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マニキュアやペディキュアができない

女の子がまず最初に憧れる化粧は、ネイルやリップだと思う。

 
私が小学生の頃、女の子に絶大な人気を誇ったママレード・ボーイというアニメがあり
爪磨きセットというオモチャが発売された。
二歳年上の姉は私より早くお洒落に興味を持ち
それを購入し
私の爪を磨いてくれた。

 
「わぁ~!キレイ!」

 
爪磨きセットで磨かれた爪は、磨く前と比べたらキレイに見えた。
私と姉は磨かれた爪を見てはキャッキャはしゃいだ。

 
 
「ともかの手は本当にキレイ。白くて指は長くて、手タレになれるわ。」

私の母親は、私が小さい頃からよくそう言っていた。
私は自分の容姿や顔に自信はないが
母が褒めてくれた体のパーツは自信が持てた。

 
私の手はキレイなんだ。

 
私はそう自分でも思っていた。
手が自慢だったのだ。
確かに周りと比べても、母の言うように私の手は白くて、指が長かった。
毛も濃くなかった。
家族以外からも手を褒められることは多かった。

 
だから手のパーツである爪のケアに
私は興味を持った。

私は自分の唇の形にも自信がなかったから
リップを塗るよりも
爪磨きに勤しんだのだ。

 
 
私が高校生は、100均が大ブームの時代で
高校の近くには100均がたくさんあった。

 
高校一年生の頃、お小遣いは5000円。

欲しいCDや本や洋服、お菓子なんかを買うと
お金はあっという間になくなった。

 
 
私は友達と一緒によく100均に行き
ビューラーやマスカラ、マニキュア等を買った。
100均は天国だ。
1個100円なのだ。
どれもが100円で品揃えも豊富なんて
まるで夢の国だ。

 
学校はマニキュア禁止だからつけなかったが
友達と遊びに行く時は薄いピンク色のマニキュアをつけた。
なかなかに、はみ出さないようにはじを塗るのが大変だが
なんとか塗れて、フーフーしながら乾かす。

 
私は休日に指輪や腕時計を必ずする主義だったから
マニキュアをつけた左手に指輪をつけ、腕時計をつけた。

休日に友達と遊ぶ時は、非日常的な雰囲気の手になった。
それだけでテンションが上がった。

 
月曜日の朝を迎える前にはマニキュアを落とさなければいけない運命でも
私は出掛けるたびに爪にマニキュアをつけた。
周りの友達の爪も、かわいらしい色に染まっていた。

 
 
やがて高校を卒業し、私は大学生になった。

大人になったら女性はみんな化粧に興味を持って、化粧をするものだと思ったが
私は化粧に興味を持てない女性になった。
顔に何種類もベタベタしたものを塗りたくったり
粉状のものをパタパタとする行為が苦手だった。
アイメイクも恐ろしい。
目に負担がかかる行為にしか思えなかった。

  
 
大学デビューしたかった私は
大学入学に合わせ
髪を染め、コンタクトにし
メイクをし
大学に行っていた。

 
化粧はマナーだと思っていたから
最低限のメイクというか
薄化粧であった。

 
「化粧をしても、すっぴんでも変わらないね。」

 
と親友から言われたことをきっかけに
私は毎日化粧をすることをやめてしまう。
大学入学した半年後だった。

コンタクトにより、ドライアイが悪化した私は
コンタクトデビューした2年後
医者からコンタクトを禁止される。

 
 
だから私は大学デビューしようとしたが
特に垢抜けないままだった。

髪を染めれば「黒髪の方が似合う。」と周りから言われたし、自分でさえ思ったし
コンタクトをしても「メガネの方が似合う。」と周りから言われたし、自分でさえも思った。

 
私が大学デビューをして得たのは、ありのままでいいと言うことだ。
流行りに乗っかり、みんながしていることをしたからといって
自分に似合ったり、楽しい気分になるかはまた別問題だということだ。

実際、大学入学直後が一番色々と張り切っていたと思うが、彼氏はできず
化粧や髪を染めることやコンタクトをやめた時に彼氏ができた。

 
お洒落って一体…

 
と思うほかない。

 
 
だが、そんな私だったが、大学生の頃は必ずマニキュアはしていた。 
ピンクだけでなく、水色やラメや様々な色を塗った。
それだけは譲れなかった。

もしかしたら、セーラームーンの印象もあるかもしれない。
私がアニメで一番好きなセーラームーンは
変身する時に手がアップになり、マニキュアが塗られるシーンがある。

 
私の中でマニキュアは、キレイやかわいいの入り口なのかもしれない。

 
 
