見出し画像

CVCと公認会計士

こんにちは、ミータソ@スタートアップ会計士(@deadfinancecxo)です。今回は、楢木さん(@TakeshiNaraki)開催の公認会計士Advent Calendar2023にお誘いいただき、約2年半ぶりの投稿になります。

今回は自分が今興味をもって取り組んでいる業務の1つであるCVC支援について、CVCを知った経緯、CVC転職後の仕事、MBAとの関わり、支援の内容、そして自分なりの業界仮説を話していきたいと思います。


CVCを知ったきっかけ

当時私は監査法人で大手金融機関のコンサル、外資系証券会社のリファード監査を担当していました。当時は香港やシンガポールなどアジアへの海外赴任を希望する、よくいる国際志向の会計士でした。

しかしクライアントの金融機関が投資しているIPO準備会社のインチャージを担当することになり、学生時代からあったベンチャービジネスへの思いがさらに強くなりました。

またクライアントとベクトルが一致しない監査業務に関心をもてなくなり、資金供給を通じ、投資先と上場という同じベクトルに向かって支援するベンチャーキャピタルのビジネスに興味をもちました。

その志向をもち転職活動をしたところ、ビズリーチ経由で、大手事業会社のCVCから直接スカウトがきて、トントン拍子に選考が進み内定。

現在、ベンチャー投資やエクイティの調達支援、株価算定、SO設計、社外役員、そしてCVC支援といったイノベーション支援を非常に幅広く仕事ができている、そのきっかけをくれたビズリーチには感謝してもしきれません。

転職して感じたCVC特有の課題

CVC特有の課題としてよく言われるのは、ベンチャー投資の知識やシナジー創出などナレッジの不足、スタートアップ界隈との人的ネットワークの不足、そして”事業会社は口出しが多い”・”意思決定が遅い”など事実と異なるイメージがつけられるなどのブランディング不足です。

私が在籍した大手事業会社CVCも例外ではありませんでした。当時本体企業はスタートアップとの協業等の接点は少なく、Tier1 VCとのパイプが少ないため、最新のビジネスや技術動向をキャッチアップできているとはいえませんでした。

また事業シナジー創出についても、本体企業では過去何度か新規事業に挑戦するもうまくいかなかった経緯があり、各事業部が新規ビジネスをどう扱ったらよいのか手をこまねいている状況でした。

一方で同じ悩みや課題を感じている他CVC役員や投資担当の方が沢山いることに、投資先のモニタリングやイベント等で交流する過程で気づきました。

自社で乗り越えた課題や悩みを他社に伝えることで、国内企業にたまった50兆円もの巨大な余剰キャッシュの一部をスタートアップに流し、その成長を支援することで、日本の新産業を育成する助けになるのではという思いを強くしました。

MBAで学んだきっかけとその効果

CVC在籍時はBtoB SaaSやAI、そしてシェアリングサービスなど担当先の複数上場や、本体事業との事業連携、そして投資先株式の売却方針の策定に携わりました。

仕事でやり甲斐や充実を感じる一方で会計士の知識や監査スキルが、ベンチャー投資で求められる経験やスキルとギャップがあるように感じていました。

会計や財務だけでなく、経営戦略やIT、組織、業界知見やビジネストレンドなど総合的かつ体系的に学ぶ必要があると感じ、2021年4月に一橋大学大学院経営管理研究科(MBA)に入学しました。

学業と仕事の両立は大変でしたが、上記狙いは満たされ、独立後の支援の幅が広がりました。加えて同期とのグループワークや交流を通じ、国内大手企業の将来の幹部候補生と広く、そして深いネットワークができました。

また研究テーマに掲げたCVCについて、国内外の論文を大量にレビューし、仮説を立て、その仮説を実証すべくRやPythonといった統計ソフトを使い、定量分析を実施しました。

そして上場企業がどのような経済状況にある時にCVCを設立する傾向があるのか、そしてCVCを設立することで本体企業の企業価値にどのような影響があるのか研究し、修士論文を書くことができました。

信頼性ある研究データや調査を用いて、ベンチャー企業やVC/CVCを支援する今のスタイルは、MBA生活を通じて培われました。支援の効果に再現性が少なく苦労するこの領域で、支援者としてユニークな価値を出せているのかもしれません。

CVC支援の内容

支援をはじめた当初は、VCではなく事業会社がラウンドリードを取る時の、投資候補先のビジネス分析や株価算定が中心でした。

しかし実績や信用を積み重ね、また数々の学びを経て、投資候補先の分析などのCVC運用支援だけでなく、本体企業の業界調査やCVCの投資目的やビジョン策定、スキーム検討、そして組織人事体制の検討など、設立支援というイノベーション戦略の入り口支援へと支援の幅が広がりました。

例えば、業界の技術動向やネクストユニコーンの調査を行ったり、戦略と財務という両方の目的を整理し、中長期の目標を設定したり、LP出資、直接投資などを実際の担当者のスキルなどを考慮に入れ、どのように進めていくかを検討したり、投資委員会の意思決定プロセスを設計するなど、非常にエキサイティングな仕事に取り組んでいます。

CVC設立支援は、私が大手CVCで真摯に業務に取り組んだことがまさに活きています。実際に中で組織課題や運営上の苦悩をメンバーと共有したあの経験があったからこそ、ファンドの会計税務BPOにとどまらない、財務や戦略、組織に対する手触り感ある支援ができているのだと思います。

CVC業界の未来

CVCは新規事業開発の一環と捉えられ、本体企業の事業環境の影響をモロにうけます。例えばリーマンショック後、親会社の景気悪化で、成果を出すのに時間がかかるCVCは投資回収を急かされ、事業自体たたむところもありました。”CVCは流行り物”といわれるのもこれが所以です。

悪評が立った会社から新規事業・イノベーション人材が抜け、社内に知見がたまらず、14年経った今もベンチャーとの関係構築に苦労してると相談を受けることもあります。目先のコスト削減を優先した結果の悲劇とも言えます。

これは企業に限らず学術界でも同様の事象が起こっています。CVCをテーマとした研究、特に中長期でデータを収集することが前提の定量分析には、景気の波に左右されCVC自体がなくなる事情は不都合です。企業だけでなく大学にも実証的な知の蓄積が他の経営戦略のテーマと比べても少ないといえます。

一方で大企業では、CVC活動への注目が急速に高まっています。国内の大規模調査によると、CVC機能を設置した企業は2016年以降に急増しており、調査対象CVC組織の8割超(77社)が16年以降の設立だということがわかります。また、新型コロナウイルス感染症による社会の混乱の只中である2021年に設立数のピークを迎えているのも特徴です。

Japan CVC Survey 2022(出典:FIRST CVC)

加えて2021-2023年に実施された一連の調査によると、80~90%のCVC会員がコロナを経験したにも関わらず投資額を「増やす」もしくは「今まで通り」と回答しています。

JVCA会員への投資方針アンケート - CVC(出典:JVCA)

大手企業の経営企画/経営戦略業務に携わる友人知人の話を聞いても、CVCに対する企業の期待は単なるブームで終わらない予感がしています。

さいごに

記事を読んでいただき、ありがとうございました。noteだけでなくX(旧Twitter)で、CVCネタに加えて、ベンチャーの経営やファイナンスに役立つ分析やニュース、IPOネタを配信していますので、よければフォローください。

※過去noteには上場ベンチャー決算分析やファイナンスおすすめ本がまとまっています、銘柄選定やベンチャーファイナンスの参考になさってください。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?