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千草に心寄せて

ぼくらは意外と草花の名前を知りません。
でもぼくらが目にする草花は
みんな名前が付いています。

「雑草という草はない」
これは昭和天皇の侍従をされていた入江相政が
編まれた『宮中侍従物語』にて紹介している
昭和天皇のお言葉です。
あまりにも有名になった言葉なので
ご存知の方も多いと思います。
ただこのフレーズだけではメッセージの
端緒に触れたに過ぎません。

「雑草という草はないんですよ。
 どの草にも名前はあるんです。
 そしてどの植物にも名前があって、
 それぞれ自分の好きな場所を選んで
 生を営んでいるんです。
 人間の一方的な考えで、
 これを切って掃除してはいけませんよ」

名もないように思っている草にも名前はあり、
名前があるということは命があります。
命があるならば、命どおりに生きる場所を
選び、そこで生を営んでいます。
「命どおりに生きる」
そのことに心寄せることこそ大切なことなのです。

草花もまた同じですね。
名も知らず、気にもかけなければ、
見過ごしてしまいそうな野の花は
身の廻りにもたくさんあります。
秋にもなれば、道端や野山にもひっそりと咲く
小さな花を見かけます。

「千草」とは名も知らないような草花を含めた
総称として使われます。
名前はあっても知らない草花を称する時に
「千草」という言葉を用いるのは、
古(いにしえ)からの知恵なのかもしれません。

雑草と片付けるより、千草として心を寄せる。
そこには小さな命の尊さや健気さ、
逞しさ、眩しさが見てとれます。
おそらく、きっと人間も同じではないでしょうか。

どんな人にも名前はあり、命がある。
名前を蔑ろにする人は、
命も軽く扱う人だと私は思います。


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