マガジンのカバー画像

小説

96
運営しているクリエイター

2022年5月の記事一覧

SS『街路樹と換気扇』

SS『街路樹と換気扇』

 空回りする換気扇を眺めていた。風に吹かれて回るだけの存在はもう何十年もそこにいるらしい。粉のような雪が申し訳程度に降っている。久しぶりにここら辺で降ってみようか、なんて思っているかのように少しずつ、微かに舞っている。
 

雀が小さな鉢に植えられたというのに大きく育ってしまった何らかの木に留まった。私にとってそれがなんの木であるかは関係ない。ただ、そこには木があって、窮屈そうに生えているのが心地

もっとみる
SS『私と共に生きるもの』

SS『私と共に生きるもの』

前作『校舎はどこかに繋がる』で【暴風】というお題でコラボさせて頂きましたkiiさんの絵の作品に小説をつけさせて貰いました。

「誰が初めに言ったのだろうね、桜の木の下には死体が埋まってるだなんて」

 先生はテスト中に外を見てそっと呟いた。窓際最前列の席の私にしか聞こえないようなその優しい声は、体育科の先生とは思えないものだった。

 数学をカリカリと解く空間は、嫌悪感と諦めで満たされている。これ

もっとみる
SS『校舎はどこかに繋がる』

SS『校舎はどこかに繋がる』

【お題『暴風』】

 風が止んだのはその一瞬だけだった。君は笑っていた。窓際で僕を見てる。
 臨時休校になった校舎の中で、僕は帰ることが出来なかった。雨にも負けず一生懸命登校したというのに、社会は無慈悲に到着してから休校を告げる。
 ローファーの中は水没していて、僕は歩く度に水たまりを作る。
 帰ればいい。
 帰ればいいのだけど、来た時よりも強くなった雨と風の中を疲れ果てた体で駆け抜けることが出来

もっとみる