それLGBTQ関係なくね?~タレントryuchellさんへのバッシングについて
(画像出展:「【ぺこ&りゅうちぇる】若過ぎる結婚・出産に不安の声も「僕たちはやりたいことをやるだけ」と一掃! 親になって芽生えた“覚悟”を語る」より)
こんにちは、烏丸百九です。
あっという間に年末になってしまいました。
今年はTwitterを凍結されたり、結局諸事情でYoutubeデビューが間に合わなかったりと、計算違いや残念なことも多かった年でしたが、オリンピック反対デモに参加したり、こちらのnoteに多くの読者の皆様からの反響を頂戴したりと、得たものも多い年でした。
note読者の皆様、本当にありがとうございました。来年もどうかよろしくお願いします。
これが今年最後のnoteなのですが、こんな極左番外地みたいな場所で一年まとめみたいな事を言っても仕方ないし、私はキリスト教徒でも天皇主義者でもないので、年末年始にその年の重要な何かが……みたいな議論には与しません。天皇制は廃止すべきです。
ということで、最後は平常運転……と言いつつ、今年中ずーっと気になっていた、タレントryuchellさんに対するネット民の猛バッシングと、それに関係するLGBTQ批判への反論を書いていきたいと思います。
(話題の性質上、性差別、出身地差別、異性愛至上主義などの内容が含まれています。閲覧には注意してください)
1.簡単な経緯説明
芸能ニュースに疎い方(含む>私)には全くこのトピックをご存じない方もいると思うので、私なりに簡単に説明します。
アーティスト・モデル・タレントなどの活動で知られるryuchellさん(「りゅうちぇる」から2021年に芸名を改めたそうです)と、その妻でパートナーとして知られていたpecoさん(「ぺこ」から以下同文)が、今年8月にryuchellさんより「父親であることは心の底から誇りに思えるのに、自分で自分を縛りつけてしまっていたせいで、夫であることには、つらさを感じてしまうようになりました。」とのコメントがあり、離婚されることとなりました[註:事実婚とどう異なるかについてはコメントされていません]。
長年、芸能界の”ベストカップル”の一組として知られていたお二人の離婚には多くのファンが衝撃を受けると共に、ryuchellさんの「新しい形の家族」というコメントに対して、一部から批判が殺到することとなりました。
そのような中でも、生活実態が変わるわけではないとのryuchellさんのコメント通り、家族は離ればなれになったわけではなかったようなのですが、先日開かれたクリスマス会にryuchellさんが不在だったことが報じられると、再びSNSなどで彼への批判が噴出しました。
まず私の感想をコメントしておくと、ryuchellさんのファンの方には申し訳ないのですが、上記のような批判が出てくること自体はある意味「仕方ない」と思います。
従前よりryuchellさんは、『イクメン オブ ザ イヤー2018』などという、まるで男性が子育てすることが当たり前でないかのような差別的な賞を受賞し、「個人としてしっかり思い合えるパパがイクメンなんじゃないかな」などとコメントしており、受賞自体は当人の責任ではないとは言え、従前から異性愛規範に批判的なスタンスを取ってきたとは言い難い人物です。
そんな方が、”(男女の)ベストカップル”という極めてステレオタイプ的なタレント像を引き受け、またそれが「ファンに受けていた」以上、婚姻関係の解消が一部ファンからの反発を招くのは、如何とも避けがたい事態のように思います。芸能人のゴシップに興味を持つような人がバカなのは仕方がありません。
そんな私がバカなツイッタラー共のryuchell批判の中で「不当だ」と感じたのは、彼のコメントや従来のタレントイメージからryuchellさんを「LGBTQであるに違いない」と決めつけ、それが離婚理由であるかのように難詰するもので、端的に言って差別的としか言いようがないのですが、一見して尤もらしい詭弁や事実誤認が多いのも実情なので、今回はそれを一つ一つ反駁してみようと思います。
2.それはLGBTQと関係ねえ!~ryuchellさん批判への反論
ということで本題に入るのですが、言うまでもなくサイテーな差別的ツイートばかりを取り上げるので、閲覧には改めてご注意下さい。
a.「性自認が違う」とは言ってない
このツイートのように、「ryuchellはトランスパーソン(ノンバイナリーorトランスフェミニン)に違いない」と決めつけたコメントが無茶苦茶多いのですが、先に引用した記事を読めばわかるように、ご本人は「自分はトランス」だとは一言も言っていません。
こちらはご本人のエッセイ連載となるアエラドットの記事ですが、あくまでも言っているのは「本当の自分を隠していた」「”夫”らしさが辛かった」ということであり、本人の”フェミニン”とされる風貌や、LGBTQに親和的と言われる性格をもって、「トランスジェンダーであると告白したに違いない」と考えるのは、他人である我々のひとつの解釈であって、確定的な事実ではないと考えられます。
また、pecoさんはryuchellさんの「告白」に対して批判しておらず、むしろ感謝していることもわかります。
あと、フツーに解釈すれば「夫だから男らしくしろ」というプレッシャーは、ryuchellさん自身の心の問題ではなく、家父長社会的なジェンダー抑圧の問題であって、本人が「そういうプレッシャーがあると感じている」こと自体は、フェミニズム的にも問題視されるべき事ではないでしょう。まあツイッタラーごときに構造的差別の問題を理解するのは難しいのかも知れませんが……。
特にTwitterのトランスヘイターは、これらのryuchellさんの行動を持って「だからトランスジェンダーは自分勝手なのである」などと言っているケースが多いのですが、言うまでもなくpecoさんとの離婚はryuchellさんの個人的な選択であり、たとえ彼がトランスパーソンであったとしても、それをもってヘイトスピーチを行う事が性差別であるのは語るまでもありません。
(補足:トランスパーソンの性的対象について)
b.「自分がLGBTQの代表」だとは言ってない
こういう「LGBTQのくせに生意気だぞ」みたいなコメントも異様に多いのですが(「ブン殴りたい」って表現が実にDV夫的で最悪ですね)、そもそもryuchellさんは「自分はLGBTQ(の代表)」みたいなことは一言も言っていません。
上記のコメントについて、ryuchellさんが広義の「クィア」であると解釈することは可能だと思いますが、女性愛者であるとも話していることや、「今は人間が人間を愛する時代だなって僕は思う」と(おおよそLGBTQプライド的には意識が低いと言われそうな)ごく月並みなコメントをしているところを見ても、彼が「LGBTQの代表面をしている」というのは、いくらなんでも難癖に近いのではないかと思います。
というか、こういう人に是非お聞きしたいのですが、例えばryuchellさん以外で「LGBTQの代表面をしている」タレントにはどんな人がいるんでしょうか。単に自分がLGBTQに詳しくないし興味もないから、嫌いなryuchellさんを槍玉に上げているだけなのでは?