20代の頃、友達から海外土産でお洒落な爪磨きセットをもらった。
30代の頃、従姉妹からは人気が高い爪磨きセットをもらった。

小学生の頃に使っていた爪磨きセットはとっくに使えなくなっていたが
こうして私はいつも爪磨きセットを誰かにもらい
夜に爪を磨いて過ごしていた。

 
 
 
私は学校を卒業後、障害者福祉施設に入職した。

施設はマニキュアが禁止である。

 
 
学生時代は常にマニキュアをつけていたし、バイトでマニキュアが禁止されていれば、デートの時にマニキュアをつけたりしていた。

だが、社会人になったことをきっかけに、明らかに私はマニキュアをつける機会が減った。

 
 
私の職場はアフター5なんて言葉が疑わしいほど、定時の5時にはまず仕事は上がれないし
花金とは言っても、土曜日は仕事の週6勤務だし
社会人になりたての頃は遠恋だった。
私は片道二時間以上かけて、週末は彼の家でほとんど過ごしていた。

金曜日夜か土曜日夜にマニキュアを塗って
また日曜日の夜に落とすということが
極めて面倒だった。

 
彼は彼で医療従事者だったり、性格から
あまり私に化粧やネイルを求めなかった。
清潔感や健康を大切にしている人だったのだ。
爪は短いに限る、という人だった。

 
 
入職したての頃は仕事で入浴支援をしていたが
やがて私は書類作成が忙しくなり
入浴支援から手を引くようになった。 

事業リーダーだった私は基本的に現場もしくは事務室に必ずいて
何か緊急事態があった時に対応することが求められた。
私の事業部は、正職員が私しかいなかった。

 
 
私は入浴支援職員が休んだ時や入浴支援時に何かがあった時にヘルプする役割になったが
入浴支援職員はたくさんいるから
まず私が入浴支援をやることはなかった。

入浴支援時にヘルプすることはあったが
大抵は助言であったり
外部との連絡や相談といった形で
裸足になって湯船に行くことはなかった。

 
これならば………いけるのではないか?

 
 
私はある日思い立ち、足の爪にマニキュアをつけた。
足の場合はペディキュアというらしい。

今まで、手の美しさにこだわって手の爪にしか塗っていなかったが
社会人になってから、マニキュアは暇を持て余していた。

 
なんでもっと早く気づかなかったのだろうか。

 
足の爪に色を塗ると、エネルギッシュであり
足を見るたびにテンションは上がり
サンダルとバランスが非常に良く、お洒落だった。

 
 
私はマニキュアをつけない代わりに、ペディキュアにこだわった。
一見真面目そうに見える私が
実際比較的真面目な部類である私が

スニーカーと靴下を脱いだら、足の爪が赤い。もしくは金色。ターコイズブルー。緑。

それがなんだかおかしかった。

 
ほとんど毎日そばにいるのに、利用者も職員も私のペディキュアを知らない。
脱いだら派手だというのが面白かった。

 
マニキュアではピンク等清楚な色を好んだが
ペディキュアでは赤等エネルギッシュな派手な色を私は好んだ。

同じ爪に塗る行為だが
マニキュアとペディキュアは私にとっては別物だった。

 
マニキュアが表の顔なら、ペディキュアは本性とでも言っていいのかもしれない。

 
これは私だけではないが
派手な色の洋服は着ることは躊躇うが
下着ならば挑戦できるという心理が働く場合がある。
誰にも見られない場所だからこそ、冒険できることもある。

 
そう考えるとマニキュアは服で、ペディキュアは下着みたいなポジションなのかもしれない。

 
 
 
アラサーになって女子会をした時
友達が結婚し、更に今ネイリストの勉強をしていると言っていた。

その友達は漫画が上手だったので(くノ一等和物を好んでいた。オリジナルストーリーを描いていた)
ネイリストも向いているかもしれないな、と思った。

 
久々に会った彼女は垢抜けていた。
私以上に化粧っ気がなく、お洒落に興味がない方だったが
個性的な服やメイクやネイルをするようになっていた。
クリエイティブというか、アーティスチックというか
なかなかに派手であった。

 
女子会では6人が集まり、それぞれに様々な出来事や変化がみんなあったし、私もあったが
一年ぶりの再会で一番ビフォアーアフターだったのは
紛れもなく、彼女だろう。

 
 
