既視の海

向田邦子を読み、池田晶子と小林秀雄を考え、茨木のり子に耽り、松崎ナオを聴き、往復書簡を…

既視の海

向田邦子を読み、池田晶子と小林秀雄を考え、茨木のり子に耽り、松崎ナオを聴き、往復書簡を手書きしつつ、なんにも用事がないけれど、バイクに乗って海へ行って来よう。サウイフモノニワタシハナリタイ。

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  • 書評

    ヨミタイモノ、ココニアリマス。

  • 往復書簡:豊かな表現への道しるべ

    • 14本

    ひとりの本好きの紡ぐ言葉に憧れて始まった往復書簡です。読み方・伝え方を学び、作品から汲み取った思いや心に湧いた感情を、ほっとするような言葉で書いていきます。

  • ひとりの本好きが、本好きの友だちと交わす往復書簡。

    読んだ本について手紙を書く。本好きから本好きへと書く手紙。往復書簡。手書きの必要はありません。ここから始まった往復書簡がいくつもあります。あなたの手紙、待っています。

  • やっぱり映画も好き

    好キナ映画、集メマシタ。

  • みらっちとの往復書簡——読書を中心に

    創作・エッセイ・書評など多方面で活躍するみらっち(https://note.com/mirach)と交わす手紙の数々。

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ひとりの本好きが、本好きの友だちに出す手紙

はじめまして。 まだ名も知らぬあなたに、このような手紙を書く不躾さをお許しください。驚かれたでしょう。 庭のもみじは半分色づきました。週明けにはすべて赤く染まるでしょう。左後肢に障害のあるわが家の愛犬も、日なたぼっこが気持ちいいようです。秋も深まってきたのでしょう。 あなたにこうして手紙を書く理由。話せば長くなるでしょう。でも恥ずかしさを捨てて勇気を出して書くならば、きっかけは書評を書こうと思ったことです。 書評。読書家であれば、書こうと考えるのは一度や二度ではないで

    • 『峠の我が家』を観劇。初めての岩松了作品。ちょっと衝撃的。 遠い日の喜び。痛み。悼み。それを分かち合うことはできるのか。考える、感じる愉しみがあった。 もう一度観たい。戯曲も手に入れよう。

      • いちむらみさこ『ホームレスでいること——見えるものと見えないもののあいだ』

        朝。ロータリーの反対側にあるバス乗り場に押し寄せる高校生の波に逆らいながら駅舎に向かう。階段の下には小さなベンチ。傘の刺さったバッグを枕に、日焼けした顔に帽子をのせたおじさんが仰向けになり、片方の膝だけ立てて眠っている。気温はすでに30℃を超しているが、ここなら風は通り抜ける。別の列車が着いたのか、さらなる制服姿の波が階段からあふれ、ベンチの前を通りすぎる。スマホとおしゃべりに夢中な彼らに、おじさんの存在は刺さらない。 額に汗をにじませながら飛び乗った車内で、いちむらみさこ

        • 松永美穂『世界中の翻訳者に愛される場所』

          出版社の紹介文もほとんど読まないまま、ためらうことなしに松永美穂『世界中の翻訳者に愛される場所』を読む。直観は正しかった。 ドイツ文学の翻訳家である著者は、翻訳者レジデンスがあるドイツの街の名前を繰り返し耳にして、淡い憧れを抱く。そしてついにシュトラーレンの街を訪れる。どの国からも、どんな言語であっても翻訳家を受け入れ、仕事のための居室と豊富な文献を提供し、翻訳者どうしも交流できる「翻訳者の家」。仕事に疲れたら街を散策したり、湖畔までサイクリングをしたり。翻訳家の出身にちな

        • 固定された記事

        ひとりの本好きが、本好きの友だちに出す手紙

        • 『峠の我が家』を観劇。初めての岩松了作品。ちょっと衝撃的。 遠い日の喜び。痛み。悼み。それを分かち合うことはできるのか。考える、感じる愉しみがあった。 もう一度観たい。戯曲も手に入れよう。

        • いちむらみさこ『ホームレスでいること——見えるものと見えないもののあいだ』

        • 松永美穂『世界中の翻訳者に愛される場所』

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        • 書評
          99本
        • 往復書簡:豊かな表現への道しるべ
          14本
        • ひとりの本好きが、本好きの友だちと交わす往復書簡。
          40本
        • やっぱり映画も好き
          14本
        • みらっちとの往復書簡——読書を中心に
          11本
        • 飯田線阿房列車
          4本

