だぬまん

わからない

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愚かなままでは暮らせない

ちょっぴり、金が無かった。勿論オレにはこの資本主義社会を強烈にサバイブしていく気概も才覚も持ち合わせていないから、金が有った事など過去に一度も無いけれど、それでもまぁ、生活していくのに困らない程度にはやりくりできていたのだが、色々な悪い目が重なって少しだけ困ってしまう時がある。若い女の股に潤滑油を使い過ぎた時とか。幾つになってもオレは賢くなれない。ガキの頃大切なことを学べなかったんだ。世界の素晴らしさとか家庭の暖かさとかな。 年齢だけを重ねて苦しい生活をしていると、オレには

    • disconnect

      「オレは社長が好きではありません。あの役員を選出したのも、結局キャパオーバーになって全部投げ出して逃げたアホに担当を任せたのもあの人でしょ?それでオレみたいなのを雇って急場を凌ごうとしている。いったい、あの人が人前で偉そうに語れる程に何かを成し遂げましたか?内部の問題を無視して親会社の看板借りて出来もしない仕事を調子の良い言葉で取って来てるだけ。詐欺じゃないですか」一気にまくし立てたオレに対して、上司の視線は困惑と侮蔑の混じったものだった。「ガキみたいな事を言わないで下さい」

      • 歪み

        時計は午前3時8分。布団の上には食いかけのフライと財布が転がっている。ゴミと一緒に財布をゴミ箱に叩き込む。風呂場の換気扇の下で紫煙をくゆらす。灰と一緒に火の点いた煙草を便器に落とす。頭が回るまでには時間がかかりそうだ。 ーーーで、結局、あなたはどうしたいんですか クソみたいな記憶が蘇る。炎上必至の現場に放り込んで何の情報も与えずに「どうしたい」か。「何も分かっていないクソガキの頭を動かなくなるまで踏み潰したい」。 落ちるところまで落ちたと思った。したり顔の屑に訳の分から

        • The Most Favorite Nightmare

          「いやー、楽しそうでしたね!」 そうか、そう見えたのか。重畳。顔を合わせて飲み会なんて数年ぶりで、割と頑張って酒を飲んで、黙っている人がいたら話を振って、話すことがなくなれば相手を褒め、料理を取り分け皿を下げ、自分の事はこき下ろしてたから、そう思ってもらえて良かったよ。だけど、キミはどうなんだ?オレが「楽しそう」だったのは良いとして、「楽しかった」かな? こういう時はいつも悩んでしまう。やり過ぎてないだろうか。オレが「一番楽しそうだった」では困るのだ。それより「楽しかった」

        愚かなままでは暮らせない

          Speak Like A Gentleman

          「要素にstyleを直書きしないで下さい!そんなことも知らないんですか!?」 今日も仕事で飽きもせずハゲの上司に煽られている。いや、知ってたよ。知ってた。言い訳させて貰えるなら、オレも色々考えたんだよ。君が書いたのかも知れないけど、そのボタンを特定のブラウザで素敵に表示するためだけにCSSに変更加えるのは良くないんじゃないかとか、それをすると必要もないのに使い回してるbutton3とかいうクソみたいな名前のclass全体にstyleが適用されちゃうからそもそも変更できないとか

          Speak Like A Gentleman

          裏側

          便器から顔を上げる。ぶち撒けられたそれは内臓の様に見えた。名前も顔も知らない無数のオレが吐き出したそれが、混ざり合って一つの巨大な器官になる。それがこの街の中身だ。オレはこの街の裏側を見た。 不意に、そんな想像が浮かんだ。コンクリートの墓石。どこかで赤ん坊の泣き声。救急車のサイレン。拡声器でがなる運転手。札束を見せて水着みたいな服を着た女に声をかける男。そんな男とどこかに消えた女。ゴミ袋の影のドブネズミ。猫の鳴き声。路上で寝る若い男。全てがやかましく、何もかもが鬱陶しい。

          別の人の彼女になってよ

          一体何が悪かったんだろう。この恋人ごっこが一月半しか保たなかったのは。確かにオレは君のことが好きじゃないし、付き合ってくれと言ったのも、まともな振りをするために気紛れで恋人を作ってみようかと思った時に、たまたま君が手近な存在だったからだ。好きだよって何度も言ったけど、ゴメンよ、そんなに本気じゃないんだ。 だから、一月経たないうちにオレが別れて欲しいと言ったのも仕方ない事だった。君を好きになれなかったのはオレだけが悪いというわけじゃないんじゃないか。付き合い始めて一週間で他の

