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ゲストライターのご紹介:ホーチミン出身のサービスデザイナー ラタン・トゥク氏

私たちCULUMUは、2023年の1月からnoteを使った新しい取り組みを始めます!私たちのnote連載企画の一環で、インクルーシブデザインに関連のある方々をお呼びし、ゲストライターとして記事の執筆をお願いしようと考えています。ゲストの方々には、インクルーシブデザインに関わる様々な知見や経験談などを提供していただきます。ゲストの方々の持つ様々な知見や経験は、私たちCULUMU含め、読者の皆様にとって、インクルーシブな事柄やマイノリティに対する認識の助けになるのではないでしょうか。
ゲストとしてお呼びする方々には、この場を借りて多大なる感謝を申し上げます。

連載開始いただくゲストライター、1人目はラタン・トゥクさん!

一人目のゲストは、多摩美術大学情報デザイン学科情報デザインコースを卒業し、今年から株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)に入社し、サービスデザイナーとしてご活躍されているラタン・トゥクさん(以下:トゥクさん)です!

トゥクさんはベトナムのホーチミン市出身で、7歳の時に日本に移住し、現在まで主に日本を拠点として活動されています。今回はそのトゥクさんに対して行ったインタビューを元に、ゲスト紹介を行いたいと思います。

ラタン・トゥクさん

場作りの楽しさに出会ったきっかけ

CULUMU:トゥクさんが、「サービスデザイン」や「デザインマネジメント」の領域に興味を持ったのは、どのようなきっかけからでしょうか?

トゥクさん:美術大学の入学試験では、平面構成などのようにデザインの基礎的な色彩感覚や技術力を養う試験があり、それらを勉強して入学しました。でも、ヴィジュアル的な「デザイン」を学んで入ったものの、あまり自分に合っていないなと感じました。数十時間かけて作った「デザイン」も人に見られるのはわずか数秒です。誰かを喜ばせる体験をもう少し長いスパンで作れたらな、と感じた時がありました。

私の在籍していた情報デザイン学科は認知度はあまり高くありませんでした。しかし、情報デザイン学科はとても面白いことをしているのに、と感じていました。そこで、友人たちとオープンキャンパスで何か出来ないか?と考え、清水先生に相談に行きました。その際に清水先生から、「自分たちでチームを作り、宣伝するための企画を考えてみたら?」と言っていただきました。そこから情報デザイン学科の魅力を伝えるために、仲間を集め大学一年生の終わり頃から企画を考え始めました。その時に、組織とかメンバーで何かを行うことが楽しいなと思いました。
そのような自分の気持ちを清水先生の話したところ、「じゃあ、トゥクさんは、もしかしたらデザインマネジメントとか場作りというところに向いているかもしれないね。それらもデザインの手段の一つだから意識して学んでみると良いかもね。」と言っていただきました。
それ以降、デザインは目に見えない場所とか関係性を捉えて「デザイン」する、みたいなところも対象なのかなと思ったことがきっかけです。

トゥクさんのポートフォリオから伺える場作りのデザイン

苦手だからこそデザインを学ぼうと思った

CULUMU:「デザインマネジメント」という領域に出会う前に、トゥクさんがデザインを学ぼうと思ったきっかけは何ですか?

トゥクさん:元々は自分はベトナム語が分かるし、ベトナム語と日本語の通訳などの仕事ができたらいいな、と思っていました。でも自分が中学生くらいの時に、iPhoneが出て、高校生くらいの時に使い始めたら、自分が通訳士になることが良いのか悩み始めました。これからの世の中はITとかAIが発展して、そうしたら通訳で食っていけないんじゃないか?と。そこからクリエイティブな仕事を志すようになりました。

元々絵を描くことは好きだったので、美大に行こう!と思いました。最初は油絵学科とか日本画とかに行きたかったんです。でも絵を描くことは好きな一方で、デザインをすることは苦手意識がありました。当時の自分は、高い学費を払って出来ることをやってもしょうがないなという思いもあり、苦手なデザインを学ぶためにデザイン科に行こう!と思いました。そしていろいろな学科を受験した結果、情報デザイン学科に入学することになりました。

