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短編小説

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短編小説をまとめています!お時間ある方ぜひお読みください!
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記事一覧

親友 (短編小説)

親友 (短編小説)

 美しく、麗しいと書いてミレイ。なんて良い名前だろう。本当にこの子にぴったりの名前だと思う。私はそんなことを考えながら、私に寄りかかり静かな寝息を立てている彼女の顔を見つめた。窓の外の景色は、凄まじい速さで私たちとすれ違った。微かに硫黄の臭いがした気がした。近くに温泉でもあるのかもしれない。私は彼女に顔を寄せ、目を瞑って眠りに落ちた。

 ミレイとは小学校の時に仲良くなった。クラスが一緒だったし、

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人生は選択の連続です!⑥(最終回)(短編小説)

人生は選択の連続です!⑥(最終回)(短編小説)

本題 「no choice no life」

※⑤をお読みでない方は⑤をお読みください。

僕はさらに高みを目指し続けた。がむしゃらに選択肢を排除していくことで落ち着くことができた。そして最終的に至った境地は「貧困」である。財は人々に多くの選択肢を与える最たるものだ。貧困の際には皆、今を生きることに必死で選択などしている余裕はない。戦時中はうつ病の患者数が減少するというのもよく聞く話だ。つまり貧

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人生は選択の連続です!⑤(短編小説)

人生は選択の連続です!⑤(短編小説)

本題 「no choice no life」

※④をお読みでない方は④をお読みください。

僕はベッドに寝転がってぼーっと天井を見つめている。心拍は非常に落ち着いていて頭もとても冷静だった。しかし鼓動は気持ちばかり強い気がした。胸から喉にかけて何か柔らかいスポンジのようなものが優しく通りを悪くしているような、そんな気持ちの悪い感じがした。息を吐くたびに頭から血の気が引くのが明瞭に感じられ、呼吸を

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人生は選択の連続です!④(短編小説)

人生は選択の連続です!④(短編小説)

本題 「no choice no life」

※③をお読みでない方は③をお読みください。

 アイスを食べ終えた僕達はチェーンのコーヒーショップに入った。僕はアイスコーヒー、亜美は抹茶オレを頼んだ。僕はコーヒーショップは好きだ。コーヒーショップでは迷うことがない。僕はそもそも甘い飲み物があまり好きじゃないからカフェのメニューでは基本ブラックコーヒーが一番好きだし、ブラックコーヒーは大抵最も安い。

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人生は選択の連続です!③(短編小説)

人生は選択の連続です!③(短編小説)

本題 「no  choice no life」

※②をお読みでない方は②をお読みください。

 そうこうしている内にケータイの画面が消え振動も止まった。しまった、結局出損ねた。僕はケータイを手に取り画面上の「亜美」という文字の横にある受話器マークを押した。
「あ、もしもし?」
「ごめん電話出損ねた。」
「いいよいいよ。てか明日ひま?」
予想的中。
「うん、ひまだよ。どっか行きたいとこあるの?」

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人生は選択の連続です!②(短編小説)

人生は選択の連続です!②(短編小説)

本題 「no  choice no life」

※①をお読みでない方は①をお読みください。

二時間ほどの睡眠を取り終え起き上がり、うつろな目で部屋の明かりのスイッチを探す。僕はベッドに腰掛け部屋の明るさに目を順応させながらじっと床を見つめていた。床を見つめていた時間は周りの世界に比べて時の流れが明らかに遅かった。というよりもはやそこに時間は存在しなかった。こういう時間の空白は誰しも時折あるのだ

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人生は選択の連続です!①(短編小説)

人生は選択の連続です!①(短編小説)

本題 「no choice no life」

クリーム色にふっくらとした凹凸を際立たせる幾何学模様が刻まれた半球は蛍光灯に照らされ輝く透明なベイルに覆われている。その隣ではきつね色にこんがり焼かれた生地の表面で今にもパリパリと音を立てんとする衣たちが僕を誘惑しようと踊っている。困ったものだ。メロンパンかカレーパンか。ここまで絞るのに何分使ったことだろう。正直まだ視界の片隅でソーセージドッグがちら

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50歳にして初めてのモテ期⑤[短編小説]

50歳にして初めてのモテ期⑤[短編小説]

本題 『考える人』⑤

※④をお読みでない方は④をお読みください。

8日3日、俺は美佳と花火大会会場の最寄駅で待ち合わせた。駅はすでに大混雑、会場へ向かう道路は歩行者天国で広々としていたにもかかわらず人で溢れていた。美佳とアルバイト以外で会うのは初めてだったがいつもと何も変わりない。服装もいつも通りすぎて俺が少しおしゃれして革靴を履いてきたのが恥ずかしいくらい。初めて花火を生で見た美佳は終始興奮

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50歳にして初めてのモテ期④[短編小説]

50歳にして初めてのモテ期④[短編小説]

本題 『考える人』④

※③をお読み出ない方は③をお読みください。

ブォォォォー
上空のプロペラはあいもかわらずこの白い部屋と外の世界を隔てるように無機質な音を発している。
カッカッカッカッ
その背後に包丁とまな板がリズミカルにぶつかる音が隠れている。その音はどこか俺を安心させてくれた。
「もう夕飯の時間か」
腕時計に目をやると針は7時を指していた。この部屋の外にはいつもと変わらぬ日常が広がって

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50歳にして初めてのモテ期③[短編小説]

50歳にして初めてのモテ期③[短編小説]

本題 『考える人』③

※②をお読み出ない方は②をお読みください。

レースがスタートした。6番はまずまずのスタートを切り序盤は中段に付けた。1番人気は先頭集団に位置し、このまま固いレースになるかと思われた。最終コーナー、1番人気がぐっとスピードを上げ先頭に躍り出る。1番人気はぐんぐんと2番手を突き放していく。すると後方からものすごい追い上げを見せる馬がいるではないか。6番だ。6番はたてがみを大き

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50歳にして初めてのモテ期②[短編小説]

50歳にして初めてのモテ期②[短編小説]

本題 『考える人』

※①を読んでない方は先に①をお読みください。

ある日仕事から帰宅するとリビングの水晶の前に妻と2人の中年女性が正座し礼拝していた。
「おい、なにしてるんだ?」
「お隣の木村さんと中山さんもボラル様のお告げをお受けしたいとのことでボラル様にお会いしにきたの。他にもお会いしたいって人が何人かいるのよ。」
「すいません、夜分にお邪魔して。」
木村さんと中山さんは深々とお辞儀する。

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50歳にして初めてのモテ期①[短編小説]

50歳にして初めてのモテ期①[短編小説]

本題 『考える人』

ブォォォォー
天井の換気扇の音はとても機械的でこの真っ白な空間だけが異世界であるかのような演出をしてくれる。ほんのり暖かい便座に腰を据え、真っ直ぐと目の前の白い壁を見つめた。白い壁はよく見ると細かい凹凸があり、網目模様を成している。
「はぁ、どう切り出そうか」
ひとりごちて俯くとスリッパに描かれた意地悪そうに笑う黒猫と目が合う。結婚29年目にしてまさか離婚を切り出すことになる

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