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用の美〜私の好きな器その5

(民藝)

私の台所にあるたくさんの器や道具。
愛おしいけれど、どれもあまり高価ではありません。
日々の暮らしを支えるものたちだから、
長く使っているものは、手仕事ではあっても量産品で、価格も作家ものよりずっと安く、耐久性も高いと言うものがほとんどです。

生活にまつわる道具、特に器は使ううちに壊れやすいもの。
けれど、長く愛用してもその酷使に耐えてくれる作り手の高い技や、繰り返し使うことで徐々に生まれる経年変化が素敵だと思えるものも多くあります。
使いやすい、盛りやすい、味わいが生まれるなどの魅力、手仕事の美しさが一つ一つの愛おしさにつながっているのだと感じます。

このような実用性を備えた簡素な美しさを「用の美」とたたえて大切に思う流れがあり、
美術品を目指したものでなく、あくまでも使うために作られた道具の中で、独自の美しさを放ち、大切に現代に作り継がれてきたものこそが、民藝です。

観光地でよく見かける土産ものが民芸と誤解されることもありますが、あくまで本来の民藝の価値が評判になったことを受けてのちにあちこちで発生した手作りもしくは大量生産の実用品たちであり、ここでご紹介したいそれとは異なります。
実用的でも、あるいは手仕事であっても、そこに美しさがなければ、民藝とは言えないのだと思います。

いま、東京国立近代美術館で開催中(〜2/13)の「柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年」と言う展覧会で、このご時世にもかかわらず訪れる人の多さ、注目度の高さに改めて驚きました。

名もない職人さんたちが、日々の暮らしで使われることを前提にして手仕事で生み出す様々な道具や器、染織や木工品の数々は、100年経っても色褪せない魅力を放っています。
福岡の小石原焼や大分の小鹿田焼、沖縄のやちむんなども、いずれも何百年も前から作られ続けるなかで、大正時代に始まった民藝運動によってモダニズムの新たな風を吹き込まれ、その後も民藝として大切に受けつがれてきた歴史があるのです。

民藝運動の創始者たちによって日本各地で広まったイギリスの古陶、スリップウェアもその一つ。
生乾きの粘土板にスポイトや櫛目などで模様を描き、その後成形すると言う独特の技法で、シンプルで主張しすぎない控えめな美しさは、現代でも人気の高いものです。

柳宗悦やバーナード・リーチなどの創始者たちが、この魅力に魂を揺さぶられ、強い熱意を持って17世紀に一度はイギリスで消えたこの古い陶器を再び蘇らせたのち、日本各地の窯元さんたちが、その実用品としての美しさを今も継承し続けています。

民藝のうつわは、このようにそれぞれの土地特有の独特の強い個性や存在感を持っているので、食卓のすべてを民藝で揃えるのではなく、白や黒、木などのシンプルな器やガラス器などと合わせたりすることで、その器たちの持つ温かみや、手仕事の確かな技が存分に味わえると思っています。

民藝と言えば、籠も。

好きすぎて、我が家は壁にも、棚やカウンターの上にも、どこを見渡しても籠だらけです。
私のような買いすぎは駄目ですが、
食卓の器たちの中に、籠がなじんでいる様子がなんとも温かくて心地が良いです。
平らなものは、葉をしいて皿代わりに。少し深さのあるものは、パンを入れたりおむすびを並べてみたりと、使い道は数え切れません。それほど日々籠使い?の荒い私。
ほかにも、銅のおろし金や、南部鉄瓶など、食べる暮らしにいつしかしっかりと根付いた道具たちもそうです。
いずれも長年にわたって壊れることもなく、手仕事がどれほどの高い技で形作られているか、使ってみるとその機能的な側面を強く実感させられます。

このような民藝のあれこれを実際に手に取ることのできる、おすすめの場所がいくつかあります。
柳宗悦に続き、民藝を発展させた功績の高い鳥取の医師、吉田璋也が手がけた「鳥取たくみ」と東京・銀座の「諸国民藝たくみ」、東京・新宿の「備後屋」、南青山の「べにや民芸店」、岡山と大阪にある「くらしのギャラリー」、神奈川・鎌倉の「もやい工藝」などです。
こうした民藝の店を訪れてから、魅せられた器の窯元に直接赴いたり、陶器市や骨董のイベントなどで出会うのも新たな楽しみに。

お好きなものを見つけたらぜひ連れ帰り、しまい込まずに日々使うのをお勧めします。
伝統に裏打ちされた使いやすさと、機械製品にはない美しさを愉しめるのです。

なにげない日々の暮らしの中で、芸術品ではないけれど、手に取り長く使い続けながらその美しさを愛おしむことのできる民藝。

雑器とも呼ばれたささやかな道具たちが、
かつては、農村など地方の生活改善といった社会の問題提起や当時の衣食住の提案などに大きく寄与し、また現代にあっては、徐々に人々のなかにしみ込み始めているサスティナブルな思考にも寄り添う存在になっているのだと、書きながら改めて実感しました。

民藝の100年展。
注目度の高さは、そうした点にもあるのではないでしょうか。


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