あの日、君だけ 僕を残して、君だけ 明日を喪って 全てを閉ざした 思い出が塩を塗り 記憶が自傷する 映画を観て笑って 音楽を聴いて笑って ご飯を食べて笑って 猫と遊んで笑って 消えてしまった日々は 二度と戻ることはない あの日、君だけ 僕を残して、君だけ 明日を喪っても 呼吸を続けていた 思い出は語りだし 記憶が問いかける 映画を観て笑って 音楽を聴いて笑って ご飯を食べて笑って 猫と遊んで笑って 消えてしまった日々が 二度と戻らないとしても 僕は今も歩い
前回記事を書いてからだいぶ経ってしまったが、その間にカメラを購入した。値段が折り合わなかったり、中古で見つけた状態の良いものがタッチの差で売れてしまったりと紆余曲折あったが、最終的には『SONY RX100M3』を購入。既に写真を撮りまくっている。 プロの写真家さんの動画とかも観ながら、自分の撮りたい画と能力などを鑑みた結果のRX100。それも最新のM7ではなく中古のM3。性能や便利さなどを見れば一般的にはM5以降がベストみたいだが、僕に必要な機能はM3で充分すぎるので。
朝、太陽が昇っても あなたに触れることができない 夜、星が瞬いても あなたを抱きしめることができない 太陽よりも星よりも ずっと遠くにいるから 僕は今も独り 今も独り あなたを想う どんなに愛しても なにもできずに 無力な笑顔だけ上手になっても 運命なんて変わるはずもなく そして時間は残酷なほどに 悲しみも後悔も癒してしまう それでも 生きることを望んだあなたのために 今も僕はこの世界に留まる あなたとの未来を今も続けている
親愛なる友 ダグラス.P.ラヴクラフトへ 突然の手紙に驚かれたことと思う。早急に君に話しておかねばならないことがあるのだ。それは私が見た夢の話であり、この世界に関わることでもある。何とかして君に伝えなければという一念で、腐心しつつも事細かに纏め上げた。どうか空想だ創作だと笑わないでくれ。これはありのままの悪夢なのだ。君を信じている。最後まで読んで力を貸してくれることを信じている。 私は空を見上げていた。闇夜に輝く星々に宇宙を感じ、銀河の壮大さに畏怖すら覚えた。星の瞬きを目
今まで写真は携帯やスマホで充分というスタンスだったのだが、最近俄にカメラ欲求が高まっている。 発端は『PERFECT DAYS』。かの映画を観た際、主人公の平山にフィルムカメラで写真を撮るという習慣があった。元々、レトロな画というのは好きだった事もあり、一発で感化され「フィルムカメラ欲しい」となった次第。 その流れもあり最初はフィルムカメラを探していた。ハーフフィルムカメラなんかが流行っている様で、割と安価に手に入るのもいい。とは言えカメラは素人なので、専門家の見解も聞き
先日読み終わった『カフカ断片集』。未完の断片や創作ノートなどに書かれていた数行の文を纏めたもので、これがいたく気に入った。というより、腑に落ちた。 もともとカフカは大好きで何度も読んでいるのだが、自分が文章を書くにおいて理想だという事に気付かされたのだ。断片や断章であるから、カフカからしてみれば不本意なのかもしれないが、実際は未完でありながら完成している。いや、読み手が余白を想像する事で完成するのだ。作りかけなわけだから起承転結がきちんとしているはずもなく、ただの断片でしか
隣に巨大な虫がいた。その場所に寝ていたはずの夫はいない。この虫が夫なのだろうか。何か手がかりはないものかと、その身体に目を走らせてみる。鈍く緑色に光る仰向けの腹には、左右三本ずつの脚がありウネウネと蠢く。頭部と思しき部分は小さくてよく見えないが、触覚のようなものがチラチラと見えた。手前にあるのは口だろうか。細かい毛がまばらに生えている。どこをどう見ても虫にしか見えない。しかし私はこれが夫であるという確信めいたものを感じていた。 平凡を絵に描いたような夫に対し物足りなさはあっ
ここの所、連続して短編小説もどきを書き上げた事で、文章を書く時の自分のクセなど新しい発見があった。 基本的に物語を書く時は全て唐突。何かを書こうと思って始めるのではなく、突然頭の中に溢れてきた言葉や文章をメモに取り、物語の形に仕上げていく。きちんとテーマや描きたい事を決めプロットを立て、登場人物の細部まで固めて物語を動かしていくのが正しいのだろうが、僕にはそんな緻密なやり方は到底できない。文章として読み易くする為にテンポや形式を合致させたりという調整ぐらいはできるのだけど。
