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マジカルナイト

(眩しい・・あれ・・ここはどこだっけ。天国?)

プナカの日が沈む。
明かりもなく、何も見えない。
砂利道を進む僕を乗せた車の音が闇に消えていく。
ごおっという水の流れる音だけが川の存在を感じさせる。

やがて、1つの建物の前で車がとまる。
建物から人が出てくる。僕は車から降り、その人たちの元へ近づく。
そうここは今夜のホテルだ。
出迎えてくれたスタッフが優しい口調で挨拶をし、建物の中へと促す。

案内されて大きな門をくぐって石畳の外庭を進むと、木とガラスのコントラストが美しい建物にぶつかる。
中に入ると高い天井に、ソファや暖炉が配されたあたたかな空間が広がる。
体は一気にリラックスモードだ。

ソファに座って、ウェルカムドリンクを飲んでいると
支配人らしき女性がやってきた。
優しい眼差しと口調で、今日はあなたのためだけのホテルです、という。
どういう意味かと思ったら、なんと今日の宿泊客は僕だけらしい。

夕食を食べにレストランに行くと、10ほどあるテーブルにはもちろん誰もいない。
窓際の席につくとただひとりのゲストのためだけのブータン料理のフルコースが始まる。
照明は落とされテーブルのキャンドルだけが揺れる。
BGMは外から聞こえる虫たちの声だけ。
静寂の中であらゆる感覚が研ぎ澄まされていく。

素晴らしい料理を愉しみ、夢見心地で部屋に戻って、
そのままふかふかで大きなベッドに潜り込む。

たった一人の客であっても最高のおもてなしをしてくれる。
時々談笑をしに来てくれたスタッフ、
部屋を美しく整えてくれたスタッフ、
少し風邪気味だった僕に気付いてジンジャーティーを出してくれたスタッフ

魔法にかかったみたいな夜だったなぁと幸せな気持ちで眠りにつく。


(眩しい・・あれ・・ここはどこだっけ。天国?)
昨夜は確かにただの暗闇だったベッドからの視界は、
夜がほどけてお釈迦様が迎えに来そうな風景が立ち上がる。

魔法はまだ解けてないみたいだ。


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