CULUMU:iPhoneの話の際にもある通り、トゥクさんは進路決定の際にしっかりと自身の生業に出来る学科への進学を考えているように感じました。私自身、進路決定の際に、自分がやりたいことをやろうとの気持ちだけで進んでいった記憶があります(笑)。トゥクさんはしっかりと将来を見据え、とても素晴らしいと感じました。
トゥクさんは入学後も積極的にインターンなどに参加されている印象がありますが、早めに就職活動等を考えていましたか?

トゥクさん:いや、多分それは全くなかったと思います。私の在籍していた情報デザイン学科では、かなり幅広くデザインを学びます。それもあり、自分が何を勉強しているのか不安になった時がありました。そんな時に、元々Goodpatchなどで働いていたUI/UXデザイナーの田中翔子さんの講演を聴く機会がありました。そこで初めてサービスデザインという言葉を知り、非常に感銘を受け、翔子さんに弟子入りさせていただきました。そこからUI/UXを勉強し、結果的に様々なご縁がありインターンをさせていただきました。なので、最初から決めて突き進んで行ったというよりも、目の前の事をやっていたら今の形になった、という感じです。

人と出会うことでデザインの対象が広がる

CULUMU:トゥクさんは、先ほどから話にも出てくる清水先生や田中翔子さんとの出会い、ご自身でのチーム作りやメンバー集め、また2年次に制作・デザインされたマッチングアプリ「Filtomo」など、「人との出会い」を大切に感じているようにお見受けします。デザイナーにとって、多種多様な「人と出会う」ことはどのような意義があるとお考えでしょうか?

トゥクさん:私は、デザインに出来ることの一つとして「翻訳」があると考えています。デザインを行う際の対象として、AさんBさんなどがいるとしたら、この二人は同じ人間だとしても持っている価値観や捉え方は違います。その時デザイナーに求められるのは「共感力」だと私は思っています。要するに、それぞれの立場や気持ちになって考えてみることが非常に重要だということです。そんな共感力を持ちながら、そこから得た気付きをポジティブな形で具体化し表現していくことが多分デザインに出来ることではないかと思っています。

デザインに「翻訳」としての役割があるとしたら、デザイナーとして色々な価値観の人と出会うということは、自分の引き出しを増やしてくれると同時にデザインの対象を広げることにも繋がると思っています。
なので、デザイナーとして色々な人に出会うということは、様々な境界線を知ることでもあります。そして、人と人との境界線を滑らかにしていくことがデザインに求められることだと考えているので、私はたくさんの人と出会い吸収していこう、と心がけています。

CULUMU:ありがとうございます。私もトゥクさんのお話を聞く中で、「人と出会う」意義に関して気付かされました。一方で、「人との出会い」はネガティブな側面もあるかと思います。トゥクさん自身もそうしたネガティブな側面を踏まえつつも、コミュニケーションが好きである理由などあればお聞かせください。

トゥクさん:私自身6歳の時から日本に引っ越してきて、当時は全く日本語が話せませんでした。実際学校ではいじめられる対象にもなりました。当時は異質な存在がいじめられるのは仕方無い、と思っていました。年齢を重ねていくうちに、様々な良い人とも出会い、当時いじめをしてきた子のネガティブな思いは、もしかしたらその子が外国人などと出会った事が無いから発生しているのかもしれないと考えるようになりました。そのように環境的な要因によって子供の間でのネガティブな思いが発生しているとすれば、今後私と同じ思いをする子が出てきてしまいます。そう思うと、自分がデザインで何か貢献できれば、というより行動しなければ、という半分使命感みたいなものがあり、積極的にコミュニケーションを取るようにしています。

トゥクさんが2年次の課題で制作したマッチングアプリ「Filtomo」

「余白」が引き出すユーザーの「主体性」

続いて、トゥクさんの直近の制作物である卒業制作の「なりきり対話サークル」に関して質問をさせて頂きました。

CULUMU:ここからはトゥクさんの卒業制作に関して質問させていただきます。トゥクさんの卒業制作では、「学び」と「遊び」が非常に良い塩梅で構成されていたように感じました。実際制作時にはそのような事を考えて制作されたのでしょうか?

