歪み

時計は午前3時8分。布団の上には食いかけのフライと財布が転がっている。ゴミと一緒に財布をゴミ箱に叩き込む。風呂場の換気扇の下で紫煙をくゆらす。灰と一緒に火の点いた煙草を便器に落とす。頭が回るまでには時間がかかりそうだ。

ーーーで、結局、あなたはどうしたいんですか

クソみたいな記憶が蘇る。炎上必至の現場に放り込んで何の情報も与えずに「どうしたい」か。「何も分かっていないクソガキの頭を動かなくなるまで踏み潰したい」。

落ちるところまで落ちたと思った。したり顔の屑に訳の分からない事を言われていたことも、自分以外を見下しているクセに自分が見下されるのには我慢がならないことにも嫌気が差して仕方がなかった。そしてそんな状況で奮起もできない。そんなカスがオレだ。安い油に内臓が抗議の声をあげる。2本目の煙草で舌が焼ける。

狭い家を借りられている。飯は食えている。金には特に困っていない。僅かな対価で厚化粧の肥えた女を抱くこともできるだろう。安っぽい香水の匂いと口臭、そして後に来る一瞬の眩暈。そんなものが欲しかったんだろうか。いつでも独り、麻酔を打って誤魔化して、ゾンビみたいにふらふら歩く。死体が歩く。死体が喋る。漂う腐臭。一体オレは何がしたかったんだろうか。首に当てたカッターにもう少し力を入れたかった。首吊りロープの下に入れた手の力を抜きたかった。

何を間違ったんだろう。分からないが、今の自分が酷く愚かで矛盾を抱えていることだけはよく分かる。オレは自分を何様だと思っているんだろうか。オレは他人を何だと思っているんだろうか。ベランダにはセミの死骸。この歪みに耐えられなくなった時、次にオレは何になるんだろうか。砕け散ってしまえば良いと思った。

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