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超高齢社会に取り組むスタートアップとは - 金子 剛氏(KAERU株式会社) -

【イベントテーマ】:デザインは超高齢社会をどこまで“解決”するのか?
【開催日】:12月7日(水)18:30~
【登壇者】:金子 剛氏(KAERU株式会社)、吉井 誠氏(シンプレクス株式会社)、萩原 涼平氏(NPO法人ソンリッサ )、川合 俊輔(CULUMU)

はじめに

CULUMUでは、多様なユーザーと共創するをテーマにデザインイベントを2ヶ月に1度のペースで開催しております。次回はオンラインイベントにて「使いやすさ、アクセスしやすさを実現するB2Bサービスのデザインとは?」と題し、3月8日(水)18:30より開催させて頂きます。こちらからご応募可能ですので、是非ご参加ください。

KAERU社の紹介

事業内容
金子氏:KAERUなのに猫ということをいつも突っ込まれるんですけれども(笑)このようなプリペイドカードを発行しておりまして、これをシニアの方やそれを見守るご家族様に使っていただくことで、幅広い年代にフィンテックの恩恵を届けるような事業をしておりました。

MISSION
金子氏:
まさに今回の登壇のテーマにぴったりかなと思うんですけれども我々は、超高齢社会における優しい金融サービスをつくるというミッションのもと、「誰もがお買い物を楽しみ続けられる世の中にする」というビジョンを掲げています。若い方はなかなかピンとこないかもしれませんが年を取るにつれ自由にお買い物をすることが困難になっていきます。しかし年を取っても人間の大事な尊厳である「お買い物」という行動を続けていただきたい。そのためにテクノロジーが何かお手伝いできるのではないかと考えています。そういったテーマで今回お話をさせていただきます。

MISSION「超高齢社会における、やさしい金融サービス」

認知力の衰えをサポートするサービスづくり
金子氏:
例えば、個人差はありますが認知力は年を取ると衰えてきます。認知力が衰えてしまうと小銭が数えられなくなってお財布がパンパンになってしまう高齢者も多くいらっしゃいます。小銭が数えられないとレジがもたついてきてしまい、後ろの方に迷惑がかかりお買い物が怖くなってしまうような状況も考えられます。

ACジャパン様のCMの引用で高齢者の方に向けて焦らなくていいよ、といったメッセージになっております。このような啓蒙も大事ですが、そもそもテクノロジーの力でもたつかないようにすることもできるのではないかと考えております。また、認知力が衰えたことによってお金をなくしてしまうというような課題についてもテクノロジーの力で解決できるのではないかと考えております。介護のご都合でお買い物をし続けることが困難になってしまう現状を解決したいと我々は考えています。

我々のプロダクトに関する想いは、視力が衰えたら眼鏡をかけるように、認知力が衰えたらそれを補うようなツール/テクノロジー。言わば認知力が衰えた方のための眼鏡をつくっていきたいと考えています。

体験に付加価値のあるサービスづくり
金子氏:
現在のフィンテックサービスは有名どころですとPayPayのように、ポイントキャッシュバックを目的に使うというケースが多くなっています。我々はそういったポイントだけではない体験に付加価値があるような特有のキャッシュレスサービスをつくっていけると嬉しいなと思います。

超高齢社会に取り組むスタートアップとは

金子氏:超高齢社会に取り組むスタートアップと普通のスタートアップ、どう違うの?というようなことを聞かれますが実は普通のスタートアップと全然変わらないです。

金子氏:スタートアップというのは基本的にまず1人のお客様のニーズに寄り添うところから始めるのが一般的であると思っています。これはまさにインクルーシブデザインなどにも共通するようなところで、まず1人の困っているお客様のニーズに寄り添っていき、その1人のお客様のニーズを通して大きな市場を見ていく。これが一般的なスタートアップの考え方であり、超高齢社会だからといって変わることではないと思っています。

