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大谷崇『生まれてきたことが苦しいあなたに 最強のペシミスト・シオランの思想』

ある写真家についての随筆を読んでいたら、その写真家の思想はシオランに通じるという。

シオラン?

それでシオラン入門として、大谷崇『生まれてきたことが苦しいあなたに 最強のペシミスト・シオランの思想』(星海社新書)を手に取る。

1911年にルーマニアで生まれ、第二次世界大戦後のフランスで、この世を最悪のものとみなし、生きることを嫌悪するペシミズム(厭世主義、悲観主義)の思想を著したエミール・シオラン。母語のルーマニア語ではなくフランス語で執筆し、「暗黒のエッセイスト」とも呼ばれたという。

日ごろから上機嫌で、たとえ嫌なことがあっても一晩寝れば、翌朝はけろっとしてるのが自分の取り柄である。しかし、本書を読み、シオランの思想に触れると、どこかちかしさを覚える。

自殺の観念には効用があり、自殺は解放であるとも言ってのけるシオランだが、丁寧に言葉を読み解き、筆者の解釈も参考にすれば、あながち理解できなくもない。作家活動以外に定職を持つことや労働そのものを厭い、怠情を礼讃するシオランの弁と生活は、畳に寝転がり天井ばかり見ていたことを優れた詩にあらわした尾形亀之助の姿と重なる。

入門書のつもりで手に取った『生まれてきたことが苦しいあなたに 最強のペシミスト・シオランの思想』だが、思いのほか難解で、行きつ戻りつ読んだり、理解の難しさからくる睡魔に襲われたり。読了したぐらいで、分かったつもりにはなりたくない。本は読めないものだから心配するなという積読本の背表紙に励まされ、一度シオラン自身の著作を読んでから、また再読しようと心にきめる。

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