平野共余子

東京生まれ。1979年よりニューヨーク大学映画研究科に留学、88年博士号修得

平野共余子

東京生まれ。1979年よりニューヨーク大学映画研究科に留学、88年博士号修得

マガジン

  • 『アンコウになって、闇より帰還』平野共余子のNY映画通信

    平野共余子のNY映画通信 ※このコラムは、旧新宿書房のホームページに記載していた記事を、ホームページ終了を期にnoteに移行したものです。 (55)からはnote初出です。

記事一覧

(59)全てのこちら側の孤立

 今年(2024年)も旧ユーゴスラヴィア(以下、ユーゴ)地区の映画を大学キャンパスで上映するシネマ・(ポスト)ユーゴの季節となった。今回は東京大学文学部の「旧ソ…

平野共余子
2か月前

(58) ルーマニアの女性映画人たち

 今年で18回目となるルーマニア映画祭(Making Waves)が、ニューヨーク市マンハッタンの3ヶ所の映画館で開催され、8本の旧作や新作が紹介された。ルーマニア映画では…

平野共余子
5か月前
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(57) 新人とベテラン

今年で53回目を迎える新人監督特集(New Directors/New Films)は、毎年春にニューヨークのリンカーン・センターと近代美術館(MoMA)共催で上映される。アメリカにとって…

平野共余子
5か月前
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(56)東京国際映画祭に見る世界、そして歴史

 日本や米国から遠く離れた地の人々の生活を垣間見ることが出来る映画を、東京国際映画祭で見ることが出来る。第36回を迎える本年も、数々の国の現在と過去の時代のイメ…

平野共余子
9か月前
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(55)NY(ニューヨーク)映画祭に見るさまざまな日常

 今年(2023年)で61回目を迎えるNYで最大の映画イヴェント、NY映画祭がリンカーン・センターで9月末から10月初旬にかけて開催された。2月のベルリン、5月のカ…

平野共余子
9か月前
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(54)クロアチア、そしてマケドニア

[2023/7/22]  日が長くなって朝方も夕方も明るくなってくると、今年もシネマ・(ポスト)ユーゴの季節である。本年はクロアチア映画『クロアチア共和国憲法』を東京大…

平野共余子
9か月前
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(53)新人監督週間 2023

[2023/5/13]  毎年春、ニューヨークの二大映画上映団体、MoMA (近代美術館)とリンカーン・センターの共催する新人監督週間(New Directors/New Films)特集は、世界の…

平野共余子
9か月前
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(52)ルーマニア映画祭で考える権力と個人

[2023/4/29]  私が毎年楽しみにしているニューヨークのルーマニア映画祭(Making Waves: New Romanian Cinema NYC、詳細はこちら)は本年(2023年)17周年を迎えた。こ…

平野共余子
9か月前
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(51)東京国際映画祭

[2022/12/3] 本年(2022年)も、東京国際映画祭で世界各地からの映画を見ることが出来た。 人生のクリーム  処女作『ビフォア・ザ・レイン(Pred doždot/Before the …

平野共余子
9か月前

(50)トランシルヴァニア、ポーランド、スーダン

[2022/11/5]  夏が終わりNY(ニューヨーク)の秋の風が心地よく感じられるようになると、今年(2022年)もNY映画祭の季節だ。今回60周年となる本映画祭。日本のテレビ…

平野共余子
9か月前
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(49)クロアチア、1941年

[2022/7/30]  今年もシネマ・(ポスト)ユーゴの季節となった。旧ユーゴスラヴィア地区の映画を東京の3、4の大学キャンパスで解説と討論付きで上映しているシネマ・…

平野共余子
9か月前
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(48)ルーマニア映画のお家芸

[2022/4/16]  ニューヨークで毎年開催されるルーマニア映画祭「Making Waves(波を作る)」(詳細はこちら)が、郊外のジェイコブ・バーンズ・フィルム・センターのオ…

平野共余子
9か月前

(47)私と岩波ホール

[2022/1/28]  新年(2022年)になって程なく、衝撃的ニュースが入って来た。東京の本の町、神保町でミニ・シアターの先駆けとして親しまれてきた岩波ホールが、54年の…

平野共余子
9か月前
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(46)コソボ、韓国、カザフスタン

[2021/11/27] 女性は闘う  第34回となる本年(2021年)の東京国際映画祭では、コソボのカルトリナ・クラスニチ監督の初長編作『ヴェラは海の夢を見る(Vera Dreams of …

平野共余子
9か月前
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(45)ルーマニア、ジョージア、そしてオセチア

[2021/11/6]  昨年2020年はコロナ感染流行のためオンラインとドライブイン上映のみであった恒例のニューヨーク映画祭、59回目の今年(2021)は劇場上映に戻って安心し…