        記事

          田村さと子『南へ:わたしが出会ったラテンアメリカの詩人たち』を読む。ガブリエラ・ミストラルの詩に恋い焦がれて西語を学び、チリまで追いかけ足跡を追った紀行文。 後に知り合ったラ米詩人との交流も描かれる。学生時代、この先生に教わりたかった。今夜は彼女が訳したネルーダの詩を読みたい。

          田村さと子『南へ:わたしが出会ったラテンアメリカの詩人たち』を読む。ガブリエラ・ミストラルの詩に恋い焦がれて西語を学び、チリまで追いかけ足跡を追った紀行文。 後に知り合ったラ米詩人との交流も描かれる。学生時代、この先生に教わりたかった。今夜は彼女が訳したネルーダの詩を読みたい。

          詩「未来はオーレンカのもの」の鮮やかさはフーリエ『愛の新世界』とつながっていた。詩集『キンディッシュ』の虚構性はバタイユやカフカ、小川未明から。 詩人の読書遍歴が綴られた阿部日奈子『野の書物』で<多感な自然児の系譜>をたどる。 さっそく北原千代と足穂、デュラスにいざなわれる。

          詩「未来はオーレンカのもの」の鮮やかさはフーリエ『愛の新世界』とつながっていた。詩集『キンディッシュ』の虚構性はバタイユやカフカ、小川未明から。 詩人の読書遍歴が綴られた阿部日奈子『野の書物』で<多感な自然児の系譜>をたどる。 さっそく北原千代と足穂、デュラスにいざなわれる。

          PRAY 超攻撃型“新派劇”「天守物語」を東京芸術劇場で観る。 数十年来の篠井英介ファンとしては見逃せない。 古典の新解釈というより、現代劇に古典をここまで引き寄せるかと感心。 思うところあり初・泉鏡花。その端正で深い日本語に驚き唸る。 何故いままで読まなかったんだろう。

          PRAY 超攻撃型“新派劇”「天守物語」を東京芸術劇場で観る。 数十年来の篠井英介ファンとしては見逃せない。 古典の新解釈というより、現代劇に古典をここまで引き寄せるかと感心。 思うところあり初・泉鏡花。その端正で深い日本語に驚き唸る。 何故いままで読まなかったんだろう。

          丸田麻保子詩集『カフカを読みながら』を読む。書物や映画からの随想詩もよいが、夢とうつつのあわいにたゆたう詩こそ真骨頂。 列はすこしずつ進んでゆく 遠くがかすかに あかるんできて なんだかさびしくなった このひとたちがいとおしくおもえてならない 「行列」 十四行詩が似合いそう。

          丸田麻保子詩集『カフカを読みながら』を読む。書物や映画からの随想詩もよいが、夢とうつつのあわいにたゆたう詩こそ真骨頂。 列はすこしずつ進んでゆく 遠くがかすかに あかるんできて なんだかさびしくなった このひとたちがいとおしくおもえてならない 「行列」 十四行詩が似合いそう。

          阿部日奈子詩集『キンディッシュ』

          詩集の幕開けとなる「行商人」から、肌触りが違う。 外国文学を礎にした前作『海曜日の女たち』とは異なり、モノクロームな日本の情景が浮かび上がる。行商、仕立屋、洋裁学校という言葉からして、懐かしさを覚える年配の女性を眼前に映し出す。女、ではなく、女性。 第一連では、場面描写。そしてこの第二連では、「すみれ服飾学院」を訪れた行商人の視点で語られる。訪れるたびに女生徒が幼く見えるのは、それだけ年季が入っているから。生徒の若さに対する哀れみにも。 勝手にモノクロームで描いていた場

          阿部日奈子詩集『キンディッシュ』

          阿部日奈子詩集『海曜日の女たち』

          しびれる。詩集名だけで読みたくなる。著者名も詩歴もまったく分からないが、気にしない。 そして初めて知る。この詩人は、文学を自分のなかにたくわえている。身体に十分になじませてから、大きく放っている。楽しそうに。躍り出すように。 多くの男たちを愛し、多くの男たちに愛されながら、取り巻く女たちをも幸せにする「未来はオーレンカのもの」に、どこか既視感を覚える。 もしやと思いきや取り出したるチェーホフ『可愛い女」。 いちど愛してしまうと相手の思想とも一体化し、先立たれると空虚に