私はそこで初めて、ジェルネイルという単語を聞いた。
話によると、今ジェルネイルが流行しているらしい。

その年その年でトレンドカラーは変わるし
ネイルもフレンチネイルだとかドットだとか
様々な流行があったが
ジェルネイルという種類のネイルが今流行だとは
私は知らなかった。

 
「誰か、練習台になってくれない?値段は●●円でいいから。」

 
 
…………………高い。

 
 
私はジェルネイルの相場を知らなかったが、彼女から提示された金額は高かった。
ジェルネイルはしばらくもつらしいが
仕事中ネイルが禁止の私にとって、たかが一日二日しかもたないものにお金はかけたくなかったし
話によると、ジェルネイルを落とす時はまた彼女の元に行かなければいけないらしかった。

我が家から彼女の家までは一時間以上かかる。

 
 
更に、プロではない方がその料金で友達にやることも妥当かは分からなかった。

彼女の絵は上手かったが、好みではなかった。
個性的なファッションだとは思うが、彼女のネイルやファッションを好みとは思わなかった。

だから私のイメージ通りに私好みのジェルネイルとやらをできるかも分からなかった。

 
 
私は、彼女からの申し出は断った。
「仕事柄、マニキュアはつけられないんだ。」と無難に断った。

 
彼女は気づいていなかったろうが
断ったのはそれだけではなかった。

 
彼女は自分の恋愛が上手くいっていない時に、私や別の子に女子会で失礼なことを言った。
失恋の痛みや恋愛が上手くいかない苦しみは分かるし、たまにしか会わない仲だからと、余計なことは言わなかった。

だが、しこりとして、女子会メンバーの心には残ってはいた。

 
 
結婚したら結婚したで、色々と言われたし、言ってきた。
彼女に悪気はないのは分かったが
女子会メンバーはその発言に内心傷ついていた。

  
そんな中での、ジェルネイルの話だった。

 
 
私はジェルネイルのことはよく分からないから、金額やクオリティが妥当かは分からない。

 
ただ、エステティシャンの資格を取得し、独立したり、働き出した友達が私は頭の中に浮かんだ。
金額やサービスの内容や友達の優しさを
私は思い出さずにはいられなかった。

エステティシャンの友達は彼女とは違う、と私はハッキリ思った。
エステティシャンの子を私は友達だと思っていたし
人として素晴らしかったし
エステの質や内容や金額からも優しさを感じた。

  
友達だから
人として好きだし、信頼しているから
エステの顧客になった、というところはあった。

 
 
 
私は女子会中、彼女を遠くに感じた。

悪気はないのは分かるが
友達同士でお金が絡む話をしたり
恋愛や結婚が上手くいっているからといって
心ない発言をしてもいい、とはならない。

 
 
結婚式は挙げないらしく、仲間内で結婚祝いの品を贈ることになった。

祝いの品はみんなで金額を割っても非常に高く、私には痛手だった。
祝いの品に関して、色々周りが意見を言ったが、聞かずに強行突破した彼女についても
ジェルネイルの彼女についても
今まで思うことが色々あり、私はたまってしまった。

 
普段連絡とらないのに
たまに会って嫌な思いしたり、お金がやたらと派生するのは
もはや友達じゃないよな。

 
 
 
私は結婚祝いを機に、その二人と縁を切ることに決めた。

一緒にいて楽しめなかったり、お金の価値観が違ったり、勿体ないと思うのは
私の中で彼女らが友達ではないからだ。

 
 
縁を切ると言っても、自然消滅を狙う形だった。
あえて何も言わなかった。
もはや言っても意味はない。

嫌な思いをしてきた時に、やんわりと気持ちを伝えてはきた結果の今だ。
価値観のズレだったり、私の心が狭いと言われたらそれまでだが
私は彼女らに私を大事にされていないと感じた。
だから、結婚祝いの義理は果たしたから
これ以上は私の自由だ。

 
 
ジェルネイルの件を最後に、6人で女子会をすることは二度となかった。
結局は、私以外のメンバーもそれぞれに思うところがあったからだ。

6人の中で会いたい人とは会って、連絡したい人とは連絡する。

それでいいのだと思う。
私に声がかからなくても、除け者にされたとは思わないし
私が誰かに声をかけなくても、除け者にしたわけではない。

  

アラサーだったあの頃 
結婚や恋愛や子育てや彼氏なしという、どのステージに自分がいるかによって
友達と埋められない距離や価値観のズレを感じた。
友達は友達で感じただろう。