金子氏:1人目の問題を解決し、同じような人が100人、1000人いたら社会がもっと良くなるという考えのもと、まずは1人の問題を解決して、その1人の喜びの先にある社会を見ていくことを目指しています。そしてそれがスタートアップ一般的な動きでもあり、そのアプローチだけ見るとインクルーシブデザインとほとんど変わらないのではないかと思っています。

金子氏:したがって我々は実際の生のユーザーから仮説構築をすることをとても大事にしております。シニアの定義を我々が決めるのではなく、実際に使ってくれるお客様や使いたいと言ってくれるような見込み顧客の方などに回数を重ねて会うことで仮説を検証していくというビジネスの作り上げ方をしております。

私たちのValue(行動指針)

金子氏:我々は「GO EMPATHY」というバリューを掲げています。共感と同情の違いという議論をよく耳にしますが、相手の立場に立って考えるということが共感(Empathy)であり、「シニアって辛いよね」のように自分と重ねるようなことが同情(Sympathy)であると一般的に言われています。そして我々は同情ではなく、共感でものを作っていこうと考えております。

私たちが大切にしていること

金子氏:ここまで「一人一人のユーザーに幸せになっていただくことを大切にしている」というお話をさせていただきました。ペルソナを考えるときに「シニア」のためでもなく、「弱者」のためでもなく、「日本人」のためでもなく、とある「〇〇さん」のためにという方針でものづくりをすることを我々は大切にしております。デザイナーとしても、対象を抽象化してしまうとその人の顔が見えなくなってくると思っています。

金子氏:今回のような勉強会でよく「シニア向けってどのようなデザインが良いんですか?」という話が話題に上がります。「シニア向け」という一括りの考え方は一つの側面として大事ではありますが、スタートアップのように価値を鋭く届けていく時にはかなり乱暴な考え方だなと思っています。例えば、皆さんの中学の時の同級生や会社の同僚の顔を思い浮かべると、山登りが好きな人、サッカーをやってる人、読書が好きな人など様々な人がいると思います。そのような方々が年を取るといきなりシニアというように一括りにされてしまうのは結構解像度が粗いなと感じます。特にスタートアップをやっているとそう感じることが多いです。

金子氏:例えばシニア向けの事業をやった時に、デザイナーなどは上の画像のように心配な家族をそっと見守るサービスのようなアウトプットをしてしまいがちです。

金子氏:しかし上の画像の右下の写真のように「山田太郎さん」という架空の人物を設定するだけでグッと解像度が増します。例ですが、「おじさまはハートマークは身につけたくないんじゃない?」とか「心配なんてされたくないよ」「男女の好みは全然違うのに一緒にしないでくれ」のような意見が考えられます。ステレオタイプのペルソナに対してものづくりをしていくことはスタートアップのビジネスではないと思っています。

金子氏:「シニアだから」「弱者だから」「排除されているから」といったところからものを作っていくのではなく、「山田太郎さんが現在どのような課題を持っていて、どうしたらそれが解決されるのだろうか!?」という「ユーザー視点から仮説を構築」していくことが「スタートアップの王道」でもあり、「超高齢社会に必要なデザインの本質」でもあると思っています。

金子氏:先ほどの同情と共感の話ですが、「山田太郎さん、認知力が落ちて辛いだろうなぁ」のように同情ではなく「山田太郎さんは今どんな気持ちだろう?何に困っているのだろう?」というように共感を意識し、観察=ユーザーリサーチしながら作っていくことが大切ではないかと思います。

金子氏:余談ですが、KAERU株式会社は以前「みまもりペイ株式会社」という社名でしたが、山田太郎さんみたいな方からすると見守られているペイって持ちたくない、監視されている感じがして嫌ですよね。なのでちゃんと物が「買える」という意味を込めて「KAERU」という名前にしました。
主語をきちんとお客様にしてつくっていくという想いが会社名にも表れています。

