休職はいいことばかりじゃなかった(後編)
僕は2021年の10月から2022年の1月はじめにかけて、会社を休職していました。
まさか自分にそんなことが起こるなんて思ってもみなかったのですが、来るときは来るもんなんだな、と実感した次第です。
その騒動を通して感じたこと、悩んだこと、その期間に接したいろんな人のことについてのお話です。
※前編からご覧ください。
休職する前と後で変わったこと
変わっていく背中
何とか復職を果たした僕は、東京本社からの指示もあって、休職前の業務にいきなり戻るのではなく、サポート的な業務からスタートすることになり、仕事的には以前ほど苦しむことはなく、その配慮にとても感謝していました。
ただ問題は同僚のことでした。
休職明けも、以前と変わらず接してくれる人ももちろんいたのですが、明らかに態度が変わった人も何人かいたのです。
しかもそれが、ほぼ同じ時期に入社した同期の2人だったので、僕はかなり悩みました。
休職前は“同期会”として3人だけで飲みに行ったりするほど仲が良かったのですが、休職後の2人は決して仕事の話以外で僕と関わろうとはしてくれなくなりました。
コロナ以降、全員が会社に揃うことはなくなり、用事のあるメンバーだけが出社する形になっていました。
僕も2週間に一度くらいの間隔で出社することがあり、そんな中で同期のうちの一人と会社で顔を合わせました。休職明けに初めて会ったので、僕は声を掛けました。
「おはよう、ひさしぶり!」
『ああ…おはようございます…』
「長いこと休んで迷惑かけてごめん、またよろしくね」
『……それだけ?』
「え?」
『何か仕事の話があるのかと思った』
そう言って彼女は僕から顔を背け、パソコンの画面に視線を戻しました。
休職したことの罪を実感するには十分な出来事でした。
悪いのは自分なんだから
それからも同期の2人は僕と仕事上でも直接関わってくれることはほとんどなく、会話をすることもないまま1年が過ぎました。
その間ずっと僕は「担当している仕事を全部放り投げていきなり休職したのだから、こういう対応をされても仕方がない」「社会にとってメンタルの病気なんてまだまだ甘えでしかない」と自分を責め続けました。
それでも今やるべきことをしっかり丁寧に続けていけば、いつかまた信用してもらえる日が来るかもしれない、と考え、毎日の業務を進めていました。
出社したときも、できるだけ“普通”に振る舞い、周りの人に気を遣わせないように努めました。
たまに会社で同期の2人と会ってしまうこともあり、やはり目も合わせてもらえないことに落ち込むことも幾度となくありましたが、すべては休職した自分の責任と受け止めていました。
12月の冷たい風の中で
悪夢の面談
2022年の12月23日、休職が明けて1年近くがたったころ、直属の上司と支店長との定期面談がありました。
何か困っていることがあればなんでも話すように言われたので、勇気を出して「休職明けから態度が変わってしまったように感じる人たちがいる、でもそれは自分がいきなり休職したから仕方がないと思っている」と話したところ、直属の上司に「まぁみんなうつ病の人とはどう接したらいいかわからんのちゃうか」と言われ、戸惑いました。
そもそも普段から乱暴な物言いをするタイプでしたが、さすがにその言い方は無いのでは?と思いました。
また、僕が所属している部署はこの数ヶ月で4人ものの社員が辞めることになっていて、年明けには代わりに新しい人が入ってくることになっていたのですが、「いつ何があるかわからんから、これから入ってくる新人たちには『僕はうつ病なんでいきなり変なことを言うかもしれないので、先に謝っておくね』と言ったほうがいい」と言われました。
僕は何を言われたのかよくわかりませんでした。
例えば休職明けに僕がそのように、気分が芳しくない時に誰かに八つ当たりしたり、失礼なことを言ったり、そういうことがあったなら、そう言われても仕方がないのですが、そんな覚えは一切なかったし、前述のようにむしろ“普通”に振る舞うように殊更注意していました。本当に天に誓って、気分次第で誰かを傷つけたことはなかったのです。
しかし直属の上司だけでなく支店長も「僕も新人にはうつ病であることを打ち明けておいた方がいいと思います」と言われ、押し切られてしまいました。
義理を欠いても守るべきものがあったのに
そして、その面談があった日、夜は部署の忘年会がありました。休職以来、大人数の集まりは徹底的に避けているので、本来なら不参加にするはずだったのですが、それがただの忘年会ではなく、僕をはじめから丁寧に教育してくれた先輩社員の送別会でもあったため、行くことにしたのです(そういう義理を欠かないことは自分の中の良いところだと思うので大事にしたい、という自分のためでもありました)。
僕は飲み会では結構陽気になるほうで、コロナ前の飲み会ではみんなと楽しく飲んでいたのですが、その日の忘年会は僕は端に追いやられ、みんなから話しかけられることもなく、「アンタッチャブルな存在」とでも言わんばかりの扱いをされました。
面談で上司に言われたことを思い出しました。
「みんなうつ病の人とはどう接したらいいかわからん」
これがそういうことなんだな、と。
そして僕は僕で、「休んでたくせに飲み会には来て騒ぐんだ?」と思われている気がして、みんなの中に入っていく気にはなれませんでした。
「うつ病なんて到底許されるものではなく、社会はもっと厳しいものだ」「逃げた自分は卑怯者なのだ」と、忘年会の間も、帰りの電車の中でもずっと考えていました。
テレワークであまり顔を合わさないからコミュニケーションがうまくいかないだけで、飲み会ならもしかしたら前みたいに……とひとかけらの期待を持っていた自分を今はとても恥ずかしく思います。
会社に確かめたかったこと
ただ、どうしても面談で「新人にも先にうつ病ですと謝っとけ」言われたことは本当に正しいのか?という疑問を消せなかった僕は、週明けに東京本社の総務の方、同職種の一番上のリーダーに相談しました(まぁチクったんですが)。
2人とも「は?本当にそんなこと言われたんですか??」と驚き、その日の午後に今まで話したこともない役員が僕に連絡してきて、急きょZOOMで面談をすることになりました。
「管理職としての適性を過信していた会社側の責任」
「本社では社内コンプライアンスに細心の注意を払っていたが、支店にまで行き届いていなかった」
「面談での発言は完全に間違っている」
と何度も謝罪され、年明けからはそんな環境じゃなく、もっと楽しく働いてもらえるように整えると、役員は言いました。
さて2023年も2月ですが、その後どうなったかというと…
・僕は今までの部署の仕事からは一旦離れ、本社経由の業務にあたる
・直属の上司だった人は一般的なメンバーに戻る
・かわりに東京本社から支店へ別の管理者を送り、数ヶ月かけてでも支店の体制を根本から立て直す
という状況になっていて、僕は今までとは違うメンバーと仕事をすることになり、緊張はするものの、今までのように気分を落ち込まされることはなくなりました。
ただし、再びいきなり支店の業務から離れたこと、管理職だった人を一般に戻させてしまったことで、かなり恨みを買っているのでは…という心配はありつつ……
いまだ残る謎
実際、世の中的に休職するのはひとつの権利みたいな風潮にはなっているものの、本当にそれは安心して休めるものなのか。
休職から復帰した社員に対するフォローのシステムの構築は進められているのか。
同期の2人はなぜあんなに冷たくなったのか。
いろいろな謎は残り、面倒になって転職も考えるものの、支えてくれた人、変わらずに接してくれる人もいるのは確かだし、年齢的なことも考えて、しばらくは様子見ということで…。
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