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鮭おにぎりと海 #27

<前回のストーリー>

「俺は元気だから心配するな。」

というLINEのメッセージが神様こと神木蔵之介から届いた。そして、そのメッセージと合わせて、現地で仲良くなったと思われる現地の女の子との2ショット画像が送られてきた。神様はどういう意図でこのメッセージを送ってきたのか、理解することが難しい。おそらく結局は単に海外へでてちょっぴり寂しくなったから送ってきたのではないかと当たりをつけた。

一応返信として、「元気そうで何よりです。応援しています。」というメッセージを返信したところ、なぜか走っている人を表現したと思われるスタンプが送られてきた。一体何を考えているのだろうか。全く読めない人である。

メッセージを送ってきた意図がよくわからない人物がもう一人。葛原南海という女の子だ。9月の半ばごろ、夏休みも終盤に差し掛かった頃合いの時だ。彼女も突然脈絡なく、

「戸田くんの小さい頃の夢はなんですか?」

というメッセージを送ってきた。彼女からメッセージが来たことによってどこか浮き足立つ自分がいることを自覚せざるを得ない。

「昔は、なぜか宇宙飛行士になりたいと思っていました 笑」

と書くと、

「では今度の休みの日に、お台場あたりにある日本科学未来館に行きませんか?」

とまたすぐに返信がきた。

そんなわけで、僕は彼女と2度目のデートをすることになったのだった。

その週の日曜日、彼女から提案を受けた時間と場所で僕らは待ち合わせとをした。テレコムセンター駅というところで、おそらく何か用事がない限りは、この先ずっと利用することがないのだろうというような雰囲気の駅だった。

僕自身、かつて幼い頃になぜ宇宙飛行士になりたかったかというと、遡ること僕がまだ小学4年生の頃。その時、確か学校で定期的に購入することのできる『科学と実験』という雑誌があって、僕はそれを読むことが毎月の楽しみになっていたのだ。毎回何かしらの付録がついてくる。ちょうど11月号の付録が、星座早見盤という星の動きを観察することのできるキットだった。

その際に特集として組まれていたのが、流星群だった。確か、時期的にしし座流星群が見られる時だったように思う。昔の人たちは、流れ落ちてくるたくさんの星を見て人類が滅亡する日だと思ったらしい。その時の僕の印象として、流れ星とはそんな簡単に見られるものではないと思っていたので、なんだかとても新鮮な気持ちになったことを覚えている。

そしてそれは次第に僕の中で大きな興味へと変わっていった。そしてその話を母親に話をしたら、星が見られるのは夜遅くだからその時にタイミングを合わせて一緒に起きようか、と言ってくれた。おそらくそれが唯一と言っていいほどの母親との良い思い出かもしれない。

しし座流星群が一番飛ぶとされた日は、たまたま土曜日と日曜日にあたる日だった。そのため、土曜日に母も僕もいつもより早めにベッドに入った。深夜3時になって目覚まし時計がジリジリと鳴る。僕は眠気まなこでベッドから這い出して、外に出てみた。だいぶ秋というには気温も下がりかけていた頃合いで、外には暖かそうな布団にくるまって空を見上げる母がいた。

「あら、せいちゃん。ちゃんと起きられてよかった。外に出てこなかったら、今から起こしに行こうと思っていたのよ」

そんなふうに言って母は頭上を指し示した。

空を見上げると、そこには今まで見たことのない星の世界が広がっていた。夜になるとこんなにも多くのの星が現れるのか。

「お母さん、このたくさんの星さんたちはどこからやってきたの?」

「そうね、実はせいちゃんが昼間見上げている空にもこの星さんたちは存在しているのよ。でも星さんは恥ずかしがり屋だから、明るい時には私たちから見えないように透明マントを被っているの。そして夜になると、みんな寝てしまうから姿を現すのね。」

「星さんは恥ずかしがり屋なのか。僕と一緒だね。」

「そうかもしれないわね。」

そう言って母は僕の頭を優しく撫でた。その後、寒さに震えながらも2時間くらい僕たちは空を見上げて星を眺めていた。その間、大体1時間に10個以上は流れ星が流れる瞬間をみることができた気がする。最初星が流れる光景を見たときの感動は、今でも心の奥底にしっかり残っている。それはきっと母と過ごした楽しい時間とセットになっているような気がする。

待ち合わせをした駅に、葛原さんがやってきた。彼女は、耳に星の形をしたピアスをつけていた。大学構内で葛原さんと再会した時に、彼女が無くして途方に困って探してあげたピアスだった。

遠い記憶が蘇ってきて、ほんのり心が温まるとともに少しだけチクリとした。


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