トゥクさん:制作時には「学び」と「遊び」の両立の目的意識は特になくて、結果的にそのような形に着地しました。私の卒業制作では主に、「人が何かを楽しんで、そこから何か気付きを得られる体験」を作ろうと意識していました。それが人にとっては「学び」であっても良いし、全然「楽しかったな」だけでも良いんです。ただ、自分の「知らなかったことを知れる体験」みたいなものは意識して作りました。

私はデザインフィロソフィーとして「自分の作るデザインによって誰かの背中を押したり、人生を応援すること」を掲げています。それぞれの人にとっての良いは違うと思います。それでも私は、皆様にポジティブでいて欲しいと思っています。ポジティブでいる為には、多角的な視点を持って物事を見ることや、柔軟性を持って物事を考えられることが大切だと思います。これを鍛えるために重要なのは、知らない価値観を知ることであり、私はそういう知らない価値観に触れる機会をデザインで実現したいと考えています。そこから繋がり、私の卒業制作の形になった、と思います。

CULUMU:そのような経緯や意図があったんですね。確かにトゥクさんの卒業制作を見て、私もたくさんの価値観の存在に気付かされました。
また違った要素として、トゥクさんの卒業制作の中に、「主体性」を大切に考えている姿勢が見受けられました。ユーザーの持つ「主体性」に関してのお考えを聞かせください。

トゥクさん:私がUI/UXデザイナーとして設計する際、ユーザーに対してどのような画面表示・情報表示をすれば良いのか?などを考えて設計しています。それは良い反面、ユーザーに対して体験を押し付けているとも捉えられるのかなとも思っています。それが私自身、仕事をする上でのジレンマとしてあります。そう思った時に、もう少しユーザーが考える「余白」を残してあげるという事が非常に大切だと考えるようになりました。卒業制作においては、この「余白」を全てデザインしてしまうことがないように心がけ、遊び方の「ルール」というのは決めていません。しかし、完全に自由にするのではなく、一つだけ方針は定めていますが、あとはユーザーの「主体性」に任せるように設計しました。あえて「余白」を作ることで、ユーザー自身の「主体性」を引き出すことに繋がると信じています。

トゥクさんの卒業制作「なりきり対話サークル」

※卒業制作時のより詳しい内容については、是非トゥクさんご自身のnoteをご覧下さい!

「摩擦」がある事で自分らしさに気付く

CULUMU:トゥクさんの卒業制作において、「自分らしさ」というキーワードがありました。「自分らしさ」を表現することがまだまだ難しい世の中だと思いますが、個々人が自分らしさを表現していくことが可能になる為にデザイナーが出来る事は何だと考えていますか?

トゥクさん:「自分らしさ」って何かしらの「摩擦」を感じないと気付かないことなのかなと思います。例えば、都心と地方の進学に関して言うと、都心においては進学するのが当然な風潮があると思います。しかし地方になると、就職をされる方も多く、もしかすると地方によっては就職される方が多い場合もあると思います。そんな地方において、「自分は進学する」と言う強い意志を持って進学した人は、その時何かしらの「摩擦」を感じたと思います。このような「摩擦」がないと、自分のしたい事や大事にしている事には気付けないと思っています。

「摩擦」が少ない社会とは果たして良いことなのだろうか?という問いが私の中にはあります。私が実際に日本に住んでみた感想として、日本は「摩擦」の少ない国だと感じます。日本語を話す人がほとんどで、買い物や交通の不便もそれほど感じません。しかしベトナムに帰ると、色々な国籍の人がすぐ隣にいて、マナーや言葉も違います。そのような「摩擦」の多い環境にいる事で初めて自分のマナーの是非を判断することが出来、その次にようやく「自分らしさ」を考えることが可能になってくるのかなと思っています。