平野共余子
9か月前
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(44)ジェーモ、そしてアイダ

[2021/7/17]  旧ユーゴスラヴィア地区の映画を東京のいくつかの大学で上映する〈シネマ・ユーゴ〉。昨年(2020年)はコロナ禍のため、6月に東京大学文学部の「スラヴ…

平野共余子
9か月前
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(59)全てのこちら側の孤立

(59)全てのこちら側の孤立

 今年(2024年)も旧ユーゴスラヴィア(以下、ユーゴ)地区の映画を大学キャンパスで上映するシネマ・(ポスト)ユーゴの季節となった。今回は東京大学文学部の「旧ソ連と東ヨーロッパの文学と映画」の授業の一環として、セルビアのミラ・トゥライリッチ監督の『すべての向こう側(Draga Strana Svega The Other Side of Everything)』(2017年、セルビア・フランス・カ

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(58) ルーマニアの女性映画人たち

(58) ルーマニアの女性映画人たち

 今年で18回目となるルーマニア映画祭(Making Waves)が、ニューヨーク市マンハッタンの3ヶ所の映画館で開催され、8本の旧作や新作が紹介された。ルーマニア映画ではないが国境を接するウクライナの作家ミハイル・コチュビンスキ原作、今年生誕100周年となるジョージア(グルージア)生まれのアルメニア人監督セルゲイ・パラジャノフが映画化した『忘れられた祖先の影』(1964)も上映された。

革命時

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(57) 新人とベテラン

(57) 新人とベテラン

今年で53回目を迎える新人監督特集(New Directors/New Films)は、毎年春にニューヨークのリンカーン・センターと近代美術館(MoMA)共催で上映される。アメリカにとって馴染みのない新しい監督を紹介する本特集では、過去にスパイク・リー、ペドロ・アルモドヴァル、ジャ・ジャンクー、ウォン・カーウエイ、また日本からは森田芳光、原一男、高嶺剛、濱口竜介等が紹介されて来た。
 本年度の上映

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(56)東京国際映画祭に見る世界、そして歴史

(56)東京国際映画祭に見る世界、そして歴史

 日本や米国から遠く離れた地の人々の生活を垣間見ることが出来る映画を、東京国際映画祭で見ることが出来る。第36回を迎える本年も、数々の国の現在と過去の時代のイメージを享受することが出来た。

『マディーナ (Madina)』

 煌びやかで派手な化粧と衣装をつけたダンサーたちの顔のクローズアップで始まる本作。ヒロイン、マディーナはナイト・クラブのダンサーかと思いきや、昼間はダンス教室や話し方教室の

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(55)NY(ニューヨーク)映画祭に見るさまざまな日常

(55)NY(ニューヨーク)映画祭に見るさまざまな日常

 今年(2023年)で61回目を迎えるNYで最大の映画イヴェント、NY映画祭がリンカーン・センターで9月末から10月初旬にかけて開催された。2月のベルリン、5月のカンヌ、8月末からのヴェネツイア映画祭などで話題になった作品を初め、アメリカの新作やドキュメンタリー、実験的映画も紹介される多彩な内容である。
 NY映画祭の魅力は日本でもあまり紹介されることのない世界各地からの映像が楽しめることである。

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(54)クロアチア、そしてマケドニア

(54)クロアチア、そしてマケドニア

[2023/7/22]

 日が長くなって朝方も夕方も明るくなってくると、今年もシネマ・(ポスト)ユーゴの季節である。本年はクロアチア映画『クロアチア共和国憲法』を東京大学本郷キャンパス文学部の「旧ソ連・東欧の映像と文学」の授業の一環として、また北マケドニア映画『柳』を東洋英和女学院大学生涯学習センター25周年記念事業第一弾として上映した。

差別にどう向き会うか

『クロアチア共和国憲法(Ust

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(53)新人監督週間 2023

(53)新人監督週間 2023

[2023/5/13]

 毎年春、ニューヨークの二大映画上映団体、MoMA (近代美術館)とリンカーン・センターの共催する新人監督週間(New Directors/New Films)特集は、世界の新人監督を紹介するもので、今年(2023年)で52回目を迎える。この特集からスパイク・リー、ウォン・カーウァイ、ミヒャエル・ハネケ、ジャ・ジャンクー、ギレルモ・デル・トロ、森田芳光、濱口竜介などがデビ

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(52)ルーマニア映画祭で考える権力と個人

(52)ルーマニア映画祭で考える権力と個人

[2023/4/29]