          阿部日奈子詩集『海曜日の女たち』

          丸田麻保子詩集『あかるい時間に』を読む 。 夢の詩であっても、いたずらに幻想性をもたせず、ふだんの言葉をつむぐ。嘆息したのは『みずうみ』。 どこから来たのか わすれてしまいそうになる 覗きこんでは 瞳をそらす ここに来たことを 思い出しそうにそうになるの 題詩の散文詩もいい

          丸田麻保子詩集『あかるい時間に』を読む 。 夢の詩であっても、いたずらに幻想性をもたせず、ふだんの言葉をつむぐ。嘆息したのは『みずうみ』。 どこから来たのか わすれてしまいそうになる 覗きこんでは 瞳をそらす ここに来たことを 思い出しそうにそうになるの 題詩の散文詩もいい

          高木敏次詩集『私の男』を読む。 私のことを 私の男と呼んだ 誰が「呼んだ」のかは宙づりのまま、「私」は「私」を求めて彷徨う。削ぎ落とされた言葉に白い翳がさす。 男は私を探し 私は男を信じない 誰が男なのか 前作『傍らの男』がコルタサルなら、本作は金井美恵子の『既視の街』。

          高木敏次詩集『私の男』を読む。 私のことを 私の男と呼んだ 誰が「呼んだ」のかは宙づりのまま、「私」は「私」を求めて彷徨う。削ぎ落とされた言葉に白い翳がさす。 男は私を探し 私は男を信じない 誰が男なのか 前作『傍らの男』がコルタサルなら、本作は金井美恵子の『既視の街』。

          高木敏次詩集『傍らの男』を読む 。静かな筆致で、他者を観察するかのように「私」を日常に溶かしていく。 夏の日を思い出そうとしたが 忘れたことを思い出した (「目の前」) 非論理的な言葉のつらなりは、幻想的というよりも、揺らぐ現実性を帯びてむしろ自然。コルタサルを思い出した。

          高木敏次詩集『傍らの男』を読む 。静かな筆致で、他者を観察するかのように「私」を日常に溶かしていく。 夏の日を思い出そうとしたが 忘れたことを思い出した (「目の前」) 非論理的な言葉のつらなりは、幻想的というよりも、揺らぐ現実性を帯びてむしろ自然。コルタサルを思い出した。

          あなたの声をきかせて——シルヴィア・プラス『ベル・ジャー』

          あなたの声をきかせて——シルヴィア・プラス『ベル・ジャー』

          小林エリカ『彼女たちの戦争——嵐の中のささやきよ!』

          Webちくまに連載していたときから楽しんでいた小林エリカ『彼女たちの戦争——嵐の中のささやきよ!』を読む。 世界中でその名を知らぬものはいないナチス・ドイツの犠牲者、アンネ・フランクから、アインシュタインの相対性理論にも貢献したであろう「悪妻」のミレヴァ・マリッチ。孤高の詩人、エミリー・ディキンスンや、ミューズとして男の作品として刻まれたかもしれないが、自らの名は歴史に刻まれることのなかったカミーユ・クローデルまで、ともすれば「男」が引き起こした「戦争」の中で生きなければな

          小林エリカ『彼女たちの戦争——嵐の中のささやきよ!』

          オリガ・ホメンコ『キーウの遠い空 戦争の中のウクライナ人』

          2022年2月24日の、ロシアによるウクライナ侵攻から2年。いまさらながら今春、ウクライナからの避難民と初めて知り合った。表情はみな和やか。しかし会話の端々に、祖国に残してきた家族の心配や、将来への不安がにじむ。正直なところ、どう声をかければよいか分からない。日本での穏やかな日々を素っ気なく分かち合えばよいのか。薄っぺらい同情や哀れみはかけたくない。 戸惑う日々に、憤りを覚える。無力さに苛立つときも多い。でも、ふと気付いた。当たり前だ。自分はウクライナのこと、何も分かってい

          オリガ・ホメンコ『キーウの遠い空 戦争の中のウクライナ人』