いちむらみさこ『ホームレスでいること——見えるものと見えないもののあいだ』
朝。ロータリーの反対側にあるバス乗り場に押し寄せる高校生の波に逆らいながら駅舎に向かう。階段の下には小さなベンチ。傘の刺さったバッグを枕に、日焼けした顔に帽子をのせたおじさんが仰向けになり、片方の膝だけ立てて眠っている。気温はすでに30℃を超しているが、ここなら風は通り抜ける。別の列車が着いたのか、さらなる制服姿の波が階段からあふれ、ベンチの前を通りすぎる。スマホとおしゃべりに夢中な彼らに、おじさんの存在は刺さらない。
額に汗をにじませながら飛び乗った車内で、いちむらみさこ