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従兄弟から紹介された男性に会ってみた話

祖母が亡くなったのは今から6年前の春だった。

あの日は澄んだ青空で、桜がキレイに咲いていた。

 
「もう年を越せないだろう…。」と秋の時点で既に医師から言われていた。
祖母の認知症は進んで私達家族の認識はできなくなっていたし
話すことも徐々に難しくなっていった。

体や顔は小さくなったというより萎んでいて
確かにもう年を越せないだろう……と、医療関係者じゃないが、私達家族も分かっていた。

 
年をなんとか越せ

もしかしたらこのままもう少し長生きするかもしれない…

 
と思っていたが、冬が終わり春が始まり
祖母は夜中に誰にも見届けられず、静かに息を引き取った。
眠るように亡くなったのだろう。

 
 
悲しかったけれど
祖父のように急に亡くなったわけではない。
入所施設に入所もしていたし
年を越せないだろうと言われてもいた。

覚悟はできていた。

たまたま祖母が亡くなる一ヶ月前に
家族写真も撮っていたし
亡くなる三日前に会っていた。
亡くなる前日は従姉妹も会いに行っていた。

 
それがせめてもの救いだった。

 
 
身内のお葬式も二回目となると
多少は動きが分かってくる。 
祖父が急死した時は祖母の介護も始まったばかりだったりでバタバタしていたが
今回は多少は心や動きに余裕があった。

 
とはいっても
我が家は本家なので
祖母の葬儀には300人が参列したし
やはりバタバタした。

私は内孫として祖母とアラサーになるまで同居していたし
可愛がられていたし
働く両親に変わって育ててくれたのは祖母だ。
祖父は口数が少ない方で、あまり思い出はないが、祖母に関しては思い出が多すぎた。

 
葬儀関係でバタバタと忙しない日々の合間に
悲しみが私を襲う。

 
 
「実は今朝、うちのばあさんも救急車で運ばれて、うちも葬式するかしないかの騒ぎなんだ…。」

祖母が亡くなったことを母方実家に伝えた時
まさかの母方祖母も生死をさまよっていると聞いて驚いた。

 
重なる時は重なる。

 
年齢は異なるが
父方祖父が亡くなった年に母方祖父が亡くなり
父方祖母が亡くなった数週間後に、母方祖母が亡くなった。

 
私は同じ年に父方・母方の祖父を亡くし
数年後
ほぼ同時期に父方・母方の祖母を亡くしたのだ。

 
 
さて、葬儀となると、久々に会う親戚がたくさんいる。
親戚が会社を経営していた関係で、親戚の仕事関係者にもたくさん会った。

 
本家内孫の私は参列者に頭を下げ、挨拶し、お酌をしたり
自宅ではまたお茶等を振る舞ったり、車で送迎をしたりと
バタバタと動いた。

 
「ともかちゃんも大きくなったねぇ。いい女になって。それで、結婚の予定はあるのかい?」

 
………親戚からそれを言われるたびに、別の悲しみが私を襲ってきた。

 
姉は旦那さんと長男と参列し、次男を身ごもっていた。
一般的な所謂幸せな姉の横に、独り身の私が並ぶ。

 
……惨めだ。
惨めだった。

 
確かにその時、私には彼氏がいた。
だが、家族には紹介していなかったから「参列は控えるよ。」と言われた。
私もそれでいい、と言った。
 
彼氏には結婚願望がないどころか、浮気までしていた。
家族に会おうともしなかった。  
彼氏のことは好きだったが、そういった人に軽々しく参列してほしくなかった。

 
葬儀場には、親戚や近所の人や仕事関係者が300人も集まっている。
彼が参列しようものなら、「結婚はいつにするの?」と周りが詰め寄るのは目に見えている。

 
私とは逆に、従姉妹は彼氏を参列させ、この機会に二人で挨拶をしていた。
いとこ内では「いやいや、おばあちゃんの葬儀場で何やってるの……。」と言い合った。
彼氏さんとやらは、「真面目な付き合いだから参列するのは当然。」と言っていたらしいし
そんな彼氏の言動に従姉妹は喜んでいたが
色々な人の目があるし
別の場でもう少し慎重に行っていただきたかった。

 
従姉妹から彼氏がいることは私は聞いていたが
彼氏の存在自体を知らない親戚がたくさんいた。
ある意味、300人の参列者を前に初対面を試みた従姉妹の彼氏はすごい。  

 
 
姉が2人目を身ごもり、従姉妹が彼氏を連れてきたことで
私は更に立場がなくなった。

「彼氏は?」
「結婚は?」
「ともかちゃんは本家跡取りだしねぇ」
「彼氏は?」
「結婚は?」

そういった質問攻めややり取りに私はウンザリした。

 
 
認知症だったおばあちゃんの最後の口癖は

「ともかはまだ結婚しないのかい?」

だ。 

 
結婚どころか、恋愛で私はしくじっていた。

 
 