 私が毎年楽しみにしているニューヨークのルーマニア映画祭(Making Waves: New Romanian Cinema NYC、詳細はこちら)は本年(2023年)17周年を迎えた。ここ数年、NY郊外の劇場とオンライン上映の組み合わせだったが、今回初めてマンハッタン南部の4つのアート系劇場を会場として、7本の新作とデジタル修復された古典作品『樫の木』(1992年、ルシ

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(51)東京国際映画祭

(51)東京国際映画祭

[2022/12/3]

本年(2022年)も、東京国際映画祭で世界各地からの映画を見ることが出来た。

人生のクリーム

 処女作『ビフォア・ザ・レイン(Pred doždot/Before the Rain)』でベネツィア映画祭の最高賞、ゴールデン・ライオンを獲得し1994年鮮烈なデビューをした北マケドニア(当時はマケドニア)のミルチョ・マンチェフスキ。1959年北マケドニアの首都スコピエに生

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(50)トランシルヴァニア、ポーランド、スーダン

(50)トランシルヴァニア、ポーランド、スーダン

[2022/11/5]

 夏が終わりNY(ニューヨーク)の秋の風が心地よく感じられるようになると、今年(2022年)もNY映画祭の季節だ。今回60周年となる本映画祭。日本のテレビ局からの依頼で私が1983年に最初に取材してから、あっという間に39回目となった。私もフルタイムの仕事が忙しかった1980年代末から2000年半ばまでは、なかなか見に行けない年もあったが、時には休暇を取ってでも映画祭に行

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(49)クロアチア、1941年

(49)クロアチア、1941年

[2022/7/30]

 今年もシネマ・(ポスト)ユーゴの季節となった。旧ユーゴスラヴィア地区の映画を東京の3、4の大学キャンパスで解説と討論付きで上映しているシネマ・(ポスト)ユーゴは、東京在住の旧ユーゴ出身者や日本人の研究者のグループにより、毎年6月に開催している。2020年からはコロナ禍で東京大学文学部の「旧ソ連・東欧の映像と文学」のコースに組み込んで頂くことで1本しか上映できていなかった

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(48)ルーマニア映画のお家芸

(48)ルーマニア映画のお家芸

[2022/4/16]

 ニューヨークで毎年開催されるルーマニア映画祭「Making Waves(波を作る)」(詳細はこちら)が、郊外のジェイコブ・バーンズ・フィルム・センターのオンライン上映プログラムとして本年(2022年)3月末に開催された。昨年(2021年)末、本会場で劇場上映された2本の劇映画を含む、9本の長編映画と9本の短編映画特集である。毎年たとえ1作品でも必ず観てきた私は、今回でも

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(47)私と岩波ホール

(47)私と岩波ホール

[2022/1/28]

 新年(2022年)になって程なく、衝撃的ニュースが入って来た。東京の本の町、神保町でミニ・シアターの先駆けとして親しまれてきた岩波ホールが、54年の歴史を閉じ本年7月末で閉館とある。世界65カ国、271本の映画を上映して来たが、コロナ禍で運営が困難になったそうだ。
 私は学生時代から岩波ホールの映画上映を当たり前のように過ごしてきた半世紀だったので、岩波ホールのない生活

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(46)コソボ、韓国、カザフスタン

(46)コソボ、韓国、カザフスタン

[2021/11/27]

女性は闘う

 第34回となる本年(2021年)の東京国際映画祭では、コソボのカルトリナ・クラスニチ監督の初長編作『ヴェラは海の夢を見る(Vera Dreams of the Sea/era Andrron Detin)』が、コンペティション部門のグランプリを受賞した。

孫もいる中年女性ヴェラがヒロインというのも、商業的にみれば勇気ある企画だと思う。本作は彼女が夫の死

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(45)ルーマニア、ジョージア、そしてオセチア

(45)ルーマニア、ジョージア、そしてオセチア

[2021/11/6]

 昨年2020年はコロナ感染流行のためオンラインとドライブイン上映のみであった恒例のニューヨーク映画祭、59回目の今年(2021)は劇場上映に戻って安心した。世界から厳選された32作品が上映されたメイン部門のほか、話題作や実験映画、修復された古典上映部門もあり、数多くの映画を見ることができた。その中で印象に残ったのはメイン部門のルーマニア映画2本とジョージア、その隣国の北

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(44)ジェーモ、そしてアイダ

(44)ジェーモ、そしてアイダ

[2021/7/17]

 旧ユーゴスラヴィア地区の映画を東京のいくつかの大学で上映する〈シネマ・ユーゴ〉。昨年(2020年)はコロナ禍のため、6月に東京大学文学部の「スラヴの文学と映像」のオンライン授業の一環として、セルビアの62分のドキュメンタリー『モニュメント』(Umetnost sećanja) (2019)を上映し、若手女性監督イェレナ・ラデノヴィッチとズームを通じて討論するプログラムの

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