c.「新しい形の家族として離婚した」とは言ってない
前項で書いたとおり、ryuchellさんのコメント「新しい形の家族」については非常に批判の声が多いのですが、そもそも(やっぱり)彼はこのツイートのようなことは主張していません。最初に引用した記事をもう一度掲載してみます。
文章を普通に読めば、「新しい形の家族」というのは「離婚によって(法律上の)形態が変わってしまった自分の家族」のことを指している言葉であって、ryuchellさんが「新たなライフスタイルの提唱」として「新しい形の家族」というワードを用いているわけではありません。これは殊更に「新しい形の家族」をセンセーショナルに報道したマスメディアの責任もあるとは思いますが。
百歩譲って、「ryuchellが(離婚しただけの自分を)「新しい形の家族」などと主張するのはおこがましい」という非難を認めたとしても、日本では同性婚が法律的に認められていないのですから、「2人で子供の"ママ"として生きて行く」ことは国に許可されていません。「オマエはLGBTQなんだから違法行為をやれ」とでも言いたいんでしょうか。
と申しますか、同性婚が出来ないことで「家族」として認められずに苦しんでいるひとたちがこれほど存在するのに、よくまあヘテロの分際で人様に向かって恥ずかしげもなくこんなことを主張出来たものだと思います。ツイッタラーの傲慢さには限度がありませんね。
d.沖縄県民差別
沖縄差別主義者はインターネットをやめろ。
3.結局クィアヘイトが繰り返される日本の芸能界
大体SNS上のryuchellさんへの批判は上述したa~dの何れかのパターンに収まるように見えましたが、反論したとおり、地方差別のdを除くa~cはどれもLGBTQへの根強い偏見と、差別を再生産する芸能界の構造を強く感じさせるものでした。
日本芸能界は、古くからLGBTQの噂があるタレントに対して「ゲイ能人」などと揶揄的・差別的な呼び方をしたり、タレント自身も「オネエ芸人」を自称するなど、LGBTQへの偏見や差別を助長しかねない行為を繰り返してきた実態があります。
それに対し、「芸能界好き」「ゴシップ好き」のファン達もまた、LGBTQのタレントに対する差別的な見解を再生産し続けてきたのであり、ryuchellさんへのバッシングは(「あるべき家族の姿」なんて高尚ぶった話ではなく)そうした古くさくて連綿と続くゲイバッシングの現在地に過ぎないのではないかと思います。
日本の芸能界が、その時代遅れの体質と、悪質で中傷的なファンのために没落するのは勝手ですが、それに他のLGBTQの人々を巻き込むのは甚だ迷惑な話です。
反駁コメントでも触れましたが、こういうバッシングを嬉々として行っている人たちは、見ず知らずの芸能人の家庭事情を批判する前に、よく知りもしない相手を「ブン殴りたい」とまで言ってしまう、ヘイトスピーチを止められない自分たちの心の暗黒に向き合うべきではないでしょうか。
イーロン・マスクの元でより差別的・破滅的になっていくTwitterを眺めて、そんなことを思いました。
4.【追記】pecoさんとryuchellさんからの経緯説明がありました
23年2月10日、pecoさんが自身のYouTubeチャンネルにて「最近のわたしたちについて」というタイトルの動画を投稿されました。
ご本人の口から極めて誠実に「色々な御意見」に対する釈明を行っているので、是非とも動画を見ていただきたいのですが、やはり動画中でもryuchellさんが「トランスフェミニンである」と明言はしておらず、単に「容貌が変わった」と言及するに留まっています。ただし、セクシャリティ的にはどちらかというと男性愛者であるそうで、夫婦関係(家族関係ではない)の解消の主たる理由のひとつではあるようです。
お二人ともファンに謝罪しつつ「色々な御意見」を尊重する姿勢を見せていらっしゃるのですが、売れっ子芸能人としてこういう態度を見せるのはある意味仕方のない面はあるにしても「セクシャルマイノリティを憶測で非難するマジョリティに対し、マイノリティ側が謝罪する」という構図になってしまっているのは、日本社会の救い様の無さを端的に表現しているのではないでしょうか。
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Twitterは相変わらずイーロン・マスクの陰謀で凍結中ですが、現在はマストドンでも活動中ですので、よろしければフォローやブックマークをお願い致します。
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