 
私は祖母の葬儀の時に、久々に従兄弟に再会した。

昔はうちの近所に住んでいた4歳上のお兄さん的存在で
従兄弟は私の面倒をよく見て、かわいがってくれた。

 
私に漫画やゲームの面白さを教えたのは従兄弟だし
年頃になると、恋愛話をお互いにしていた。

「もしも私にお兄ちゃんがいたらこんな感じなのかな?」と私はよく思ったが
兄がいる友達曰く、「年頃になってお兄ちゃんと遊んだり、恋バナなんかしない。」と言っていたから
私達は特に仲の良い従兄弟関係だったのかもしれない。

 
従兄弟はモテた。
彼女が途切れなかった。

 
我が家系は、男子はモテて、女子はモテなかった。
私が男だったら、今頃結婚できていたかもしれない。

 
 
従兄弟は数年前に結婚し、遠くに引っ越した。
結婚したり、引っ越す前はよく会っていたが
結婚を機に、会う頻度は激減した。

私「うわぁ~もーやだー!結婚して子どもいるお姉ちゃんと比べられてばっか!みんな、結婚、結婚、結婚、うるさーい!!」

 
従兄弟「彼氏とは上手くいってないの?」

 
私「私は好きだけど、彼氏は浮気するし、結婚願望ないし、本家を継ぐ身としてはとてもじゃないけど、両親に紹介できない。お姉ちゃんにも、浮気癖ある男と付き合ってるなんて言ったら……こっぴどく説教されるに決まってる。」

 
従兄弟「浮気癖ある男はダメだな。浮気癖は一生直らない。」

 
私「だからさ……誰かいい人いない?本家継げそうな人。従兄弟オススメの人。」

  
従兄弟「でも、ともかが婚約破棄したのは医者だろ?そんなにハイスペックな知り合いなんて俺にはいないよ。」
 
 
私「浮気しなくて、婿養子ありで、正職員で働いていれば誰でもいい。私に合いそうな人、誰かいない?」

 
従兄弟「一人、フリーな人がいる。こいつ。どう?(写真を見せてくる)」

 
私「私はOK。相手に私の顔写真送って、その気あるか聞いてみてくれない?」

 
 
私は従兄弟が好きだった。 
優しくて一途で穏やかで真面目に働く従兄弟が好きだった。

父親みたいな人と結婚したいと思っていたが
それが叶わないなら
従兄弟みたいな人と結婚したいとも思っていた。

  
それくらい、私は従兄弟が好きだし、信頼していた。

 
従兄弟ならば私の性格を知っているし
私をかわいがってくれているし
浮気をしなさそうな、いい人を紹介してくれそうな気がした。

 
姉「二人で何を話しているの?」

 
私と従兄弟が話していた時、姉が横切った。

 
 
私「未来の希望の話よ!」

 
私は言い切った。

 
 
姉「おいおい……ここは火葬場なんだぞ?」

 
 
大丈夫。
おばあちゃんは私の結婚の心配をしていた。
だから、明るい未来計画の話を火葬場でしても許してくれるだろう……多分。

 
祖母の死をきっかけに、むしろ私は家や家族やこれからを考えたのだ。
しっかりしなければ、と。
本家の娘として、将来性のない彼氏とダラダラ付き合っているだけではいけない、と。

 
 
 
この数週間後に母方の祖母が亡くなることで
私はこの後一ヶ月も経たない内から
またもや、「結婚は?」「結婚は?」と言われる日々に突入する。
母方の親戚中心に、だ。

 
 
未婚アラサーだと、親戚と集まるとため息がつきたくなる。
姉が2人目を身ごもっていたのが、余計に悪いタイミングだった。

 
 
 
祖母の葬儀が終わり、一区切りついた頃
従兄弟から待ちに待ったLINEがやってきた。

相手は私の顔を見て、連絡先交換を了承してくれたのである。
シメシメである。

 
彼はAさん。
なんと、私と同じ名字だ。 

「結婚したらややこしくなるなぁ…(笑)」と早々と考えるあたり
私はおめでたい女だった。

 
年上で、身長が180cmでガタイがよく、趣味はラグビーと釣りだという。
日に焼けた肌が素敵だ。
なるほど、私の周りにはまずいないアウトドアアクティブ派だ。

 
LINEでやりとりをしてみたら、会話が成立していた。
LINEの頻度もほどよい。

  
「ふ、普通の人や~!!」

 
私はそれだけで嬉しかった。
婚活をすればするほど、まともな普通の男性がまずいなかった。
婚活パーティーや相談所が特にひどく
婚活をすればするほど

私が信頼している身近な人からの紹介が、一番無難じゃないか………?