見上げると月が朱い。 私は月に向かって願いを投げた。「救えぬのならば殺せ」と。月は何も答えず。その真円から血を流す。溢れでた朱色がモノクロームの世界を染めてゆく。 喪失が私を責め立て、無力感が私を嬲った。後悔に首を締められ遠のく意識。未練が死を断ち切り、空になった肺に赦しを吸い込む。深呼吸をして意識が明確になると、そこは見知らぬ街だった。 何かに呼ばれたような気がして、石畳の街路を駆け抜けてゆく。無数の耳朶が貼り付いた看板。読経し続ける口唇。虚ろな眼に睨まれながら、崩れ
🌑 死を迎えた魂はどこへ向かうのか。それは誰にもわからないが、物語が続く以上、僕によって肉体を奪われた君は再び目覚めることになる。 🌒 「目を覚ますとそこは雲の上だった」とでもやれば文学的だろうし、「目を覚ますとそこは四畳半が続く場所だった」とやれば小説的でもあろう。しかし現実はただの漂白された空間でしかない。死後の世界などそんなものである。過度な表現が入り込む余地などないのだ。ともあれ。君はその真っ白な空間に居た。 手足と体を確認する。手近に鏡がないので顔までは確認
ちょっとそこの君。そうそう君だよ。僕の話を聞いてはくれまいか。なぁに、時間は取らせんよ。最近はだらだらと長い話が幅をきかせているが、ちょいとだけ拝借ってなもんだ。だからさ、君。少しだけ付き合ってくれよ。 話というのは他でもない。この部屋にいる悪魔の事だ。いや神とも言うし妖とも言うし何もない空間と言ってもいいかもしれない。まぁ、それはさておき。そいつの言うことが問題なのだ。 その悪魔。もとい神。もとい妖。いわんや空間…ああ面倒くさい。便宜上、蛹と呼ぼう。そいつは「どっぺるげ
あれからもうすぐ一年が経つ。去年の今頃。妻に残された時間があまりにも少ない事を知り、それでも笑顔でいれるように必死だった僕は、きっと歪んだ顔をしていたに違いない。たぶんそんな僕の事を彼女はお見通しで。だからこそ今でも後悔が残る。もっと何かできたはずだ。あの時、こうしていれば。 人生において。例えば仕事や人間関係においてそんな事を思った事はほぼない。僕は優しくもなければ世界にも人にも基本的に何も期待していない人間だったから。けれど。妻に会い彼女と共に歩んだ事で、少なくとも彼女
1 目が覚めた。隣には妻。僕は寝顔を見て安堵しその頬をそっとなでた。 「おはようさん」 「おはようちゃん」 いつも通りの挨拶。他愛もない会話。朝食。いつも通りのやり取りのあと、僕は仕事に出かける。 外に出て駅までの道すがら。同じ街並み。けれど音はなく。気配もない。そう。ここには僕以外、誰もいない。正確には僕と妻以外、だ。 僕は気付いている。ここが現実ではないという事を。ここが僕が望む現実である事も。 そして誰もいない街を抜け、無人で動く電車に乗り、会社に着いてたった
入院中の暇潰しにラジオ→Spotifyを利用したことで、90年代の音楽に触れる機会が増えた。音楽というのは記憶と連動しているので、当時の自分を思い出したりして懐かしさや気恥ずかしさなどが大波小波と押し寄せる。ど真ん中たる94~98年が大学生だったので、ある意味、人生を一番謳歌していた時。日本や世界の情勢など時代を彩るイベントでしかなく、未来など当たり前にくると信じていた。 そんな時代に聴いていたアーティストたち。 小沢健二、川本真琴、oasis、the brilliant
染まる朱色 乱れ散る桜色 男は何かに縋るように空を掴む。 虚ろになり生気が失われる顔。 しかしその顔には穏やかな色が射していた。 伝えられなかったな。 それは男が発した最期の言葉となった。 ※1day 起床。洗顔。歯磨き。湯を沸かす。 インスタントコーヒーを入れる。 パンをトーストする。 5分で朝食をとる。 ルーチン化された朝を流し、どこにでもいるサラリーマンといったスーツ姿に着替えた男は、いつもの通りアパートを出た。 男は名をN.N.といった。 勿論それは本名