ここでデザイナーが出来る事というのは、この「摩擦」を感じられる問いを可視化して、人々に投げかけることと考えています。アートとしてなのか、体験としてなのか分からないですが、この問いを社会に対して可視化していくことが大切であると感じています。なので私もnoteを書いたり、podcastで配信を行なったりしています。

「なりきり対話サークルを実際に楽しみそれぞれの価値観を体験している様子

トゥクさんとCULUMU

CULUMU:たくさん勉強になるお話をありがとうございます。私自身もっと聞きたいことがありますが、お時間もあるので次で最後の質問にしたいと思います。
トゥクさんとは今回ありがたいことにご縁があり、CULUMUのnote記事作成のゲストライターとしてお願いすることになりました。トゥクさんがCULUMUに対して思うことや、今後CULUMUに対して望むことなどあればお聞かせください。

トゥクさん:CULUMUさんは、私自身が「こういう風な形でデザインと関わりたい」と思っている事の実現に向かって活動されているので、すごく応援しています。
私は、インクルーシブデザインには、「インクルーシブなデザインをやる意味はなんだろう?」という問いがあると思っています。その一つの答えとして、インクルーシブデザインを通してマイノリティの為にデザインしたプロダクト等が、既存のユーザーに対しても効果を発揮する場面があると考えています。
例えば、片手で切ることができるハサミがあったとして、それは両手を使えるユーザーのみを見ていたら思いつかないことだと思います。そんなハサミがあることで、障害のある方のみならず、育児中の片腕しか使えない状況にある母親などに対しても手助けする事に繋がるかもしれません。
このようにインクルーシブデザインは、いわゆる「ニーズが共鳴」している状態を作り出す可能性を秘めていると考えています。

これから私は、CULUMUのゲストライターとして外国人として、日本に来た私自身の経験や、アイデンティティで悩む若者などの視点から知見等を交換できれば良いなと考えています。

終わりに

今回はゲストライターとして参加していただくラタン・トゥクさんをご紹介しました。
実際に1時間程度のインタビューをさせていただき、トゥクさんの考え方やデザインに対する姿勢などを伺うことが出来、非常に勉強になりました。
デザイナーだけでなく、たくさんの人と出会い、対話をし、多様な価値観を知ることは有益であると思います。そうしたきっかけづくりの場としても機能するであろうトゥクさんの卒業制作には大変感銘を受けました。もしまだ見られていない方がいらっしゃいましたら、是非トゥクさんの卒業制作「なりきり対話サークル」をご覧ください!

また、トゥクさんの卒業制作における「対話を楽しみ共感を育む」という考え方は、インクルーシブデザインの出発点としても非常に大切な考え方だと感じています。その為、本記事をご覧の方々だけでなく、インクルーシブデザインスタジオである私たちCULUMUにとっても、今までのトゥクさんの制作物や、今後のトゥクさんとの関わりの中で得られる気付きが多くあると考えています。
次回からトゥクさんの連載がはじまります。
ご愛読のほどよろしくお願いいたします!

CULUMUのnoteでは、今回のようなインタビュー形式での連載も検討していますので、今後ともご愛読のほどよろしくお願いいたします!
トゥクさんの制作事例などはトゥクさん個人のnoteなどにもたくさん掲載されています。是非ご覧ください!

CULUMUのWebサイトはこちら


とぅく / Lathanh Truc:DeNAデザイナー
ベトナムホーチミン市出身。
多摩美術大学情報デザインコース卒。Takram UIデザインインターン生。
「UX/UIデザイン」「デザインマネジメント」「対話する場づくり」「ひとりひとりの背中を押して、人生を応援するデザイン」
デザインを語るポッドキャスト「なにからデザイン」配信中!


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