という結論に達した。

 
  
本当は彼氏がいるから、同時進行に婚活は不誠実だが
彼は明らかに結婚を避けているし
浮気相手は下手したら私の方かもしれない。

彼氏が浮気をしたから私も浮気をしようとは思わないが
「そっちが結婚する気がないなら、遠慮なく婚活をしてやる。」位は思っていた。

 
彼氏は好きだが、結婚したいとは思えなかった。
浮気癖が直るとは思えなかった。
かといって、キッパリ別れて連絡先を拒否にするほど愛想を尽かすこともできなかった。

 
異性と食事くらいなら、構わないだろう。
私はそう思っていた。

 
浮気をする人は最低だと思いながら
私は彼に惚れまくっていた。
自分から手放せなかった。
私から別れ話をしかけたら、あの手この手で別れさせないのが 
彼の憎たらしい手口だった。

 
周りの人は別れることを推奨しており、「彼氏よりもっと惚れる人がいないと、ともかは別れられないね。ともかは二股できないタイプだから、いい人ができたら、浮気癖のある人を容赦なくフる。」と結論づけた。
私もそう思った。

 
この不毛な今から抜け出すには、とにかく他の異性とデートし、両思いになるしか道はなかった。
他の出会いがない限り、「やっぱり彼しかいない。」と私は弱さに負けてしまう。

 
 
 
今度こそ!と期待をしたAさんと知り合って、連絡をしてから早々に
早速二人でランチをすることになった。

  
お店はアメリカンで、内装が派手で、ジューシーなハンバーグがウリのお店だった。
Aさんオススメのお気に入りのお店らしい。

 
ガタイがいいAさんは見事な食べっぷりで雄々しく
無難な会話を繰り広げながら
盛り下がっている自分に気づいた。

LINEでは、会話が成り立っていたが
会って会話をしてみると
なるほど、会話がただ成り立っているだけなのだ。
トキメキはなかった。

 
合っていない…  

 
と思った。
悪い人ではないし、異性として魅力がない人ではなかったが
特別楽しくはなかった。  

 
私はビジネストークのように
笑顔で話題を振り、気を使っていた。

 
せっかくメイクしてお洒落して張り切って「女の子」しているのに 
いざ会ってみたら、私はビジネスウーマンかピエロでしかなかった。
 
 
食事会は二時間で終わった。
相手が驕ってくれた。

男性が驕るべきとは思わないが
婚活においては、男性が驕ってくれた方が好感度が高い。

 
下ネタをふらず
すぐに体を触らず、求めず
昼間に会ってくれて
驕ってくれる。

 
それだけで、私は女性扱いされ、大切にされたようで非常に嬉しかった。

 
婚活においても、婚活以外においても
これができる男性は少なかったのだ。

 
例えこちらがほのかな好意を抱いていても、いきなり体を求められるたびに悲しくなった。 
割り勘を言い渡された時も空しかった。

私はそれ程度の女と見下されているのだ、と。

 
 
 
Aさんと別れ、ランチのお礼のLINEをした。

Aさんからも返事は来た。
その、普通のやり取りだけで嬉しかった。
やはり従兄弟が紹介してくれただけある。

 
多分もう会わないだろうと思ったが
Aさんと私の気持ちは同じだったらしく
その日を境に二度と連絡もしなかった。

 
可もなく、不可もない。

  
婚活はそんな相手ばかりいる。
相手からも私はそう見えているだろう。
恋愛や結婚はそれだけ奇跡なのだ。

 
それでも、婚活は嫌な思いをしがちだから
相手が最低限のマナーを守ってくれただけで
私は婚活や異性に不信感を募らせず
また前を向ける。

 
 
私は従兄弟に報告LINEを送り、Aさんとの交流に一区切りをつけた。

 
 
 
私の婚活はまた振り出しに戻った。


 
 
 
 
 

 
従兄弟は結婚前提に7年付き合った人がいて
何回も何回もプロポーズをしたが、彼女はイエスとは言わず
仕方なく別れた。 

 
勿体ないことをするなぁ……彼女は。
従兄弟はすごくいい男だぞ。

 
従兄弟贔屓な私はそう思ったが、恋愛はなかなかに単純ではなく、複雑だ。 

 
 
従兄弟は結婚願望が強かった。
あたたかな家庭を築きたかった。

彼女と別れてから、従兄弟は今の奥さんと出会った。

 
奥さんの両親から結婚を反対されても
何度も何度も話し合い
最終的に結婚を認められた。

 
 
今、従兄弟は奥さんの家に入り
三人の子どもの父親となり
仕事をしながら家族と楽しそうに過ごしている。

  
奥さんは優しいしっかり者で、素敵な女性だった。
私は姉の旦那さんより従兄弟の奥さんとの方が仲が良いくらいだった。

 
従兄弟が奥さんや子どもと仲良く過ごす姿を見るたびにホッコリする気持ちになるし

あぁ…結婚っていいなぁ。
従兄弟みたいな男性、どこかにいないかなぁ…

と、しみじみ思う。

 
  
 
 
私はその後、浮気癖のひどい彼氏とは別れ、その後も色々と出会いと別れを繰り返し
未婚の今に至る。

早く天国にいるおばあちゃんに、結婚報告をしたいものだ。

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