          別の人の彼女になってよ

          救済

          「自己認識が凄く悪い。鬱の傾向もあるね」 ぶちまけられた無秩序なインクの染みを何枚も見せられて、それについての感想を述べた結果だった。まぁ、そうだろうな。 「ありがとうございます」 「はい、お大事に」 1時間1万5千円。目の前の初老の男に愚痴を聴いて貰う金額。風俗嬢並み。こんな事を知りたくて毎回安くない金を浪費しているのだろうか。全てが馬鹿げている。目の前の男も、こんな所に通っている自分も。 タフじゃなければ生きていけない。優しくなければ生きていく気にもならない。それなら

          勧誘恐怖症

          あらゆることに勧誘されたくない。無駄に歳を重ねてしまったので、必然、酒の席へ誘われる事が多くなってきた。いい歳したおっさんだから、そういう場では何かしらの顔を作らなくてはならなくなって、次の日の朝、自分が醜悪だと嫌悪する。 ガキの頃、家族はオレがクラス会に行かないことを責めた。「誘われてるうちが華」らしい。お前たちはまぁそうなんだろうが、オレは違うんだ。しかしその時は根拠も自らを語る言葉も持っていなかったから仕方なく全く行きたくない所へ行って全く面白くない話題に全く心のこも

          勧誘恐怖症

          普通です

          たまに変わっていると言われると驚く。どこが変だって言うんだ。教えてくれ。他人にはなれないし完璧に客観的にオレを見ることはできないから自分を判断の基準に置くしかないし、それに照らし合わせてもそれ程おかしいとは思えない。服装、態度、容姿、言動。他人と比べたって別に変じゃない。なのに何故だ。 ガキの頃に個性的で在りたいと思ったことは有るが、俺ごときが打ち出せる個性など高が知れている。読んでいる本や着るもの、聴いている音楽、観ている映画なんかの呆れる程些細な違いだ。そしてそれを知っ

          自己肯定のこと

          あたかも自分が有名で有能な存在で在る様に言う事に嫌悪感が有る。最近の風潮なのだろうか、自己肯定感を高める、というのが主流となっている気がする。SNSを開けば肩書のオンパレード。どう考えても肩書を付ける程大したことをしている様には思えない人間が皆様ご存知の私でございますという顔をしている気がしてならない。考え過ぎか。もちろん、そういう奴等は別にオレなんかに向けて言っているわけではない。だがその得意気な顔を見るとどうしても言いたくなってしまう。誰だお前は。 この社会で生きようと

          自己肯定のこと

          ツイてない日のこと

          「私、自分のことをレズビアンじゃないかと思ってるんですよ!」 新宿のバーだった。一人で来て適当に隣の席同士で話す様なカジュアル色の強い所で美味くも不味くもない全く無難な酒が出てくる。客層は若く、適当な酒で適当に酔いたい時に偶に行く場所だった。その女も若かった。自分が初めて交際した男に恋愛感情を抱けないという悩みを大きな声で語り、その隣の男が更に大きな声で励ましていた。完璧な布陣。嫌な所に来たと思った。 その女は友人からの紹介で付き合い始めた恋人への不満を止め処なく語ってい

          ツイてない日のこと

          哀しかったこと

          「あ、そうだ!ねーねー、わたしのチェキ買わない?」 渋谷の交差点でそんな言葉が聞こえた。言われたのはオレじゃなかった。すれ違った時に会話が聞こえてきただけだ。そのカップルは、オレの偏見に塗れたフィルターを通して見ると、一見して不釣り合いだが、ある意味では絶妙に噛み合っている二人だった。 男は、おそらく四十代、禿げた頭と、チェックのシャツとジーンズで痩せた身体を包んでいた。女は十代後半か、二十代前半だろうか。濃い化粧と明るい髪は年齢を隠し、肩や脚を出した露出の多い服で肉付きの

          哀しかったこと

          残留物

          日常的に欺いている。上司に仕事が好きでたまらないという顔をし、面接官に貴殿の会社で力を尽くしたいと言い、どうでも良い女を褒めそやし、同僚の成果を最高だと称賛し、面白いヤツの振りをしている。 本心から行動すると角が立つ、ということは、いつ頃からかオレの中での常識になっていた。こいつが嫌いだと言うとそんなことを言ってはいけないと言われた。親が失態をした時に皮肉を言ってみたら引っ叩かれた上に泣きながら土下座させられた。ガキの頃に無理矢理行かされたキャンプでは、上級生を殴って蹴り返