを増幅させてしまう可能性があるため、意識して注意していかなければならないと述べられました。

また、2018年に第90回アカデミー賞でフランシス・マクドーマンドさんが受賞スピーチで発した「インクルージョン・ライダー」という言葉が紹介されました。

インクルージョン・ライダー
出演者が契約を結ぶ際に付帯条項(rider)の追加を要求し、他の出演者やスタッフの採用において人種、ジェンダーなどの多様性を要求し、職場の包摂性(inclusion)を確保しようというもの。

最近では、黒人が主役の映画やLGBTQ+をテーマにした映画が増えているが、映像コンテンツが社会に与える影響は大きく、ダイバーシティに対して敏感であることが求められており、登場人物の割合についても人種やジェンダーに配慮することも必要になっていると述べられました。

CASE4|性的行為を連想させるカメラアングルとカット割

次は、委員会メンバーがモヤッと感じたCMを題材にディスカッションしました。女性が上を向きながらペットボトルのドリンクを飲むシーンで同じアングルが続いたことで、性的な印象を持ったそうです。

映像ディレクター2名がCMを見た印象を以下のように述べました。

理由を聞くまでは何か問題があるのかわからなかった。女優さんをチャーミングに見せるために頑張ったんだろうな、という印象しか受けなかった。

理由を聞いて確かに、商品の特徴と相まって、狙った演出なのかもしれないと思った。

ディスカッション後、伊藤さんから朝日新聞(2023年10月17日朝刊)の特集「性的表現の自由と規制」が紹介され、憲法学者のほか、表現に携わる方々からのコメントについて解説いただきました。

また、SDGs(持続可能な開発目標)にも触れられ、人権をテーマとする目標が数多くあることが紹介され、企業がサステナブルに生き抜いていくためには、人権課題を解決することが非常に重要であると述べられました。

アンコンシャスバイアスの呪縛を考える

炎上する表現や描写、キャスティングは、誰しもが持っているアンコンシャスバイアス(無意識の偏ったモノの見方)が起因になっているそうです。伊藤さんからバイアスの一例に加え、アンコンシャスバイアスの発動に影響を与える状況、その対応方法についても明示されました。

● 内集団バイアス:身内びいき(同社、同県出身、同窓など)
● 自己奉仕バイアス:成功は自分の手柄、失敗は他人のせい
● 正常性バイアス:災害時、自分だけは安全だと信じてしまう
● ハロー効果:社会的立場の高い人を信用するなど、顕著な特徴に影響される
● 行為者-観察者効果:観察者(他者)のミスは性格的・内的要因であると思う傾向
● あと知恵バイアス:結果が出てから、それが予測可能だったと思うこと(「だから言ったでしょ!」)

人間の脳には、反射神経的で処理が早い「システム1(直感的思考)」と意識的で処理が遅い「システム2(熟慮思考)」の2つの回路があり、多くの情報に囲まれる時代にパッと直感で考えることは必要ではあるが、2つの回路を上手く使い分ける必要があるというお話をいただきました。

「システム1(直感的思考)」の特徴は「レッテル貼り」で、人間の脳は分類することが得意なんだそうです。アンコンシャスバイアスの怖い部分は、「分類 = ステレオタイプ化 = こうあるもの → こうあってほしい → こうあるべき」というように強化されてしまい、自分のステレオタイプと合致すると嬉しく、合致しないと不快を感じるという説明に加え、アンコンシャスバイアスが発動しやすい3つの状況と対応方法を紹介いただきました。

最後に、相対性理論で有名な物理学者アルベルト・アインシュタインの名言が紹介されました。

常識とは、18歳までに身に付けた偏見のコレクションである。

参加者からのフィードバック

セミナー終了後には、参加者アンケートを実施し、ポジティブな感想が数多く寄せられました。

  • 「ディスカッション形式でとても有意義なセミナーだった」

  • 「参加している人たちがいつものセミナーと違い、自由に発言しているのがとても印象深かった」

  • 「自分の中でのバイアスを見直したり、多様性が広まっていることを改めて認識する機会にもなりました」

  • 「少しずつ日本人の”常識”がおかしいかもと気づけるよう、このような会で今後も取り上げていただきたいです」

  • 「よりDEIをちゃんと勉強し理解して社内外での活動に活かしていきたい」

  • 「広告が誰かの一歩を踏み出す手助けになることも、DEIと上手く関わっていく上で大事なことの一つではないかなと思いました」


「DEIから考えるクリエーティブ表現」セミナーは、参加者がDEIの視点を取り入れたクリエーティブ制作に対する理解を深め、アンコンシャスなバイアスに対する意識を高める良い機会となりました。

コミュニケーションを生業とする私たちは、最終的に文化に影響を与える可能性があることを胸に、DEIに関する知識をアップデートし、社会の価値観を敏感に捉えて取り組まなければいけないと思いました。

今後もクロスでは、DEI推進に取り組んでまいります。


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