 
自分や友達がどんな環境であろうと続く友情もあるが
人は結局、身近な人と距離を縮めていくのだと思った。

 
同じ職場、同じ立場、同じ境遇、同じ性別。
自分と同じ、もしくは似ている部分を持つ人に心惹かれ、共感し
仲を深めていくのだろう。

 
だから今そばにいられたり、会える距離にいて
かつ
心の距離も近い人が数えるほどでもいることは
とても恵まれたことだと思う。

 
 
 
   

  
 
 
今年の春、私は仕事を退職した。
11年間の社会人生活に幕をおろした。

ネイルは晴れてやり放題だ。

  
私は久々に手の爪にマニキュアを塗った。

 
 
だが、違和感を感じた。

 
 
気持ちが上がらなくて、それどころかそんな爪が嫌で
私は慌てて除光液をつけた。

 
ペディキュアも、同じだった。
今までは散々派手な色を塗っていたのに
私は退職を機に、派手な色が気持ち悪くなった。
慌てて除光液をつけた。

 
私はペディキュアで薄いピンク色しか塗れなくなったし
それさえも時折嫌気がさして
今すぐに落とさずにはいられない吐き気に襲われた。

 
 
私は自分の変化に驚きが隠せなかった。

5年間ぐらい赤色がマイブームで、ペディキュアどころか洋服やスマホケースや身近なものを赤ばかり揃えてきたのに
退職を機に、赤を強すぎるように感じた。

 
身につけるとエネルギーが湧き上がるはずだった赤。
だけど私は、赤を身につけるとむしろ、心身の残りのエネルギーを吸い取られ、嫌気がさすようになってしまった。

 
 
赤の卒業の時が来たか…………

私は自分の置かれた状況を理解した。

 
 
私は数年単位で、マイブームカラーが変わる。

好きな色はある程度変わらないが
マイブームカラーは数年間散々身につけた後
いきなりパタッと欲さなくなるのだ。

 
だが、欲さなくなるだけで
今まで好きだった色に嫌気がさすのは初めてだった。
退職が私にもたらした影響はあまりに強すぎたのだろう。

私の心身は、マニキュアやペディキュアという刺激を拒むほどに弱っていた。

 
 
私は泣きながら笑えてきた。

退職した今ならばジェルネイルでもなんでもやりたい放題なのに
自由になった瞬間に、私はマニキュアもペディキュアもできない体になった。

 
私は疲れていた。
ひどく、疲れていた。
退職はマニキュアやペディキュアで回復するほどの
心身の痛みではなかったのだろう。

 
私の世界からは色が消えたのだ。
予期せぬ退職により、私の世界や未来は白紙になった。

 
 
 
 
 
昨日、ネットニュースでネイルサロンの倒産が相次いでいると知った。

出掛けるから爪までお洒落をしたり
仕事やお金があるから
爪のお洒落のために、プロの手を借りるのだろう。

 
 
だが、今年は自粛や外出制限やイベント中止により
私達は出掛ける機会が激減した。
たまに出掛けてるにしても、お洒落をして出掛ける必要があまりなくなった。
ネイルサロンは密室だから、もしかしたら密室を避けたい人もいるのかもしれない。

仕事がなくなったり
不景気により、お金は貯金しようという流れになったりで
ネイルサロンに行く人は減ったのだろう。

 
セルフネイルでも、今は色々できる。
相変わらず100均にはたくさんのマニキュアが売っているし 
もう少しグレードを上げれば、更に色々とマニキュアの幅が広がる。

 
 
自分の手をじっと見つめる。 
まさかマニキュアがつけられない日が来ると思わなかった。
マニキュアどころか、指輪さえ、今年はつけられなくなった。
つける気分じゃなくなった。

自分の足をじっと見つめる。
まさか派手なペディキュアがつけられない日が来ると思わなかった。

 
 
 
この間、友達のキレイなマニキュアや笑顔を見た時、私は彼女が眩しかった。
キラキラとしていて、女の子をしていて、いい匂いがして
同じ女性なのに、私は彼女を遠くに感じた。

 
 
もし仕事が決まったのなら、私はまたペディキュアができるのだろうか。
それとも退職は関係なく、コロナや年の問題で、ペディキュアを卒業したのだろうか。

今の私にはよく分からない。

 
 
私は白紙の未来に夢を描きたい。
そしてカラフルな色を塗りたい。

爪ではなく、今は未来に色を塗りたいよ。

 

 

 




   

 



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