事業の学び

金子氏:フィンテックサービスに関する話ですが、例えば端数が6円でキリの良いお釣りをもらうためにいくら出すかの計算をする必要があると思います。しかしQR決済は細かい計算の必要がなく、する必要がないことをしなくて良いなら便利だと私は思っております。

金子氏:そういった新しいサービスのハードルになるのが「経験」です。今でこそ使い慣れているかもしれませんが、皆さんは最初にPayPayを使った時のことを覚えていますでしょうか。私もPayPayが出始めた当初、電化製品屋さんで使おうと思った時に「PayPayでお願いします」が恥ずかしくて言えなかったり、本当に決済されるのかな、と思いレジの前でウロウロして結局買わずに帰ったみたいな経験があります(笑)

社会背景により技術の習得度は異なる

金子氏:私の世代はガラパゴスケータイの時から入ってきたのでポケベルは使ったことがありません。なのでおそらく今ポケベルを使えって言われると使うのは難しいなと思います。

未来の話に目を向けると、5、10年後はもしかしたらスマートグラスみたいなもので通話してるかもしれませんが、実際に持っていないと全然使うイメージが湧かないと思います。でもやってる人からするとこんなのカメラつけて起動するだけじゃんって思ったりします。したがって生まれた時代背景によって経験の習得度は違ってくると思います。

初回の失敗体験

金子氏:新しい手段を使うと、失敗をすることがあるかと思います。例えばPayPayを使い始めた時にお店で「お客さん、うちPayPay使えないんですよ」と笑われてしまったらその後は使わなくなってしまうのではないかなと思います。初回で失敗をしてしまうと、現金やクレジットカードなどの他の代替手段があるからいいやというようにそこで心が折れてしまいがちです。

予期的UXの重要性

金子氏:初めて使う方の失敗を未然に防ぐためにも予期的UXというのが必要だと思います。

サービスづくりをしていて、初回の体験の思い出が予期的UXを超えていくことが大事だと感じます。新しく、より便利なものを使ってもらうと言えど、失敗を繰り返すとどんどん予期的UXが悪くなっていくケースはよくある話です。こういったサービスを提供させていただく中で我々は、早めに「使える喜び」を体験してもらうことを大切にしています。繰り返しPayPayの例になりますが、本当にこれで決済できるのか?というような不安や本当にお金入ってるのかな、スムーズに決済できないんじゃないかなという予期をなくしていくことが大事だと思っています。

お客様の声

金子氏:利用中、利用後、全体の時間がすごく幸せだったというお話をいただきました。その他にも上の画像のようなお声をいただき、意外と難しくないことの方が多いのではないかと思っています。私も最近NFTアートを購入するという新体験をしたんですけど、最初は難しいと思っていましたが買ってみると意外と大したことないと感じました。そういうことって世の中に多いのかなと思っています。

心理的ハードルを予期的UXから改善していくことの大切さが、私がUXデザイナーをやっている中での一つの学びです。

まとめ

金子氏:今回は超高齢社会のためのスタートアップKAERUで行っていることをお話させていただきました。

金子氏:私はエクスペリエンスデザイナーということで体験をつくるデザイナーをやっております。今回お話しした学びは自分が実際にKAERU社で働いていて感じたことや事例を紹介しました。
こういった話ができる仲間を募集しているのでぜひ興味ある方いらっしゃいましたらこちらのQRコードを読み込んでフォローいただけると、今回の話の続きなどをお話しできるのでよろしくお願いいたします。


KAERU株式会社金子さんによる「超高齢社会に取り組むスタートアップとは」は以上になります。ありがとうございました!

次回、続いての登壇者はNPO法人 ソンリッサ 代表理事の萩原さんです。
シンプレクス株式会社は金融のコンサル業界のパイオニアです。
吉井さんはUXデザインチームAlceo(アルセオ)にて、大型案件から個人向けアプリまで幅広い開発現場での実践的UXデザインを推進しておられます。次回の記事もぜひお楽しみください!

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