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《短編小説》しばらく、青いままでいたい

 白い花びら、地に落ちて、その色合いがくすみ始める頃、捨て去りたい記憶が五体を駆け巡る。

ー2年前

 気品で優美な静けさを纏う梅、その優しさで包み込む友愛の辛夷、清らかな面持ちで絢爛と咲き誇る純潔なる桜。

 春を出迎えるこれらの木々は、それぞれの美学を持って自らをその香りで包み、単に花弁の彩だけでない、華麗な色を纏っている。

 彼らとは対照に、”僕”が纏う色は優美さや清らかさのかけらも無い、不言色だ。毎朝鏡の前で、街中のガラスに映る僕。眼に入ってくる自分の色だけは認識したくない。

 一般にはない知覚の持ち主であると、最近知った。共感覚というやつだ。多くの人が言うところの”オーラ”が僕には見える。

 恐れは紅色、怒りは松葉色、悲しみは不言色、そして喜びは、、、


 中学3年間、ろくに学校へ行かず、籠りっぱなしの僕にはカンジの優しさは新鮮だ。誰もが不安になる初めてのアルバイトで、親しげに話しかけてくれた彼には感謝しかない。

「あやか、いつになったらおわるんだよぉ」

いつも通り、大きな色で僕を包み、語りかけるカンジ。

「待って、あと5分だけ!」

 小学校の自由研究の題材にして以来、辛夷の木になる白い花が梅や桜より好きで、つい眺めてしまう。気づけばスマホのフォルダは、一面が白に覆われている。

「しゃーねーな。」

「あざっ!わら」

 カンジといる時は自分の色が変わってるのがわかる。とても好きな色に。


ーつづくー

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