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世の中の先入観なんて吹っ飛ばせ!

いつになったら、私たちはタイムリミットから解放されて手を取り合うことが出来るんだろう。世界中にある時計を一つ一つ、金槌で壊して歩けたらどんなにいいだろう。(p.116)

 今年の4連休は意外とあっさり終わってしまったことになんとも言えないモヤモヤとした気持ちを抱いている。ニュースを見る限りだと結構日本勢金メダル取っている感がある。でもなんか遠い世界の出来事を見ている感じが否めなくて、うーんどうしたものかと一人で勝手に頭を抱えている。

 さて、ちょっと疾走感のあるタイトルにしてしまった。休みの間にゆるゆると本を読んでいた。ちょうど昨日読み終えたのが、柚木麻子さんの『デートクレンジング』。一昨年くらいからこの作家さんの作品を読むようになり、これでたぶん5冊目くらいだろうか。この人の作品は基本的に芯がぶれない。本作品についてもご多聞に漏れず、女性同士の友情関係にスポットを当てている。

 人によっては毎度同じスタイルじゃないか、と言うかもいるかもしれないけれど私的には安心していつも読むことができる。その度考えさせられることもある。言わんとしていることがなんとなくわかるから好きだ。(後半、ちょっと登場人物のキャラクターが若干わからなくなってしまうところはあるにしても)

<あらすじ>
喫茶店で働く佐知子には、アイドルグループ「デートクレンジング」のマネージャーをする実花という親友がいる。
実花は自身もかつてアイドルを目指していた根っからのアイドルオタク。
何度も二人でライブを観に行ったけれど、佐知子は隣で踊る実花よりも眩しく輝く女の子を見つけることは出来なかった。
初めて親友が曝け出した脆さを前に、佐知子は大切なことを告げられずにいて……。

チクタクと刻まれていく時間

 本作品のモチーフとして使われているのが、鳩時計。残念ながらこの先も不老不死の薬が発明されない限り、私たちの命はいつか潰える。したがって歳を重ねるに連れ、何かを失ったり諦めたりすることが次第に増えていく。

 みんな自分らしく生きたいと思いながらも、気がつけば世間の価値観みたいなものを押し付けられて時には苦しい思いをする。本作に登場する佐知子も実花もそうした世間からの見られ方に対して苦心しっぱなしなのだ。

 読んでいるとだんだんしんどくなってくる。いつまでも結婚しないことは罪なのだろうか。夫婦の間に子供を作ることは義務なのだろうか。ある程度の歳を重ねたら未来に希望を抱いてはいけないのだろうか。

 年齢を重ねても自分は自分として生きて、どうしていけないのかな。そんな世間からの一方的な見立てに対して息苦しく感じてしまう。もしかしたらそう思うこと自体、自分の視野が狭くなっている証拠なのかもしれないけど。

変化していく周囲との関係性

私たちはなんにも変わっていないのに、時間とか周囲の目とか環境とか身体の変化に引き裂かれているだけなんじゃないかな?(p.140)

 私にも過去経験があるのだけど、なぜか友人が結婚したり子供ができたりするとどうしても会いにくくなってしまう。それはなんでだろうな、と思った時に例えばそれが「置いて行かれた側」(=つまり結婚していない、結婚しても子供がいない)である時に、なんとなくその人に対してちょっとした嫉妬とかあるいは遠慮とかそういったものが先に来てしまうからなのかなと思った。

 これももしかしたら勝手な思い込みかもしれない。わからないけれど、「先を行く側」が住む世界と「置いて行かれた側」が住む世界が違うものだと心のどこかで割り切っているのかもしれない。彼らには新たに守るべきものがあって、その世界に介入する余地はない、と思っている節があるのだろうか。

*

抗え、私の心!

もう片方の確かにそこにある相手を見つけ出すことが出来たら、この問題に決着がつくのかもしれない。(p.113)

 それとこの小説を最後まで読み終えた時に感じたことがもう一つある。

 周りとの関係性も自分がこうあらねばならないという考え方も、もしかしたら世間の一般的な考えを押し付けられただけなのかもしれない。でも一方で、それに対して抗おうとしない自分自身にも原因があるのかなと思ってしまった。

 きっとね、歳を重ねていくたびにこうした見えない壁みたいなものと戦っていく必要があるのだろうね。でもその壁に対して決して自分一人では抗えるものではなくて、またその都度その都度で助けてくれる人を見つけていくことで自分の世界が形成されていくのかなってなんとなく思う。

 そして手放したくない人やものに関しては、往生際が悪くてもいいから徹底的に争う。カッコ悪くてもいいはずだ。それを失ったことによって感じる心の痛みに比べれば。抗わないことは、逆に自分を殺していることにならないだろうか。

 だからそう、私が本当に大切にしたいものについてはしっかり手を握って生きていこう。

誰かのために心を砕いた時間は、もしかすると最終的に自分に還元されるのかもしれない。(p.100)

*

 今日も暑苦しい夜になりそうだ。とりあえずブランケットに包まって、クーラーの下で寝ることにしよう。大切な人のことを思い浮かべながら。

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